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やさしく学ぶLinuxのしくみ――複雑に見えるOSはどう動いている?
1. はじめに
はじめまして。この記事では、Linuxの内部構造を初心者にもわかりやすく解説していきます。突然ですが、皆さんは「Linuxってなんだか難しそう」「いろいろな仕組みが入り乱れていて理解できる気がしない……」と感じたことはありませんか?
実は、OSは“抽象化”という考え方を使うと、意外とシンプルに全体像がつかめるんです。そこで本記事では、「たくさんのプログラムが同時に動いていて大変そうに見えるLinux」について、一歩引いた視点から整理してみたいと思います。
この記事を読み終わるころには、複雑に見えるLinuxの世界を俯瞰するコツをつかんでいただけるはずです。
2. Linuxの複雑さと“抽象化”という魔法
2.1 Linuxはなぜ複雑に見える?
普段、パソコンやサーバを使っていると、ウェブブラウザやメールソフト、ファイル管理ツールなど、複数のアプリケーションが同時に走っているように感じます。実際にターミナルを開くと、たくさんのプロセスが一覧表示されてびっくりするかもしれません。
しかし、CPU(プロセッサ)は一度にひとつの命令しか実行できません。なぜ同時に作業できるように見えるのでしょう? その背景には、OSによるプロセスの切り替え(コンテキストスイッチ)という技術があります。非常に短いスパンでCPUを誰が使うかを入れ替えることで、まるで同時にプログラムが走っているように見せているのです。
2.2 “抽象化”とは何か?
そんなOSの仕組みを理解するキーワードが、冒頭でもお伝えした“抽象化”です。抽象化とは、複雑なもののなかで本質的な部分を取り出し、それ以外をいったん無視して考える手法を指します。
たとえば自動車で考えてみましょう。運転中にエンジンの細かい構造やボルトの配置までは意識しませんよね。「ハンドルやブレーキなど、運転に必要な部分だけを把握する」というのが抽象化の一種なのです。
ワンメッセージ
「Linuxは複雑に見えても、抽象化してみると意外とシンプルに捉えられる!」
3. Linuxを構成する3つのレイヤー
3.1 レイヤーの全体像
OSとしてのLinuxを大まかに分解すると、ハードウェア・カーネル・ユーザ空間という3つのレイヤーに整理できます。以下のようなイメージです。
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この3層構造をおさえておくと、Linuxがどのように動いているかがぐっと見通しやすくなります。
4. カーネル(Kernel)の役割
4.1 カーネルとは?
カーネルは、「ハードウェアとユーザ空間の橋渡しをする核となる部分」です。プログラムがハードウェアを安全かつ効率的に扱えるよう、全体を管理・制御しています。CPUの使用管理(プロセス管理)、メモリ管理、デバイスの操作(デバイスドライバ)、そしてシステムコールなどが主な仕事です。
カーネルはkernel mode(カーネルモード)と呼ばれる特権モードで動作しており、メモリやハードウェアに対して自由にアクセスすることができます。
4.2 プロセス管理
複数のプログラム(プロセス)が同時に動作しているように見えるのは、コンテキストスイッチという仕組みにより、CPUの使用権を短い時間単位で切り替えているからです。もしあるプログラムがCPUを独占したら、他のプログラムは全く動かなくなってしまいますよね。そこで、カーネルが適切にスケジューリングを行い、CPUの使用時間を分配しています。
4.3 メモリ管理
メモリ管理はカーネルの大きな役割のひとつです。Linuxでは、仮想メモリ(Virtual Memory)という仕組みを使い、各プロセスが自分専用の連続したメモリ空間を持っているように見せかけています。
たとえば、プロセスAとプロセスBが同じメモリ番地(例: 0x1000)を使っているように見えても、実際の物理メモリでは異なる場所が割り当てられているかもしれません。カーネルはMMU(メモリ管理ユニット)を使い、このマッピングを管理します。
このような仮想アドレスを物理アドレスに変換するページテーブルを常にカーネルが管理しているのです。
4.4 デバイスドライバ
ハードディスクやネットワークインターフェースなど、種類の異なるハードウェアを一貫した方法で扱うために、カーネルには多くのデバイスドライバが用意されています。デバイスドライバの存在により、ユーザ空間のアプリケーションは機種ごとの違いをあまり意識せずにデバイスを使えるわけです。
4.5 システムコール
ユーザ空間のアプリケーションがファイルを開いたりプロセスを生成したりする際に、カーネルにお願い(呼び出し)をする窓口がシステムコールです。
たとえばfork()と呼ばれるシステムコールを使うと、現在のプロセスをそっくりそのままコピーしたプロセスが誕生します。その後、exec()によって別のプログラムへ切り替わることで、新しいアプリケーションが起動できる仕組みになっています。
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5. ユーザ空間(User Space)の世界
5.1 ユーザモードとプロセス
カーネルが特権モード(kernel mode)で動くのに対し、私たちが普段目にするプログラムはユーザモード(user mode)で実行されます。ユーザモードでは直接ハードウェアを操作できません。代わりにシステムコールを介して、カーネルの持つ機能を利用します。
5.2 サービスやアプリケーションの役割
ユーザ空間のプログラムは、メールサーバ・ウェブブラウザ・画像編集ソフトなど、目的や機能によって多彩です。Linuxではこれらのアプリケーションが同時に動きつつ、必要に応じてカーネルや他のサービスにアクセスして協調動作します。
6. ユーザーとグループ
ファイルや実行中のプロセスを管理する仕組みとして、Linuxにはユーザーという概念があります。ユーザーにはIDが振られ、ファイルやディレクトリ、プロセスに対する操作権限が割り当てられます。
rootユーザー(スーパーユーザー): すべてを操作できる特別なユーザー
一般ユーザー: 一定の範囲で権限を持つ
さらに、ユーザーをまとめるグループという仕組みを組み合わせることで、ファイルやディレクトリ単位でより細かいアクセス制御が可能になります。
7. Linuxを理解するカギ:全体像と抽象化
ここまでの説明で、Linuxは「ハードウェア」「カーネル」「ユーザ空間」の3層構造になっていること、そして各層をつなぐしくみ(プロセス管理やメモリ管理、システムコールなど)が抽象化されていることがわかりました。
複雑に見える裏側には、「要所要所で本質以外を隠す」という工夫が凝らされているのです。もしプログラマーがハードウェアレベルの細かい制御を常に意識しなければいけなかったら、アプリ開発はとても大変ですよね。それをカーネルが引き受けてくれているので、私たちは使いたい機能を比較的かんたんに呼び出すだけで済むわけです。
8. おわりに
いかがでしたでしょうか。Linuxのしくみを抽象化という視点で眺めることで、複雑に見えるOSの全体像を整理してみました。普段何気なく使っているアプリやコマンドも、「本当はカーネルにシステムコールを通じてお願いして動かしているんだ」とイメージできるだけで、世界がぐっと広がります。
ワンメッセージ:
「Linuxは多層的な構造と抽象化によって、複数のプログラムやハードウェアをうまくまとめ上げている」
次にLinuxを触るときは、プロセスやユーザの概念を意識してみてください。「このアプリはどのユーザーで動いているんだろう?」「どんなシステムコールを使っているんだろう?」などの疑問を持ちながら眺めてみると、いっそう理解が深まります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後はファイルシステムやストレージの仕組みなど、さらに面白いテーマもたくさんありますので、ぜひ引き続き学んでみてください!
出典:
本記事は Brian Ward, 2021, How Linux Works, Chap. 1 をもとに再構成・翻案した内容です。
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