年下バンドマンとの一夜
私が後悔しているセックスの中でも3本指に入る「年下バンドマン」のお話は、今から10年以上前に遡る。
某SNSから、共通の音楽の趣味を通してというおなじみのパターンで釣れた年下バンドマン、水野くん(仮名)は、顔が某バンドボーカルに激似の塩顔イケメンだった。
やれどのバンドのあの曲が最高だとか、ライブのモッシュでもみくちゃになってどうとか、バンド好きあるあるな会話を繰り広げているうちに会ってみようという話になった。
ここまではいつも通りだし、ある意味ここからもいつも通りだ。
私は水野くんの住む町に電車で向かうこと1時間、色素も顔も薄いイケメン風の男が現れた。
駅に着き会ってすぐ「家近いから行こう」と誘われ、「あ、これセックスするやつか」と空気を読んだ私は断ることもせずそのまま家に行った。
男の一人暮らしらしく、部屋はゴチャっとしていて「いや、家に呼ぶ気だったなら片づけとけや」と半ば怒りにも似た気持ちで家に上がった。
足の踏み場を探りつつ、座れそうな場所に腰を下ろした。
計画的なのか何なのかそこは敷布団の上だった。
適当な雑談をしていると、水野くんは
「ちょっとこれ聞いてみて」
とおもむろにヘッドフォンを渡してきた。
なんだなんだ好きなバンドの紹介ってか?
ヘッドフォンを付けてみると、なにやら曲が聴こえてくる。
全く聴いたことのない曲を数十秒ほど聴いていると
「どう?これ俺のバンドの曲なんだ」
先に言ってほしかった。
危うく微妙というコメントをかますところだった。
私は音楽プロデューサーでもないし、そもそも好きなアーティストも割とメジャーなところでコアなバンドのファンでもない。
そんな私に聴かせたところで「Bメロのところ?音イイね」みたいな言葉が飛び出すわけもない。
とりあえずリズムに乗るように頭を小さく振っておいた。
しばらくすると今度はギターを持ち出し弾き始めた。
万が一にも水野くんのバンドのファンならよだれを出して喜ぶのかもしれないが、私は小汚い部屋に若干怒りすら覚えた女だ。
喜ぶどころか困惑することしかできない。
そんな私に構わずギターを弾き続け、しまいには
「歌って?」
と言い出した。
セッションしちゃうの?
セックスじゃなくて?
この状況が恥ずかしいやらいたたまれないやら、とにかく帰りたい気持ちでいっぱいになった。
そう思いつつも帰れる状況ではないので、とりあえず知ってる曲に変えてもらって水野くんの望み通り歌ってあげた。上手いと褒められた。
ギターと私の歌声のセッションに満足したのか、雰囲気は一気にセックスという名の男女の身体のセッションに向かい始めた。
いきなりかよとも思ったが、むしろ本題はこれからだろう。
男女のセッションが始まり、滞りなくことが進んでいくと、水野くんは「口でしてくれない?」とおもむろに下半身を差し出してきた。
ここからは皆さんの想像力を駆使して頂きたいのだが、まず頭に思い浮かべて頂きたいのが膝立ちの姿勢。
そして河村隆一。
膝立ちの姿勢で、両手を後ろの床につけるような体勢と言ったらわかるだろうか。
このとき腰を引っ込めてはいけない。
骨盤を前に突き出すような形で、大サビを歌い上げた河村隆一を意識して頂きたい。ジョジョでもいい。
これが目の前に出現した。
さあ!と言わんばかりにちんこを差し出され、またしても困惑してしまった。
しかしここで引き下がっては私じゃない。
そんな使命感から私は水野くんの期待に応えることにした。
水野くんは姿勢はそのままに気持ちよさに浸っていたようだった。
逆に辛くないのかな?とも思ったが放っておいた。
その後は至って普通にセックスし、特にこれといった感情も抱かぬままその日を終えた。
強いて言うなら「部屋が汚くて嫌」というくらいだろうか。
翌日、あまりその部屋に居座りたくない私は早々に帰ることを伝え、家をあとにした。
友人と遊ぶけど来る?と誘われたが、嫌な予感しかしないので断った。
最寄りの駅まで送ってくれることもせず、特になんの感情もないところから最悪な年下バンドマンという印象で全てが終わった。
後日「また会いたい」とメールをもらったが、私がすかさず「またやりたいの間違いでは?」と送ったきり音沙汰がなくなったので、きっと図星だったのだろう。
かくして年下バンドマンとの一夜は幕を閉じるのだが、これを経て私が学んだことと言えば「部屋が汚いとセックス中気が散る」ということだった。
あと、好きじゃない人とのセックスはするものじゃない。
せめて「イケメン!ときめき!」くらいの盛り上がりがないと損した気分になる。
そんな当たり前の教訓を胸に刻みつつ、あまり成長をしない私はその後も他の男に簡単に股を開くのであった。ちゃんちゃん。