デザイン会社への就職活動 〜ポートフォリオを紐解く vol.1 〜
コンセントの新卒採用では、学生時代に学んできたこと、強みや個性も多様な方々からの応募、入社があります。就職活動の仕方や考え方も人それぞれです。「デザイン会社への就職活動」企画では、そんな色とりどりの就職活動の一端を紹介していきます。
今回は、選考時の自己PR資料として「ポートフォリオ」を活用した社員に、自身のポートフォリオやその制作の裏話について聞いてみました。企業の視点では、コンセントの採用選考官は何に注目し、どんな点に惹かれたのか。
Vol.1は、Product Design groupの嶋田幸乃と、Communication Design groupの髙橋裕子、人事担当役員の大岡旨成に話をしてもらいました。
嶋田は活用した応募者の視点で、髙橋と大岡は選考官としての視点で、「ポートフォリオ」を紐解いていきます。
自分らしさを伝え、一緒に働けることをイメージしてもらう
―― 選考時に提出したポートフォリオはどのように制作していったのですか?
嶋田 制作に取り掛かったのは2年次の冬頃です。学校授業の一環でポートフォリオをつくったのがはじまりでした。そこから、年次が上がるごとに作品を入れ替えたり、組版を変えたりしながらブラッシュアップしています。
―― 制作する際に意識したこと、工夫したことはありますか?
嶋田 ポートフォリオは「自分をプレゼンするもの」であるので、作品が目立って、かつ自分らしさが伝わるものになるよう意識しました。最終的には、写真と文字だけでかっちりまとめる感じが、私らしいと思ったので、このような形になっています。
具体的に工夫した点としては、仕事と選考を並行して行う多忙な選考官が、興味のあるものから見られるように目次をつくったり、作品の要点をまとめたりしました。また一緒に働く姿をイメージしてもらうために、いつ、どのくらいの期間でつくった作品か、学校の課題か自主制作か、グループワークであれば自分の役割も記載しました。
―― コンセント(選考官)の視点から、嶋田さんのポートフォリオはどう見えましたか?
髙橋 「嶋田さんらしい」というポイントがドンピシャで伝わってくるものでした。印象的なのは余白の取り方。写真のダイナミックさにもこだわりを感じました。書体づかいや、見出しなど、ポートフォリオ全体がまとう空気が強く印象に残っています。
本文も解説としてしっかり書いていて、その精査もよく考えられていると思います。量がそれなりにあるので、読むのは正直大変とも思ってしまいますが、それでも読ませる力が見出しにあります。見出しで魅せて、本文を読ませる流れがきちんとできていると思いました。
大岡 僕は、すぐに現場で活躍できるなと思いました。作品の順番や見出しの立て方がすごくうまい。見て欲しいポイントがわかりやすい。例えば、見出しの言葉遣い、「『市場が確立されていない』からこそユーザーに合わせた丁寧な情報提供を」は、ビジネスで企画書をつくるときの言葉の使い方にかなり近いと思います。授業の課題が実践的なものだったから?
嶋田 そうですね。私が通っていた学校では、産学連携のプロジェクトに力を入れていました。それゆえ、クライアントへの提案書に書いた内容を、より言葉を洗練させていく形でポートフォリオに落とし込むことが多かったです。
大岡さんが言及してくださったプロジェクトは、「既存のウェブサイトをかっこいい見た目にリニューアルしたい」という要望をクライアントからいただいていました。しかし調査を行ううちに、サイトが閲覧されない理由は他にあることがわかり、提案がクライアントの要望と少し異なるものになりました。そのため、クライアントが把握しきれていないユーザーの実態や、既存サイトの課題を丁寧に伝えつつ、提案を行ったという背景があります。
髙橋 写真表現で作品の良いところを伝える工夫も印象的です。例えば、「ソメイヨシノの日めくりカレンダー」では、アナログでないと伝わらない紙の質感やめくったときの体験を見せようとしている。実物を触れない環境の中でも、触ったときの紙の薄さや儚さが伝わってきます。デジタル、アナログのどちらにも目を配れる力を感じた部分です。
相手と状況に合わせて何を伝えるかを変える
―― 提出する企業ごとに工夫したポイントはありますか?
嶋田 企業ごとに作品の掲載順を変えていました。企業によって得意な分野やトンマナは異なると思います。なので、「企業が求めているものを私はつくれます」ということを見せるために、企業がデザイナーに任せたいであろう仕事と近いプロジェクトを前半にもって来るようにしました。例えばIT系の企業の場合は、アプリケーション開発や最新技術を使ったプロジェクトなどを優先して掲載しました。
大岡 コンセントの場合は何を意識していた?
嶋田 調査・分析〜制作まで一貫して行ったプロジェクトや、「そもそも」から考え、その検討過程も大切だったプロジェクトを優先的に掲載しています。コンセントの「伴走するデザイン」の考え方に共感していたので、自分もデザインに対して同じ考えであることをアピールしようと考えたためです。ポートフォリオの前半3つはすべてクライアントと伴走できたと思うプロジェクトになっています。
―― コンセントの面接ではポートフォリオを説明する場合がありますが、その時に意識していたことはありますか?
