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互い違いのYシャツ。

ボタンをかけ間違えることを「互い違い」と言う。小さい頃に親からよく注意されたものだ。ボタンの方から見ると本来通らない隙間を通ることになるし、隙間の方から見ても本来通ることのないボタンがくぐっていく。まさにお互いに違う状態。

おおらかな国民性のせいか、この国ではボタンが互い違いになったYシャツに袖を通いている人をよく見かける。自分が小さい頃に注意されていたからか、身だしなみを気にする人間だったはずが、海をまたいだ途端に不思議と気にならなくなった。むしろ熱帯地域のために上半身が裸の人が多いことから「あ!今日は洋服を着ている!」と驚くくらいだ。

Yシャツにサイズがあるならおそらく全員Lサイズ。ユルッとしたシルエットに嬉しそうに腕を通して、乱雑に路上に机を並べて朝食を取り始めるのをボンヤリ眺めた。

「何を勉強するの?」とか「帰ってきたときのビジョンはあるの?」とか、出発前に、みんなが口を揃えて質問してきたことを思い出す。興味と憧れと嘲笑に満ちた表情で。

いつも回答に悩んだ。

英語をマスターするとか。伝説の秘宝を探すとか。用がない奴は海をまたいではいけないんだ…とクヨクヨしていた頃の自分。

もしかしたら、企業で戦うビジネスマン達とは「互い違い」だったのかもしれない。風通しがよさそうで、不格好で、理由なんかなく袖を通されるYシャツが愛おしくてたまらなくなった。


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