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「使われない生成AI」にしないためのDify

1. 生成AIが業務で使われない理由

多くの企業が、ChatGPTなどの登場をきっかけにAI導入のブームに乗りました。PoC(概念実証)を通じた試験導入も活発に行われ、一時は「これで業務が劇的に変わる!」と期待が高まりました。
しかし蓋を開けてみれば「実際に業務でほとんど使われていない」「コストをかけたわりに成果が見合わない」という声が多く聞かれます。せっかく導入した生成AIが活躍しないままになってしまう状況は、どうすればいいのでしょうか。

本記事では、「なぜ生成AIが思ったほど使われないのか」を掘り下げ、その打ち手として有効なDifyというツールをご紹介します。


2. チャット型UIへの依存と独自データの連携不足

生成AIを「導入してみたけれど期待ほど使われない」というケースは、単に利用者の意識や慣れの問題だけではありません。実は、生成AIがビジネス現場で使われにくい理由として、チャット型UIへの過度な依存と、企業内部で扱う社内独自データが大きく影響しています。

2-1. 現在の生成AI利用の多くはチャット型UI

チャット型UIとは、「ユーザーが質問を入力し、AIが回答する」という形式を指します。これだけでも便利なのですが、ビジネスの現場ではすでに固定化された業務フローや使い慣れたツールが存在します。そのため、チャット画面を開いて質問を入力するのが手間と感じてしまうと、だんだんと使われなくなってしまいます。

チャット型のUI

2-2. 社内独自データを参照できない

ChatGPTなど汎用的なAIサービスは、自社のWordファイルやPDF、データベースの情報を学習していないため、サービス情報などの自社独自の回答がほしいのに出てこないというジレンマが発生します。結局、資料を別途探す・インプットする必要があり、「AIは役に立たない」と敬遠されてしまうのです。

ChatGPTは2023年10月までの情報しか持っていない

2-3. 業務は情報の生成だけで終わらない

実際の業務フローは、回答を得た後に承認フローや他システムへの入力、社内報告など、いくつものステップが存在します。チャット型UIは「質問と回答」に特化しているため、後続処理は手作業となるケースが大半です。結果として、全体の効率化にはつながりにくいのです。

2-4. ハルシネーションのリスクと不透明な根拠

AIが誤った回答を自信満々に提示してしまう現象を「ハルシネーション(AIが誤った事実を確信的に話す現象)」と呼びます。企業は誤回答のリスクを恐れ、結果としてヒトによる二次チェックが必須になります。また、「どの根拠をもとに回答したのかわからない」ため、現場からの信用を失うパターンも少なくありません。


3. 実務には「複数ステップの自動化」と「社内データ参照」が鍵

実際の業務は単一のタスクではなく、業務の流れがあります。そのため、生成AIを活用したあとの、業務フローまで視野に入れた効率化が重要です。

  • 例)問い合わせ対応

    1. 社内データ検索

    2. 回答の作成

    3. 顧客へ通知

    4. システムへ記録

ChatGPTを利用することで回答の作成自体は可能ですが、このような連続した流れを自動化できないと、実際の省力化は限定的です。この現象に対して、私たちは点の最適化ではなく、線で最適化することが重要であるとお伝えしています。現状、ChatGPTだけの使用は、点の最適化を超えられないという課題を抱えています。
また、AIが正確に回答するためには、自社内のマニュアルや製品情報などを参照できる仕組みが欠かせません。社内文書を取り込まないと、どうしても曖昧な返答になりがちです。


4. チャットを超えた「Dify」という選択肢

ここで登場するのが、Difyというプラットフォームです。Difyはチャット型UIにとどまらず、 「複数ステップにまたがる業務フロー」「社内固有データの参照」を同時に解決します。

Difyはさまざまな生成AIやデータ、ツールを利用してAIアプリが簡単に作れるプラットフォーム

Dify(ディファイ):生成AIアプリを簡単に作成できるプラットフォームです。オープンソース(ソースコードが公開され、無償で改変できる仕組み)かつセルフホスト(自社のサーバー上で運用すること)に対応したAIアプリ開発プラットフォームです。RAG(Retrieval Augmented Generation:既存の社内文書を検索して回答の精度を高める仕組み)などを搭載し、ノーコード(プログラミング不要の仕組み)でワークフローも構築できます。

4-1. RAGで根拠ある回答を実現

Difyでは、PDF、Word、Markdownなどのドキュメントをアップロードし、AIに社内の製品情報を直接参照させることができます。回答の根拠となった文書や段落も提示されるため、ハルシネーションリスクが大幅に低減します。

参照しているナレッジの中身を目視で確認可能

4-2. ワークフロー機能でマルチステップの自動化

「ユーザーからの問い合わせ→データ検索→回答文書作成→通知→システム記録」といった一連の手順をノーコードで設定できます。チャットでやり取りするだけのAIとは違い、後続処理までまとめて自動化できるため、担当者の負担は激減します。

一連の手順をワークフローにしたアプリを作成できる

4-3. 定期実行や外部トリガーにも対応

チャット型AIは「ユーザーが質問しなければ何も動かない」ですが、Difyは特定のイベント発生時や定期スケジューリングによる実行が可能です。これにより例えば、「お問い合わせ発生時」「週次でのレポート自動作成」といった「向こうから動いてくれるAI」を実現できます。

