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14話「210㎡のお部屋内の防火戸」

原因は たばこ不始末 主(あるじ)死亡 防火設備が 作動せぬまま

 Aさんご本人のたばこの不始末が原因とはいえ、火災によりAさんは亡くなったという痛ましい事例です。
本件は、あらゆる偶然な不幸が重なってしまいました。
 一般的に、マンションのお部屋内に防火戸があるというのは、ごくごくまれです。共用部の廊下には防火戸は設置されますが、今回火災が起きた部屋は、床面積約210㎡という、大変広い特殊な部屋でした。誰もが羨む5億超えのセレブが住む部屋ですが、その特殊性ゆえに、延焼を防止するために、防火戸はお部屋内に設置されました。

さらに、Y1は防火戸の電源スイッチが切られた状態でAに引き渡していました。防火戸というのは、火災時に自動的に閉じて区画を区切り延焼を防止するようになっています。電源が切られていては、閉じませんから、全く意味がありません。

また、防火戸の電源スイッチは、室内納戸の壁に設置されていましたが、ふたがねじで固定された連動制御器の中にあったため、その存在が一見して明らかとはいえない造りになっていました。Aさんも電源スイッチの存在自体を気付くことはなかったことでしょう。

そして、「防火戸は、火災に際し、防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものである」ところ、Y1・Y2は、A・Xに対し、防火戸の電源スイッチの位置、操作方法等につき全く説明していませんでした(※)。

加えて、私が不幸が重なったと感じたのは、火災が起きたタイミングです。802号室は平成12年4月に引き渡され、入居直後の同年10月に火災が発生しました。消防法により、半年に1回の消防設備点検が義務付けられていますが、もし802号室に点検が実施されていれば、消防設備業者が、防火戸の電源スイッチが切られていることに気づけた可能性が高いと思います。しかし、おそらく、その点検が実施される前に火災は起きてしまいました。Aさんは、5億円超のマンションにたった半年しか住まないで、火災により亡くなってしまいました。

 さて、最高裁は、「802号室は、防火戸の電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたものであり、売買の目的物に隠れた瑕疵があった。したがって、Y1は、売主の瑕疵担保責任として、防火戸が作動しなかったことと相当因果関係のある損害について賠償すべき責任を負う」とした原審の判断を維持しています。

 平成29年に民法が改正され、瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わりました。売主の責任は、「隠れた瑕疵」ではなく、契約において定めた品質を伴っていなかったり、数量が不足するなどといった、契約の内容に適合しないことについての責任として、見直されています。つまり、改正により、売主の責任は重くなりました。

本件で言えば、「防火戸の電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたもの」は、「契約において定めた品質を伴っていないもの」として、売主に責任が問われます。

 売主は、人の生命に関わるような設備については特に、買主に対して、正確丁寧な説明義務が求められると言えます。

※)私は、過去に2年間ほど、新築分譲マンションの内覧会のアテンド業務に従事していました。内覧会では、設備機器の操作説明の他、避難経路や防災倉庫の位置なども説明していました。

今回の事例のように、特別仕様の広いお部屋はたいてい最上階にあり、私のようなアテンド担当者の他に、施工会社担当者、営業担当者など、複数の人間が連携してVIP対応していました。この部屋だけの特殊仕様だけに、アテンド担当者や営業担当者は、防火戸の電源スイッチについては見落とす可能性はありえます。かりに存在を把握していたとしても、スイッチはオンの状態であるものと思っていた可能性は高いです。よって、実際の施工を担当した、施工会社の担当者が引き渡し前のチェック及び、買主に対する説明が欠けていたのが問題だったのではと、私の現場の経験からは想像しました。

最高裁平成17年9月16日判決

[参考文献]
桑岡和久『マンション判例百選』20頁

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