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五輪組織委員会会長交代に学ぶ~ジェンダーギャップ指数

東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長が決定しました。就任直後に7年前のセクハラ報道が流れ、「前会長の影が見える」など、若干の不安を感じましたが、それを吹き飛ばすほどの堂々とした就任会見。

手のひらを返したように、「オリンピックを応援する気になった」なんて発言している知人もいて驚きました。

改めて問題提起になった、女性蔑視や日本人の古い考え方・・・私も、「低いのは知っている」程度であった「ジェンダーギャップ指数」について考えてみました。

少し長くなりますが、お付き合いください。

ジェンダーギャップ指数とは

「ジェンダーギャップ指数」は、世界経済フォーラム*が毎年発表している、男女平等度を表す指数です。

*世界経済フォーラム:1971年に設立された、官民両セクターの協力を通じて世界情勢の改善に取り組む国際機関。世界最高水準の研究体制で「競争力」「ジェンダーによる格差」「グローバルな情報技術」など世界の最重要問題について最新データを作成する

ウィキペディアで調べると

男女格差指数(Gender Gap Index : GGI)、ジェンダー・ギャップ指数は、世界経済フォーラムが2006年より公表しているレポート Global Gender Gap Report(『世界男女格差レポート』)にて公表されている、世界の各国の男女間の不均衡を示す指標。スコアはランキングの形で示される。

と表示されます。「ジェンダーギャップ」より『男女格差指数』としたほうが気持ちキツめで日本国内では伝わりやすいと思うのですが、最近はカタカナにしたがる傾向にあるようです(よく、70代の母が「意味がわからない」と言っています)。

「ジェンダーギャップ指数」は、政治・経済・教育・保険の4分野を14の変数を元に数値化されています。それぞれの変数を

女性の数 ÷ 男性の数

で計算し、「1」に近ければ平等に近く、「0」に近いほど不平等と言えます。

例えば、2020年6月時点での日本の女性国会議員数は、衆議院46人(9.9%)、参議院56人(22.9%)です(男女共同参画白書 令和2年版)。パーセンテージから計算すると、参議院の男性の国会議員数は90.1%≒419人、参議院は77.1%≒189人になります。

女性の国会議員の数(46+56)÷男性の国会議員の数(419+189)
=102÷608
∴国会議員の男女比のスコア 0.168

ということになります。

日本のジェンダーギャップ指数:日本の弱いところ

「ジェンダーギャップ指数」がどういったものかを理解したところで、「日本はこんなに低い!」というところを確認したいと思います。

Global Gender Gap Report 2020でランク付けされているのは全153カ国です。総合の指数は、121位に日本は位置しています。圧倒的に後ろから数えた方が早いです。

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日本で一番ジェンダーギャップがあると表されているのは、「政治的エンパワーメント」。先ほど計算方法の例として出した国会議員や閣僚の男女比です。

逆に一番平等と言えるのが、「教育」です。特に識字率(読み書きができるか)と小学校の就学率は「1」と驚異的な高さ・・・となりますが、現代日本に生きていると当然のように思えます。

当たり前に思えることが男女平等を測る変数になるほど、世界は読み書きができない、初等教育すら受けられない女性が多いということになります。

因みに153カ国の教育のスコアで0.7以下なのは、西アフリカのギニア共和国、中央アフリカのコンゴ民主共和国とチャド共和国です。

2019年、日本のジェンダーギャップ指数は121位へ

2019年末から2020年に社会を賑わしたのは「日本のジェンダーギャップ指数が110位から121位へ落ちた」というニュースです。

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ジェンダーギャップ指数を公表しはじめた2006年からみると、指数自体はさほど変わっていないように見えます。ただし、「政治的エンパワーメント」を除いては・・・ですが。

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ジェンダーギャップ指数のランク(順位)だけを見てみると、スコアの折れ線グラフと比べて、かなりガタガタなのがわかります。

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2019年は「政治的エンパワーメント」だけでなく「教育」がかなり落ちていますが、「日本で教育がいきなりこんな落ちる事態とは?」と疑問を感じました。

一説には、この「教育」の急激な下降は集計ミスとも言われていますジェンダーギャップ指数2019で集計ミス? 日本は本当は何位だったのか)。真偽のほどはわかりませんが、この「教育」を前年程度の水準に戻しても、日本の順位は1位上がるだけと計算されています。

スコアが変わらないのに順位が大きく落ちているのは、男女平等に関して大きく努力・動いている他国に対して、日本は停滞しているから(消して落ちているわけではない)と言えます。

世界中の国が男女平等に対して努力しているのに対し、日本は積極性に欠けるといったところでしょうか。

G7で最下位の日本。韓国や中国など近隣諸国よりも低いジェンダーギャップ指数

全135カ国中、「健康」以外は高いと言えない日本ですが、ほかの国々と比べてみましょう。表は、Global Gender Report 2020 においての、トップ3とG7のランクと指標です。

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トップ3(トップ4まで)は見事に北欧の国々です。こういった数値を見ても、税金が高かろうと老後の面倒までみてくれる、北欧の国々はすごいと思います。

G7に関しては、日本はどの国よりもランクが低く、イタリアにすら45位も離されています。意外だったのは米国です。ヒラリー・クリントン氏が大統領選挙に敗れたときの言葉「ガラスの天井」は有名ですが、自由の国、そして大統領報道官などテレビで多くのバリバリ働く女性を見ている気がするのですが、どうやら男女平等とはいかないようです(MeToo運動や前大統領の発言からも、平等でない部分は多々あると予想はできましたが)。

