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今すぐ乳首の毛を抜け

私は20代前半の頃、とある飲食チェーン店でバイトをしていた。

バイト仲間はみんな同年代で、恋愛のいざこざなどは日常茶飯事の様に起きていた。



私は店長(男)と仲が良く、休憩時間になるとよく恋愛話を聞いてもらっていた。

この店長には恋愛感情を抱くことは一切なく、だからこそなのか本当に赤裸々に自分の話をしていたと思う。


店長はと言えば、顔はイケメンだしそこそこモテるのに、選り好みしていたのか彼女がいない状態が数年続いていた。


お店に来るお客さんにそれらしい雰囲気で声をかけられることもあったが、どうも発展しないことの方が多いようだった。




そんな店長に、ひとりのスタッフが恋をした。




私より2年程後に入った後輩サワダ(仮名)だ。




サワダは某女子アナウンサーに似ており、男性が好きそうなムチムチ系のEカップの持ち主だ。

これだけなら男が放っておくわけがないのだが、サワダには長らく彼氏がいないとのことだった。



なんで?と思われるかもしれないが、何年か一緒に働いていた私からすれば納得の結果である。




サワダは、なんというか全体的に湿っぽいのだ。





口癖は「私なんて」、

笑い声は「グホホ」、


極めつけは口が臭い。





口が臭いはもはやただの悪口だが、私は行き過ぎたネガティブが苦手なのだ。


というか、ネガティブが過ぎる人間を好きになる人間のほうが少ないと思う。




人間だから、落ち込むことのひとつやふたつあるのも当然だろう。


しかし、サワダはなにかにつけて「どうせ私なんて」とすぐに自分を卑下にし、「私鬱かもしれないです」と大げさに自分の落ち込みを表現した。



はっきり言ってうざいの一言である。




そんなうざいサワダが、どうやら店長のことを好きらしい。







おもしろくなってきた。


ここはひとまず静観して状況の動きをみたいところだ。



このサワダの恋心が発覚したのは、季節でいうと冬の初めくらいだった。



クリスマスをどう過ごすかでソワソワし、恋するサワダは私に相談を持ち掛けてきた。






「練乳さんて店長と仲良いじゃないですか!どうやって誘ったらいいと思います?」







いや知らん。

知らんけどそう言ったらこれは終わってしまうので、適当になにか答えておいた。


サワダにはそんな答えも後押しになったのか「頑張ってみます」と言っていた。





恋するサワダというフィルターを通してみると、バイトが一段と楽しくなった。


そういえばやたら店長が居るバックルームに行きたがるし、休憩が被ったときは嬉しそうにしている。

心なしかバイトへのやる気も上がったように見える。



店長がサワダをいじるような発言をすると、サワダはグホホではなく「も~やだ~!ほんと最低~!」と言って笑い、ものすごく嬉しそうにしていた。






サワダが楽しみにしていたクリスマスを迎えた。

25日当日、私は休みだったが、サワダも店長も出勤していた。


終わってからごはんでも行ったかな?と勝手に予想を立てていたが、後日衝撃の事実を聞くことになった。






クリスマスが終わって翌日、私はサワダと休憩が被った。


シフト表で休憩時間を確認したときから、サワダがソワソワした感じで私を見ていたので、これはなにかあったんだなと悟った。






休憩時間に、誰もいないことを確認し「クリスマスどうだった?」と聞いてみた。




「実は、最後までではないんですけど色々しちゃって、でも付き合うとかそういう話はしてなくて…」






お前は私か。


付き合ってないけどしちゃうとか私か。



しかも最後までしてないけどってなに?そんなことある?



入らないほど店長のちんちん大きかったの?なんなの?







「実はアノ日だったので…」






凡ミスかよ。


勇気出す日間違っちゃってるよ。


ちんちん入らないんじゃなくてちんちん入れられない状況なだけじゃねーかよ。





そんで結局付き合ってないってもうそれなによ。

ペッティングフレンド?ペフレ?




