
「伝える」ことの難しさ ~コロナ感染予防に関するメッセージ
言葉というものは難しいもので、発話した途端に自分を離れ、受けた人のものになってしまう。よく「言った」「言わない」の議論があるが、もし伝わっていなかったのなら、「自分はこう言った(でも伝わらなかった)」ではなく、自分の伝え方が間違えていたと思うべきだ(と、日頃から自分に言い聞かせている)。
相手の知らない難しい言葉であったり、勘違いしそうな曖昧さを含んでいたり、聞き取れないような早口であるならば、それは相手に合わせて伝えることが出来なかった、自分の力の無さなのだ。
「正しく伝わらない」コロナ感染予防についての政府からの発信
そもそもテレビやニュース、新聞をよく見る人たちは年齢層が高めで、比較的コロナ感染予防を前回の緊急事態宣言から継続している。継続していない人の多くは、そういったメディアに頻繁に触れていない人だろう。ターゲット(伝えたい人)がそこに居なければ意味が無い。
でも、それは一番の課題ではない。もし、広く若者の耳に届いていたとしても、「思い込み」や「個人の解釈」によって簡単に書き換えられてしまうような曖昧さでは、伝言ゲーム状態になる。そこが政府や自治体が考えなおすべきところだと思う。
「経済施策優先メッセージ」が「コロナ楽勝」感を生む
経済施策は必要だしすべてが悪いわけではないが、人を動かしたGo To トラベルについて力強く菅首相は発言した。
この1か月半の間に780万人の方がキャンペーンを利用しまして、コロナにかかった方が7人だった。しっかり守るべきことを守ればコロナにはそんなに感染しないということがわかった
(自民党総裁選候補者討論会(9月12日)での菅首相の言葉)
「これ、どうやって調査したの?」とシンプルに疑問に思った人は多かったと推察する。マーケティングやライティングでは「数字」が重要で、具体的な数字が説得力が生むわけだが、この「7人」という数字に、首相は自身が納得できるエビデンスを確認できたのか?「7人」確認できただけでなぜ「もっと居る」ことを否定できるのか?
政府は「だから(感染予防しながら)GO TOトラベルを楽しんでね」と言いたかったわけだが、それは「旅行(移動・会食)をしてもコロナはうつらない」というメッセージで伝わった。
「年配者に向けたメッセージ」が「若者に向けた(誤った)メッセージ」になる
街が、人がウキウキしだす12月1日は酷かった。
「GoTo トラベル事業」について、重症化リスクの高い65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人を対象に、東京を発着する旅行での利用自粛を呼びかけることで一致
(菅首相と小池都知事の緊急会談(2020年12月1日)より)
この情報発信で「若いから大丈夫」…、最悪「若ければ重症化しないからコロナにかかっても問題なし」という誤ったメッセージが行きわたったように感じる。このメッセージを耳にした途端、多くの人は思っただろう。「お年寄りと基礎疾患のある人はすでに自粛状態では」と。
この後に発せられた「勝負の3週間」も併せて、ターゲットが明確ではないメッセージは、クリスマスや年末の熱気に飲み込まれてしまった。経済のために繁忙期に外出できる状況にしたかった故の「その前の、勝負の3週間」だったのだが、それならばもっとはっきり言うべきだ。国民性に頼りガチな政府は「『察して』はもう通用しない」ことに気づいていなかった。
「誤解するほうが悪い」という考え方は捨てる
ここ数日、伝わり方が以前の緊急事態宣言より弱いと気づいたのか、言い方を変える政治家も増えている。「外出自粛をもっと厳しく伝える」ことを提言した知事もいる。それはわかりやすい。しかし、「誤解があるようだが」という政治家が多く使用する言葉はやめた方が良い。
誤解もあるが、昼間も含めて外出自粛をお願いしている。
不要不急の外出は控えていただきたい。
昼間のランチなら(感染)リスクが低いということではない。
(西村経済再生担当大臣の会見(2021年1月12日)の発言より)
「誤解がある」と「政府は・自分たちは間違っていない」というメッセージを出す意識が伝わってくる。そうではなく、「伝え方が悪かった」「訂正する」と言われるほうがすっと気持ちに入ってくる。言葉とはそういうものではないかと思う。
「伝わるメッセージ」を発信するには、「伝えられていない」ことを自覚するところから
特に夏以降の流れを見ていると、残念ながら自国の旗振り役が目の前の事しか見ず、楽観的で、しかも国民にさせようとしていることを自分たちでは実行できない、困った大人だということがよくわかる。それらがさらに「政治家も会食してるじゃない」「経済のため」と、コロナ感染予防をないがしろにする人たちに言い訳を与えてしまった。言い方だけでなく、伝える側の姿勢も重要だということがわかる。
仕事では小さなプロジェクトでも「最悪」を想定して動く。11月に公開された、米グーグルの新型コロナウイルス感染症の陽性者数などを予測する「COVID-19 予測モデル(日本版)」は、そういった意味では「最悪」の想定には役立ったろう。
日本のコロナ感染予防が上手くいかない理由は沢山あるが、日本の政府がITオンチだったり、国語(日本語)が苦手だったり、楽観的なせいもあるだろう。まずはそういった「伝えられない自分」を振り返るところからはじめてみて欲しい。