嶋田 ポートフォリオ自体、読み上げれば説明として事足りる状態にはしていましたが、さらにかいつまんで話すことは意識していました。話が長くならないようにして、細かいことは聞かれたら返すようにしていました。
大岡 限りある面接の時間の中で何を伝えるべきかを考えて、要点を捉えて話していくのは大事なことだと思います。そのコミュニケーションの力は面接で受ける印象に直結します。嶋田さんの場合はそれに加えて、話をしてみたら意外とガッツを感じたのが良いギャップでした。ポートフォリオを見る限りでは洗練されてシャープな印象でしたが、実は泥臭いこともやれる人。熱意をもって地味なこともやり切る力が伝わってきたのがすごく印象的でした。
―― 企業の立場で、コンセントが特に意識して見ているポイントはどこでしょうか?
髙橋 私はクリエイティブ(表現)を実践してきた学生の選考官として、特に表現力を観る立場なので、その観点でいうと大きくは3つですね。1つ目は造形。表現の基礎力を見ています。2つ目は切り口やコンセプト。その人の考えが見えるものです。どんな点に気づきを得て、どこが大事と感じているのか、その人らしい視点や新しさがあるかを観ています。3つ目は頭と手がつながっているかどうか。造形力は伸びゆくものなので完璧でなくても良いのですが、コンセプトと造形をつなげようとしているかは意識的に見ています。
大岡 読み手にプレゼンテーションしているかはすごく大事ですね。
例えば、ポートフォリオの1枚目で自己紹介をつくる人が多い。たった1枚ですがそこで何を描くかは重要です。その人のキャラが出る部分であるし、自分のことを知らない人に読ませようとしているかの意識が、レイアウトの仕方、フォント、簡潔にまとめられた文章表現に表れてくると思います。
改善できるところを常に模索し続ける
―― 今振り返って、自分のポートフォリオを採点するなら何点ですか?
嶋田 ポートフォリオを提出した当時から、100点でないことは確かです。デザインに正解はなく、突き詰めようと思えばいつまでもいじれてしまうため、結局はどこかで思い切って提出する形になります。なので、自分の作品に対して「まだやれた」と思ってしまうことはポートフォリオのみならずありますね。もしかしたらもっと良いまとめ方があったかも...。同じ内容で他の人がどうまとめるのかは、いつも気になります。
大岡 100点のもので仕上げるのは難しいですよね。僕らもこれ以上改善の余地がない完成形を求めている訳ではなくて、むしろ改善できるところを常に模索し続けることができるか、ということを気にしています。
―― 今であればこう工夫したい、改善したいと思うところはありますか?
嶋田 ポートフォリオがPDFの形式で見られることを考慮してつくりたいです。私が就職活動を始めたのはコロナ禍が始まったばかりのころで、企業側からのポートフォリオの提出要件が急にPDFに変わっていった時期でした。コンセントに提出したポートフォリオは元々、冊子用に作成したデータをPDF化したものです。そのため、文字サイズや文章量、ページ数、ページの振り方も冊子向けになっています。
髙橋 どんな形で読むのかで読み手の体験が変わりますね。製本やファイル形式など形はいろいろあります。状況次第ですが、実物を渡すことができるのであれば、紙や製本の仕方にこだわっても良いです。それは読んでもらうシーンや読み手の状態によって変えれば良いと思います。どんな形式であっても読み手を意識しているかが大事です。
[就職活動に臨む皆さんへ]
企業に選ばれるだけでなく、自分が選んでいるという意識をもつ
―― 嶋田さんの就職活動の経験から、今就活をしている皆さんへ伝えたいことはありますか?
嶋田 ポートフォリオの話からは少しズレてしまいますが、就職活動は「企業に選ばれている」だけではなく、自分も「企業を選んでいる」という点を意識すると良いと思います。面接官の話を絶対的なものとして受け止めるのではなく、自分自身の「あれ、ちょっと自分には合わないかも...??」という違和感を大事にしてほしいです。企業とのミスマッチを防ぐことができますし、「なぜ自分はそう感じたのか」を考えることは他社の選考を受ける上でも役立ちます。何より、精神的に余裕をもてる点が大きなメリットです。就活生のみなさんには、ぜひ健やかな就職活動を行っていただきたいと思います。
/ 登場人物:Product Design group UX/UIデザイナー 嶋田幸乃
学校法人専門学校東洋美術学校クリエイティブデザイン科高度コミュニケーションデザイン専攻卒業。在学中はタイポグラフィを基盤とし、紙媒体からウェブ、UXやUIなどさまざまな分野を幅広く学ぶ。2021年、コンセントに新卒入社。主にアプリケーションの開発・改善に携わる。
/ 登場人物:Communication Design group クリエイティブディレクター・コミュニケーションデザイナー 髙橋裕子
京都工芸繊維大学大学院修了。雑誌などの出版物のデザインをはじめ、企業・大学の広報物などでは企画面からの提案にも携わる。2012年から8年間、雑誌「オレンジページ」のアートディレクションを担当。現在は、ビジョン形成・ウェブ・映像・店舗のツールデザインなど、領域問わずコミュニケーションデザインに関わる。
/ 登場人物:Human Culture group 人事担当役員 大岡旨成
2003年株式会社コンセント入社、2010年より取締役を務める。人事、BtoB/BtoC分野のウェブ領域コンサルティング、ウェブガバナンス構築、プロジェクト設計・支援に携わる。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。
/ 執筆:Human Culture group 人事担当 浅野未空
2021年5月よりコンセントで人事を担当。これまでは金融、ベンチャー企業支援の業界でコンサルティング業務に従事。現在は自社の採用・人材開発戦略、組織制度設計などを担いながら、クライアントの人事課題解決の支援に携わる。