サワダ曰く

「同じ職場だしすぐに付き合うとかそういうのは考えられないらしくて…」




じゃあやるなよ。

店長やっちゃだめなやつよそれ。


ひとりのスタッフもてあそんでどうすんのよ。




とはいえ二人とも大人の男女。


サワダも付き合う話をすっとばしてペッティングをしているのでお互い様だ。




というか、店長はサワダに欲情したという事実が一番奇怪だった。





この手の話は関わるとややこしくなるので、とりあえず聞き役に徹し「協力も応援もする気はないけど、周りに変な影響さえ与えなきゃいいんじゃ?」とまとめておいた。


サワダは納得したように「そうですよね!またなにかあったら報告っさせてください!」と言った。











そこから数日後、私の元に一本の電話が入った。


店長だ。



シフト変更かな何かかと思い電話に出ると

「あ~、仕事のことじゃないんだけど」

とモソモソ話始めた。




「あの話、聞いたでしょ?」





そう、あの話とはサワダとの一夜のことである。


どうやらサワダは、私に話したことを店長に言ってしまったらしい。


バカなのか。



店長は「変な話聞かせてごめん」と言って、店長サイドのストーリーを語りだした。





クリスマス当日、仕事が終わるとサワダにごはんに誘われた。


その時点では思うところは特になかったらしいのだが、サワダが一向に帰ろうとしないので色々察したのだという。

そして店長宅に行き、そういうことになったと。






そうかそうかと話を聞き、私はサワダに言ったような「二人とも大人なので…」ということと「他スタッフに口外しないのでご安心を」と伝えた。







付き合うのも時間の問題か。

なんとなくだが、店長にはもっと似合う女性と付き合ってほしかったなどという勝手な願望もありつつ、二人の行く末を突かず離れずで観察していた。






年が明けた頃、サワダが暗そうな表情で私に話しかけてきた。


「私、もうダメかもしれません…」





話を聞くと、どうやらフラれたらしい。


そして、その原因はどうやら多少私に関わっているとか。




サワダ曰く「私店長に練乳さんに話したってこと言ったんです、そしたらそこから急に冷たくなって…」



いやそれ私のせいじゃねえ。


私の名前は上がってるけど、完全に原因はサワダの口の軽さだ。




「誰かに聞いて欲しい気持ちはわかるけど、わざわざ社内の人間に話したのもあれだし、それを俺に聞かされてもどうして欲しいのか意味がわからない」


と怒られたらしい。




そらそうだ。



そら店長の言う通り。




こんなことされたってわかったら、周りを固められた感じもするだろうし、まぁ単純に嫌だろう。





「悪いけど信用できないから、今後の可能性も考えられない」





サワダ、惨敗である。






私が口を滑らせて「店長ってばサワダとペッティングしたんだって?」とでも言われると思ったのだろうか?


誰かに聞いて欲しい気持ちがあらぬ方向に行ってしまったのか?




なんにせよ、もうダメになってしまった事実は消せない。




サワダよ、次に期待だ。





合コンをセッティングするとかなんとか言って、サワダを適当に慰めた。


サワダは泣いていた。







1月も半ばを過ぎた頃、店長が急に「なぜあの日ペッティングで終わったか」を私に話し始めた。


「ちなみになんでだと思う?」


と聞かれたので、サワダから聞いていた通り「アノ日だったから」と答えた。




しかし「それが実はそうじゃないんだよ」と店長は言った。





店長が言うには、別の理由があるらしい。




私は当ててやるぞとばかりに

「口臭のきつさ」「陰毛の具合」「ムダ毛処理の甘さ」

などのワードを並べてみた。


店長は「違う!」「惜しい!」などと盛り上がっていた。




そうして辿り着いた答えは「乳首から生えた毛」だった。







好きな男と過ごす為、勇気を出して「帰りたくない…」のコマンドを繰り出したサワダは、なんと乳首から毛が生えていたというのだ。




確かにこれでは萎えるだろう。




剃り残しはやっかいだが、乳首に生える毛くらいならなんとか出来たはずだろう。




ビジュアル的にも激萎えしたそうだが、そのなんとかしようとしなかったサワダの心意気にがっかりしたと言う。



ついでに靴下に穴も開いていたそうだ。






サワダは「アノ日で…」と言っていたけど、本当は乳首から生える毛が原因だった。






衝撃の真実に私は爆笑した。


そして、店長を慰めておいた。







こういった話になると、どうしても好きになられた側が「気持ちを利用したずるい人」になりやすい。


しかし、この二人の関係においてはそういうわけではなさそうだということがわかった。




店長は店長なりに努力し、サワダと向き合ったのだろう。



その結果、ペッティングを1回しただけで終わったというだけのことだと思う。




真実を知らないサワダは、幸せ者だったのかもしれない。






この話を聞いて、チャンスが目の前に落ちていても迂闊に飛びついてはいけないなと考えた。



意中の異性がいる皆さんは、ぜひ自分のあらぬ場所から毛が生えていないか、今一度チェックをして好きな人とのデートに挑んで頂きたいと思う。

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