「母」という生き物〜エピソード⑤〜
母はイベント事が好きだ。
どういうことかというと、私が大人になった今でもバレンタインデーになると、何故か「せんべい」を送ってくる。
バレタインデ―には、あまり良いイメージはない。
10歳の頃にクラスの女子生徒にチロルチョコをもらってチュッパチャップスを返した。10年経ったら手作りクッキーをもらって安値のネックレス、更に10年経ってみると、手作りチョコケーキと結婚指輪の交換だ。
もし決算があったら大赤字もいいところじゃないか。
ありきたりな愚痴をこぼすと、母は目を丸くして「我が家はバレンタインデーにはお父さんとパフェを食べに行く日だよ。ホワイトデーにはあんみつね」と言った。そして「それからアンタにせんべいを買いに行くのよ」と加える。
何故バレンタインデーにせんべいかを訪ねると、「小さい頃にチョコをあげたら、せんべいがいいって言ったじゃない」と返答された。なるほど…。
大人になるにつれて、徐々にバレンタインデーも、クリスマスも煩わしくなってきた。しかし、キラキラしたバレンタインチョコレートがいっぱいの百貨店に足を運ぶことにした。
30年にわたってもらい続けたせんべいと引き換えに、初めて両親のために「あんみつ屋でも使うことができる」のを慎重に確認しながら、食事券を手に取る。
決してイベント好きではない私は、慣れない気持ちで、唯一黒字のホワイトデーに備えた。