「マイクラ」と「袋麺」は似ている
フルーツ大福のブームが、いつの間にか終わっていた。
スイーツのブームが去るのは、早い。タピオカミルクティーが好きだった私は、「閉店しました」の貼り紙を街なかで見るたびに、何もできない自分の非力さを噛み締めた。
いちばんの要因は、“インスタ映え”だけで売れるブームが終焉を迎えたことだろう。Instagramに並ぶフルーツ大福のカラフルさは、別世界のように華やかだった記憶がある。
だからこそ、中華料理店で撮る「真上」からのアングルが流行っていることが衝撃だった。上からだと"おしゃれ"に映るらしい。
そして、現在のブームは、写真ではなくショート動画である。
「人とは違うものを撮りたい」と思うのは、自然なことなのだろう。
動画で手軽に"自分らしさ"を表現するのに、適しているのがゲームだ。
2024年1月。ほぼ無名だった日本のゲーム会社「ポケットペア(Pocket Pair)」がつくった『パルワールド(Palworld)』が、たった1ヶ月で世界で2500万人がプレイするモンスター級の大ヒットを飛ばした。
パルと呼ばれるキャラクターを捕獲し、育てたり働かせたりして冒険する、いわゆるオープンワールドゲームである。
「ポケモンっぽい(Pokemon-Like)」と、良くも悪くもゲームの評判が世界中のSNSで一気に広がった。
パルを効率的に働かせてアイテムを大量生産する方法など、YouTubeやTikTokにさまざまな動画がある。それらを見ればきっと、オープンワールドゲームと動画との相性の良さがわかるだろう。
『パルワールド』に始まったことではない。
『マイクラ(Minecraft)』は言うまでもなく、2023年5月発売の「ゼルダの伝説」の最新作『ティアーズ オブ ザ キングダム』は発売3日で1000万本を記録しているが、ユーザーが工夫をして遊ぶ動画をたくさんアップしたことも大ヒットを後押しした。
『パルワールド』をつくったポケットペアCEOの溝部拓郎氏がインタビューで、次のように答えていた。(太字は筆者)
溝部氏は、ゲーム実況など動画配信に向いているコンテンツを「能力」を意味する「ability」という言葉を付け加えて、「ユーチューバビリティ(YouTube+ability)」という造語で表現している。
シナリオ系のゲームは、物語が直線に進んでいく。ゲーム配信してしまうとネタバレになるし、そもそも配信者の喜怒哀楽のリアクションに差が生まれにくい。
ユーチューバビリティ、いわゆる"動画映え"はゲーム会社の業績にも大きな影響を与えているようだ。
大手ゲーム会社のスクウェア・エニックスは2024年3月期の連結決算で、一部のゲームタイトルの開発を中止するために221億円の特別損失を計上すると発表し、ゲームファンのあいだに衝撃が走った
"動画映え"が流行る。これには悪いこともあれば、良いこともある。
「動画でユーザーに"自分らしさ"を手軽に表現してもらえば、モノやサービスが売れるのかもしれない」
マーケティングを考えるビジネスパーソンならば、そう考えるだろう。
ヒントはある。韓国の激辛の即席麺「ブルダック麺」が売れている。
韓国の三養(サムヤン)ラウンドスクエアは、営業利益が前年比62%増と業績が絶好調だ。
K-POPの大人気アーティストであるBTSやブラックピンクのメンバーが、「ブルダック麺」を食べている動画をアップしたことも大きい。
が、ファンが真似するだけでは終わらなかった。"チーズブルダック"など、「ブルダック麺」のアレンジの面白さが広がった。
ユーザーとしては、お湯を入れて"3分待つだけ"のカップ麺のほうが利便性が高い。つくるのが面倒な袋麺は、普通に考えれば人気にならないが、実際のところ袋麺の人気が盛り返している。
「マイクラ」と「袋麺」は似ている。
これが理解できれば、みなさんも一流のマーケターである。
もっと詳しく知りたい人のためのYouTube動画