大ネット航海時代に空疎な手を見つめる
マルチ商法まがいで世間を騒がせている某アニメ映画。チケット台本を買い取り、色を付けて転売することで儲けが出るという建てつけ。
失業保険を使ってチケット台本を2桁万円分買い取り、結局さばけなかった人のエントリがだいぶ話題になっている。他のエントリを見ると何とも表現し難い落ち着かなさはあるのだが。この件を笑える人はかつての自己顕示欲や劣等感から目を逸らし誤魔化しているだけでは、と思う。
大ネット時代にはおびただしい数の個人がめいめい暮らしぶりや所持品を明かしている。日本は随分前から階級社会ではないかと個人的には感じているが、格差の手触りなどを目視できないからなんとか耐えられていただけなのかもしれない。
ネット時代には華々しい"天上"の生活が詳らかにされ、それを何も思わない人なんているのだろうか。大半の人は数多の障壁を越えて"天上"にのぼりつめる程の能を持ち合わせていない。残酷なことに金が物を言わす側面も大きい。金が金を再生産する。
今の暮らしに折り合いをつけて慈しむことができるのは、あまりにも人が出来ている。程度の差はあれ、不条理さ、惨めさは感じるのではないか。生まれたところが、与えられたものが違うだけで、天と地の差を目の当たりにしたら。その現実を凝視するにはあまりにも切ないから、ありもしない夢を追い求めてしまうのではないか。
かつての右肩上がりの日本を知る人たち(往々にしてデジタルネイティブではない方々)は生活に困らない今の日本は十分贅沢だと言うだろうし、それは概ね正しい。
一方で、地道に暮らすことがあまりにも軽視され、そのコツコツさが見合わないほど道理がない世の中であるとすれば、進んで苦い汁など啜りたくない。軽やかに輝きたいと夢惑ってしまうことを誰が責められよう。
ギリギリの崖っぷちで、なんとか、なんとか踏み堪えているだけの人はいるだろう。私の足元も断崖絶壁、小石がコロリと転がり落ちていった。
踏み留まれなくなった先がネズミ講なのか、ネットサロンなのか、行方不明なのか、自死なのかーここで引き合いに出すのは少々失礼だがー宗教なのかの違いに過ぎない。一億総芸能人志向。そう揶揄ることができるのもまた豊かさ故ではなかろうか。
それにしても彼のエントリ投稿者は自らの弱さときちんと向き合おうと懸命に取り組んでいてー己のコンテンツ化とも言えるがー、そういう迷走がまぁ何とか取り返しのつきそうな金額で良かったと安堵したりもした。
ペテン師は相手の欲望を見抜くのがうまい。あり得ない儲け話に引っかかるのは大抵持たざる人だと分かりきって小金稼ぎをする。藁ではないものを藁ですと平気で差し出す。そういう狡さを煮詰めた人たちがきちんと摘発されることを願ってやまないし、その藁もどきを掴んでしまった愚かさを馬鹿にしないでいたい。その手はきっと嘘と嫉妬と悔しさで傷だらけだろうから。そっと手を当てられるほど私にも余裕があれば。