4-4. ノーコード・ローコードで現場が自由に拡張

Difyはノーコード・ローコードツールなので、専門のITチームの大掛かりな開発を待たずに、現場の担当者が画面操作だけでフローを構築できます。そのため、小さなユースケースを試しつつ、現場が業務課題を特定から解決まで自走できるのが魅力です。

4-5. オープンソース&セルフホスト

Difyはオープンソースなので、自社専用のクラウド環境や社内の物理的なサーバー(オンプレミス)上でDifyを利用することができます。そのため、既存システムとの連携やカスタマイズがしやすく、さらにセルフホストによって機密情報を外部に出さずに運用でき、セキュリティの面でも安心です。


5. Dify導入の具体的な流れ

Difyは、チャット以上の生成AI活用を実現するためのプラットフォームとして非常に有効ですが、導入プロセスを誤ると、使われなくなるリスクは拭えません。そこで重要なのが、段階的に小さく始めて効果を確認しながらスケールアップするアプローチです。ここでは、Difyの導入ステップについて整理したうえで、どのように社内に波及させていくかを解説します。


1. チーム形成:Dify特化メンバーを少数精鋭で育成する

まずは、社内にDify導入を推進できる特化メンバーを育てる段階からスタートすることをおすすめします。

  • 自社で行う場合は、社内IT部門や有志のメンバーを集めて勉強会を実施。オープンソース版を試しながら機能を理解し、まずは「Difyを動かしてみるところ」から始めます。

  • 外部支援を活用する場合は、専門ベンダーによる研修やワークショップを通じて、Difyの基本機能やノーコードでワークフローを構築する手順を体系的に学ぶことができます。

いずれにせよ、少しでもDifyを扱える人が社内に存在している状態が非常に重要です。


2. ユースケースの選定・実装:小さなPoCからスタート

次に、具体的な業務でDifyを試すPoC (Proof of Concept, 概念実証)を行います。ここでのポイントは、「課題が明確で、成果が測定しやすいユースケース」を選ぶことです。これにより、Difyが自社に本当に合っているかどうかを検証することができます。

  • Dify特化メンバーが中心となって、ノーコード機能を使いながらワークフローやRAGの設定を行います。

  • ここでの目的はDifyが目的に合っているかを検証することなので、最小限の範囲から始めるのが成功のコツです。

  • 外部支援を活用する場合、Difyで本当に業務効率化できるという事実が短期間で得られるのがメリットです。

3. 効果検証:業務効率化&メンバー育成の両面で評価

PoCの目的は「効果検証」ですが、これは単に「どのくらい時間削減できたか」だけでなく、「社内メンバーがどの程度Difyを扱えるようになったか」も大切な指標になります。

  • 業務効率化の数値的効果:対応時間の削減、エラー率の低減、問い合わせ数の減少など

  • 人材育成の進捗:Dify特化メンバーのスキル向上度合い、ワークフロー構築ノウハウの社内共有度合い

このフェーズで、「業務効率化できるのか?」「どこまで自走できるのか?」をしっかり把握し、次のステップへ繋げるための改善を行います。


4. 成果共有・横展開:全社導入への布石

PoCで得られた成功事例や効果測定の結果を、社内で共有し、他部署へ展開していく段階です。

  • 事例発表会やデモを通じて、Difyがどれだけ役立つかを具体的にアピール

  • Dify特化メンバーが各部署をサポートしながら、同様の仕組みをセットアップ

  • 現場で新たなユースケースが生まれれば、再度PoC→効果検証のサイクルを回し、徐々に範囲を拡大

こうしたスモールスタートからの横展開によって、最終的には全社的なAX(AIトランスフォーメーション)へと加速させることが可能です。単発のPoC止まりで終わらず、人材・組織・業務プロセスが連動して「AIを使いこなす文化」を育むことが成功へのカギとなります。

6. Difyによって得られる効果

実際にDifyを導入すると、企業にどのような効果がもたらされるのかをまとめます。

  • チャットだけで終わらない業務効率化
    企業固有の文書をRAGで参照し、後続のワークフローまで自動化するため、AIでの抜本的な効率化が可能です。

  • 使われなくなる状況からの脱却
    定期実行や外部トリガーによって、向こうから動くAIを実現できます。

  • AI導入のハードルを下げ、PDCAを高速回転
    ノーコードで誰でもAIアプリを作成・改善できるため、大掛かりなプロジェクトを立ち上げなくても迅速に成果を得られます。

このように社内固有のナレッジを活用しながらマルチステップで自動化できる環境が整えば、担当者の負担を大きく軽減しながら高い付加価値を生み出すことができます。


7. おわりに:チャット型からワークフロー型へ

  • チャット型AIが使われなくなるのは必然
    質問がなければ動かず、社内データ参照も不十分、Q&A以上の処理が難しいです。

  • だからこそ、「チャット以上」を見据えたDify
    RAGで根拠ある回答をし、ワークフロー機能で多段ステップを一括自動化、定期実行やイベントトリガーで使われるAIに進化します。

Omlucでは、Difyの環境構築から研修、カスタマイズ開発まで幅広くサポートしております。
Dify導入にご興味がある方がいらっしゃいましたらお気軽にご相談ください。


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