続いて、アジア近隣諸国と個人的に気になっている国とを並べてみました。

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さまざまな事柄で日本と頻繁に比較される韓国と中国ですが、決してランクは高くありません。しかし、日本よりは上です。明治維新以降、つながりが深く同じ島国で国民性が似ていると言われる英国、そして今回のコロナ感染対策で、力を遺憾なく発揮した女性首相のNZ(ニュージーランド)。こちらは大きく順位が離されています。

何がそんなに違うのか?細かく見てみると、一目でわかります。

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「政治的エンパワーメント」です。日本は女性の議員、閣僚が少なく、毎回組閣のたびに「今回の女性閣僚は・・・」と人数がアナウンスが入ります。

ニュージーランドを比較対象に選んだのは、1年ワーキングホリデーで住んでいたことがあり、「日本以外に住むならこの国」のマイベスト3に入る国だからですが、「政治的エンパワーメント」が高い国でもあります(0.474/13位)。

ニュージーランドの初の女性首相は1997年のジェニー・シップリー氏。1999年からはヘレン・クラーク氏がその後を9年務めます。ニュージーランドは20年以上も前から、女性が元首を務める先進的な国なのです。

現職のジャシンダ・アーダーン氏は産休をとったりコロナ対策で活躍したりと度々日本でも話題に上がります。現時点で4年目ですがまだ40歳なので、在籍年数はクラーク氏を越えるかもしれません。

日本のジェンダーギャップに対する理解

前東京五輪・パラリンピック組織委員会会長により話題となったのは、ジェンダーギャップに関する発言だけではありません。ジェンダーギャップよりも、その前の「何が何でもオリンピックはやる」発言・・・人命よりもオリンピック開催がまるで重大かのような発言に対して怒りを表した人も多くいます。

今回の会長交代劇で私が違和を覚えたのは、女性蔑視的な発言が発端になったからといって、政府(菅首相)が「次は女性を、若い人を」と後任者を探していたと報じられたことです。

個人的には年齢が上でも、女性でも、男性でも、この難しい時期の舵取りに適任で、かつ運営に問題が生じない達者な人(健康な人)であれば、良いのではないか、と。

むしろ、「男女平等」と言いつつ、女性が、若い人が、などと言っているのは本質を理解していないとさえ感じました。

後になってこの考え方が少し違うかも?と思うようになったのは、某ワイドショーでの女性認知神経科学者の方の発言を聞いたからです。

「能力があれば女性でも男性でもいいじゃないか、という意見がある」ということに関して、日本人はまずバイアス(偏見・先入観などの思い込み)が入ると。

「女性にはできない」という偏見がまずあるので、その時点で能力を男性と比較して正しく判断できない。だから、まずは枠を用意して、意識的に女性の場所を確保し、そこに人を入れることから始めなくてはいけないのだと。

日本は男女平等のスタートと地点にも立っていなかった

「男女平等にしよう」「女性の管理職を増やそう」としている組織でも、大企業の義務と理解していたり、企業目標があるから増やしている。その目標や枠がなければ、女性が男性と同じ地位につくことは大変難しいことだ、ということです。

ある大企業では、むしろ女性のほうが昇進しやすい、という話を聞いたことがあります。管理職の女性比率をあげるため、女性の昇進ルートが男性のそれより短くなっているのです。当然、そこをやっかむ男性の声も聞こえてきます。

バイアスに対しては、確かに思い当たる節はあります。前組織委員会会長に対してその娘さんが「考え方は変えられない」とおっしゃっている記事がありましたが、私も70代の両親と話をしていて「もう、この考え方は変えられないだろうな」と思うことは多々あります。

私個人は、さほど「女性だから」と虐げられるような職場には在席したことがなく(気づいていなかっただけだったりして・・・)、また、自身が強い向上心を持って・・・例えば自社の女性初の取り締まりになってやろう・・・などとは思っていないため、家庭との両立に悩んだり、ガラスの天井にぶち当たった経験はありません。

これは、境遇的に、そしてただただ、ラッキーだったとも言えます。今現在、ジェンダーギャップで悩んでいる方は多いと思いますが、残念ながらすぐに解消される見込みは無いようで、現在のペースでは、ジェンダーの公正を達成するために要する期間は100年近くと予想されています(世界のジェンダー・ギャップの解消、達成は100年後? > メディア | 世界経済フォーラム )。

ジェンダーギャップを埋めるために・・・日本でしなければいけないこと

今回、期せずしてジェンダーギャップ指数を知り、考える機会になりました。色々な組織で目標などを立て、ジェンダーギャップが自動的に埋まるような素地をつくっていかなければいけませんが、根本的な課題解決も同時に進行しなければいけません。

〇女性が指導的地位に立つことを、当たり前のように思える社会への転換
〇男性だから、女性だからなど属性で区別しない、多様性の高い雇用
〇子育てしやすく、社会復帰しやすい環境の構築
〇バイアスの生じない社会人の育成
〇政治の世界でのジェンダー公正の実現(ロールモデル形成)

もちろん、体力差や心の機微など、性別の違いによる特徴は無くしようがないですが、そういったことを尊重し、不足を互いに補うことができる意識を個人個人が持つことが重要です。

そこを「今更変えられない」というのであれば、それは残念ながら思考が固まっています。女性が指導的地位に立つことを一番明確に可視化できるのは、政治やオリンピック組織委員会のような誰もが目にする、話題に触れることができるような組織です。

そこで最新の社会状況に合わせて思考をアップデートできないということは、すでに指導的地位にいる事自体が問題である、と言えるのではないでしょうか?

☞ Global Gender Report 2020(PDF Download)

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