Vol. 17 2024年11月 時事レポート「世界に広がる分断と対立」 by 大伴審一郎
グローバリゼーションは、国家間の壁を突き破り、ヒト・モノ・カネが行き来することによって政治、経済、文化などが拡大、多くの国に経済的繁栄をもたらした。
貿易量は拡大し、中でも世界で1、2位の人口を抱える中国やインドなどが新興国として台頭、世界各国は相互依存関係で結ばれ、平和と安定に向かうのではないかと思われた。
しかし、今や国際情勢のキーワードは「分断」である。2000年代以降、各国が相互依存関係で結ばれ、新興国や途上国も成長の果実を得たグローバリゼーションの時代は終わりを迎えようとしている。
こうした現状は、グローバリゼーションとともに台頭した中国と世界のリーダーである米国との対立(覇権争い)が時代の基調となり、以下のような対立を中心にさらなる分断が世界中に広がっている。
ロシア・ウクライナ戦争
イスラエル・パレスチナ戦争
衝突の危機にある朝鮮半島
中国と台湾の緊張関係
米国内の激しい対立
このような分断には、少なからず次のような背景が影響しているのではないだろうか。
1. インターネットによる分断
インターネットの利用が世論を二極化し、社会の分断を招いているのではないかという議論がある。ここで言う二極化とは、例えば国民の政治傾向が保守とリベラルのどちらかに偏り、中庸が減少することである。
そうした現象は、どのようにして形成されるのだろうか。これはあくまでも個人的な見解であるが、ある特定の政治的立場を持つニュース記事を頻繁に閲覧すると、その立場に合致する記事が優先的に表示され、異なる立場の記事はあまり見られなくなるという、「フィルターバブル現象」が影響しているように思われる。
これにより、自分の意見が正しいという確証バイアスが強まり、ほかの視点を理解する機会が失われているのではないだろうか。
また、SNSの世界では単文(ワンフレーズ)で過激な言動に注目が集まる傾向にあるため、もはや対立する相手を深く理解し、許容することができなくなってしまっているようにも思える。
2. 移民による分断
2024年5月時点で、世界の移民の数は約2億8,100万人と推定されており、世界人口の約3.6%に相当する数に膨れ上がった。こうした移民の増加には、次のような要因が考えられる。
より豊かな暮らしを求める経済移民の増加
中東やウクライナ情勢の緊迫化による難民の急増
気候変動に伴う災害などによる避難民の増加
こうした移民による分断は、特にヨーロッパにおいて顕著であるが、以下のような要因によって引き起こされていると推察される。
2015年の「欧州難民危機」と呼ばれる大量の難民の流入
難民流入による財政の圧迫
難民や移民による犯罪の増加(受け入れ住民との対立)
難民や移民の受け入れに反対する動きの拡大
自国優先を掲げる極右政党の台頭
これらの主因は、中東やアフリカでの紛争から逃れる難民が急増したことが挙げられるが、元を辿れば列強による石油利権に絡む植民地支配であることを考えると皮肉な結果である。
また、宗教的な対立も顕在化しており、キリスト教徒を中心にイスラム教徒のさらなる流入に危機感を露わにしている。例えば、オランダでは反イスラムの極右政党が躍進し、アイルランドでは移民排斥を訴えるデモ隊と警官隊が衝突するという事態が発生した。
移民問題の解決策は未だ見出されていないが、人々が一定の集団を形成すると、自己主張をするようになるという現象が考えられる。この自己主張が、従前からそこに居住する集団の価値観や生活習慣と異なるため、摩擦や確執を生んでいる可能性がある。
3. 貧富の格差による分断
貧富の格差による分断とは、経済格差や所得格差によって社会が特定の階層に分断される状況を指す。格差社会では、富裕層と貧困層の両極化や世代を超えた階層の固定化が進み、経済や所得の差によって分断が生まれる。
こうした、貧富の格差による分断が引き起こす問題には、次のようなものが挙げられる。
学習意欲や就労意欲があっても、教育や雇用の機会に恵まれず、低賃金・重労働の仕事にしか就けない人が増加
