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連載 ひのたにの森から~救護の日々 ①
御代田太一(社会福祉法人グロー)
ケアの現場に行ってみよう!東京大学の3年生の頃から、「障害者のリアルに迫る」というゼミを企画して、何人もの当事者や支援者に話を聞いた。ゼミが終わると、ゲスト講師の方々と宴席を共にした。
障害のある当事者の話を聞き、多様な生き方があることを確認するたびに自分が肯定されるような感じがした。
3年生の終わり、学部卒業後の進路を考える時期に来たが、自分が社
連載 ひのたにの森から~救護の日々 ⑤
御代田太一(社会福祉法人グロー)
聞き書きをしよう!救護施設には、過去の生い立ちについての情報がほとんどない状態で入所する人が少なくない。
現場の職員は、入所経緯やおおまかな生い立ちは知っていても、頻繁な入退所や介護業務に追われて、一人一人の利用者がどこで生まれ、どんな人生を生きてきたのかまで知る余裕がなかった。「入居者たちの生い立ちを知りたい」そんな動機で就職した自分には、少しもどかしい日
連載 ひのたにの森から~救護の日々⑥聞き書きから見える暮らしと社会
御代田太一(社会福祉法人グロー)
山でサバイバル生活をしてきた男性「御代田くん、最近入ったあの田村さん(仮名)、聞き書きしてみたら?山でサバイバル生活してたって噂やで(笑)」
聞き書きを細々と続けるうちに、先輩職員がおススメの利用者を提案してくれるようになった。山でサバイバル生活、面白そうだ。気さくな人だし、田村さんに話を聞くことにした。
聞き書きをするときはご本人の許可をもらったうえで、レ
連載 ひのたにの森から~救護の日々⑦ 被害と加害が同居する
御代田太一(社会福祉法人グロー)
2500万円恐喝したひと、1000万円詐欺にあった人
「ここでは、加害と被害が平然と同居している」
救護施設で働く中で気付いたことの1つだ。
ある日の昼食時、職員はいつものように配膳や食事介助、薬を配ったりしてバタバタしている。一方、体の元気な利用者はカウンターから1皿ずつ自分でとって席につく。
席は自由だけれど、何となく定位置があって、いつも同じよう
連載 ひのたにの森から~救護の日々⑧ブラジル編
御代田太一(社会福祉法人グロー)
出稼ぎブラジル人のリアル
滋賀県に住むブラジル人は約9000人。県内の外国人の中で最も多い。
「出入国管理及び難民認定法」の改正(1990年)に伴って、3世までの海外日系人とその配偶者が「定住ビザ」を得られるようになり、日本での就労を行う移住者が激増した。その結果、バブル好景気の中で、働き手の足りない各地の生産現場はそうした外国人を頼った。この時代
連載 ひのたにの森から~救護の日々⑨キュウゴの夜
御代田太一(社会福祉法人グロー)
静まる園内、夜が来る。<18:45>
ひのたに園の夜が始まる。夕食が終わり、日勤(9:30~18:15)の職員も帰りはじめる時間。利用者も多くが部屋に戻り、昼間とはうって変わった静けさだ。
残る職員は3名。男性・女性1人ずつの宿直職員(9:00~翌朝9:30)と介護・洗濯を担当するパート職員(18:00~)1名だ。男性は僕だけ。
今晩、僕の
連載 ひのたにの森から~救護の日々⑪現場に渦巻いているもの
御代田太一(社会福祉法人グロー)
「不公平に思う人はいないでしょうか?」
福祉の業界には「全国○○協議会」とか「〇〇エリア連絡会」といった、事業種別や地域ごとに決められた、事業者同士のネットワークがある。
一般企業とは違って、同業者は利用者を奪い合う競争相手ではなく、積極的に協力・連携していくパートナーであるという前提のもと、全国に様々なネットワークが作られ、定期的な情報交換や合
連載 ひのたにの森から~救護の日々⑩人生は出会いとタイミング
御代田太一(社会福祉法人グロー)
遅れてやってきた思春期
高校を卒業した時、福祉のことはこれっぽっちも知らなかった。関心もなかった。
胸を張れるほどの充実した中高時代を過ごしたと思うし、現役で東大に合格できた。身体は丈夫だし、自分の能力次第でこれからどこまでも勝ち上がることができる、そんな自信と上昇志向に満ちていた。
福祉の側に身を置くと多くの人が「いつ自分が障害者になるかなんて誰にも分らな
連載 ひのたにの森から~救護の日々⑫救護施設の50年
御代田太一(社会福祉法人グロー)
チイキとシセツの間にあるもの
アパートのある近江八幡から、ひのたに園へは車で40分ほどかかる。近江八幡の市街を抜けると、畑や田んぼに囲まれた道が続く。車は少なくて、運転しやすい。20分ほど運転すると「ひのたに園」の名前の由来でもある日野町へと入る。
日野町は滋賀県の南東にある、人口2万人ほどの町だ。近江商人ゆかりの地として知られ、3月のひなまつりでは、商店街を