首都圏や大都市圏に人が集中し、地方には高齢者などが残されることで差や階層が固定化
格差社会というのは、特に所得・資産面での富裕層と貧困層の両極化と、世代を超えた階層の固定化が進んだ社会を言うが、日本の場合は首都圏や大都市圏と地域との経済格差や、非正規雇用の増加による所得格差が問題となっている。
こうした格差は、資本主義を謳う以上、競争原理が働き、その経済や所得に差が生まれるのは必然ではあるものの、その差が許容範囲を超えて「格差」と呼べるほど大きなものとなっていることが分断の原因となっていると考えられる。
また、格差による分断と対立は、各国の国内だけで起こっている問題ではなく、世界全体において国と国との間にも生じており、先進国(富裕国)と発展途上国(貧困国)という国家間対立の原因となっている。
SDGs(持続可能な開発目標)では、17の世界共通の開発目標及び169個のターゲットが定められているが、2030年を目処に目標を達成するためには、大前提として途上国の経済発展が求められている。つまり、途上国の経済発展なしにSDGs達成は難しいのである。
※ SDGsの17の目標とは、地球を持続可能なものにして、「誰一人取り残さない」社会をつくるために、2030年までに達成すべきゴールのこと。目標1~6が衣食住や教育などの基本的人権、目標7~11が社会経済的な内容、目標12~15が環境的な内容に分類されている。
従って、途上国と先進国が一体となって相互協力し、南北問題(国家間の経済格差による対立)を解決することなくして、持続可能な国際社会は実現できないということになる。
4. 世界の分断
今後、最も懸念されるのは、こうした分断が米国を核とする民主主義国グループと、中国とロシアを中心とする権威主義国グループの戦火を交えた対立に発展してしまうことである。このような事態は、世界が政治的にも経済的にも真っ二つに分断されることを意味する。
そうなれば、日本をはじめとする多角的な経済貿易体制に依存している国にとっては、経済的に困窮することになる。
では、どうすればいいのか。第一に、米国の抑止力を補完する防衛力の強化は正しい政策であろう。一方が軍拡している最中に、こちらが軍縮へと向かうのは危険である。つまり、同盟・同志国と共に抑止力を強化していくことにより、分断が衝突につながる危険を排除していくという方法である。
しかし、抑止力の強化だけがグローバルな分断阻止の処方箋ではない。鍵を握るのは中国であると考えられることから、中国がロシアと本格的な連携に至れば、グローバルな分断阻止は難しくなるし、朝鮮半島でも台湾海峡でも衝突の危険性が増す。
従って、中国を過度に追い込むのではなく、日本はむしろ経済面では中国に積極的な関与政策をとるべきだろう。貿易、投資、気候変動やエネルギー面で中国を地域的な協力の枠組みに巻き込んで、ルール重視の協力関係をつくる余地はある。
こうしたハイブリッド戦略は、昨年11月の米中首脳会談で一致した「対立しても衝突せず」という基本的な認識にも合致しているため、そうした努力は今後とも続けていく必要があるだろう。
以上、今や世界は分断と対立が蔓延し、この先の未来社会に暗い影を落としているが、こうした状況を乗り越えなければ持続可能な社会を創造することはできない。また、互いを認めない不寛容な社会は生きづらいものである。
よく「人間には叡智がある」と言われるが、果たしてその叡智で分断や対立を乗り越え、協調することができるだろうか。今、そのことが問われている。
人間には個性や特性があって、その違い(性別や人種、宗教、思想、学歴等)を互いに認め合い、それを活かすことで社会が発展していくという考え方がある。簡単に言うと「人間は色々あって良いじゃないか」ということであるが、そういう互いに尊重し合える社会は、多様性を認め共感する力がなければ実現は難しいだろう。
※ この記事の内容は大伴審一郎の個人的な見解です。
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