手作業からPC作業に移行した時代、仕事を奪われたデザイナーたちは何をしたか?
今年はAdobe Community Evangelistという立場で、AIとクリエイティブについてお話する機会が急増しており、PhotoshopなどのAdobe製品を仕事で使用している企業や業界団体を中心にまわっています。
ここでいう「AI」というのは、AdobeのAI技術及びプラットフォーム基盤の総称である「Adobe Sensei」のことです。
Adobe Senseiについては、7月19日のCREATIVE CLOUD 道場(毎週木曜の夜8時から放送しているAdobeの番組)に出演して解説していますので、Senseiとは何か?を知りたい方はぜひご覧になってください。
AdobeがAIのテクノロジーをどのように捉えて、どういう未来を描いているのかを知るには、以下の2つのカンファレンスを見なければいけません。
世界42カ国/約12,000人以上のマーケターやアナリスト等が参加する世界最大級のデジタルマーケティング・カンファレンス。200を超えるセッションやハンズオンがある。今年はラスベガスで3月25〜29日に開催
クリエイティビティに関する世界最大規模のカンファレンス。昨年、ラスベガスで10月18〜20日に開催され、世界62カ国/1万人以上のクリエーターが参加した。今年は10月15〜17日にロサンゼルス。国内でも11月20日にパシフィコ横浜で「Adobe MAX Japan 2018」が開催される
両方のカンファレンスで行われる、研究・開発中の技術を披露する「Sneaks」は、驚嘆のプレゼンテーションばかりで大変人気があります。Adobe Senseiで「私たちの仕事がどう変化していくのか」をイメージすることができるため、時間があればぜひ見てほしいと思います。
YouTubeに全てのアーカイブがありますので「Adobe MAX #Project 」と検索してください。
個人的に注目しているのは、この「Deep Fill」です。デモンストレーションはSneaksの中で一番地味であまり驚きがないかもしれませんが、画像処理の革命的な技術になり得るものです。Photoshopに搭載されたら大変なことになるでしょう。
さて、本記事の題目である「仕事を奪われたデザイナーたちは何をしたか?」について書いていきましょう。
Adobe Senseiの講演依頼が多いのは企業や業界団体です。
特に経営層からお話が来ます。
私の場合はエバンジェリストとして最新動向と実例を紹介しているだけなので、「AIを導入したい」という相談はほとんどなく、「今どうなっているのか」「これからどういう方向に進みそうか」といった、主に現状把握のための講演が中心です。
なぜ、経営層からの依頼が多いのかは理由があります。
それは、自身がデザイン業界がひっくり返ったパラダイムシフトを体験しているからです。
1980年代半ばまで、世界中のデザイナーは手作業で仕事をしていました。
当時のエバンジェリストたちはこう喧伝していました。
「あと数年で、手作業のデザインは無くなります」
「全てのデザイナーがコンピュータを使ってデザインをします」
今は、手作業でデザインをしていた時代を知らない人の方が多いかもしれませんが、現在40歳後半〜の人なら当時のことを覚えているのではないでしょうか。
多くのデザイナーたちは「コンピュータを使うのはオペレーター」であり、デザインが完全にコンピュータ作業に置き換わるとは思っていませんでした。
当然のことでしょう。今までやってきた仕事のやり方が「リセット」されるわけですから、そんなことはあり得ないと思うのは自然なことです。
Adobe Senseiに関する講演を要望する経営者の皆さんは、このデジタル革命で大変苦労された経験を持っており、また同様のことが起こるのではないかと危惧しているわけです。
「コンピュータを使ってデザインをするなんて、まだ先の話」
「こんなレベルのソフトでどうやって今の仕事をこなすの?」
「コンピュータで仕事をするイメージができない」
当時のデザイナーたちの思いを、現在の「AI」に置き換えることができます。
まずは二極化です。
・疑心暗鬼になる人たち(ブームに惑わされるな!)
・過大評価する人たち(AIに仕事が奪われる!)
確かに、デジタル化に乗り遅れたデザイナーやデザイン会社は、一時的に苦境に陥りましたが、パソコン習得やデジタルデザインを必死に勉強したことで、数年程度で復活しています。パソコン作業に慣れることができず労働移動を迫れた人もいますが、技術進歩によるコモディティ化も速いので、時間を経るほどキャッチアップしやすくなります。
自分の想像力が「現実を超えられない」のですから、デザイン作業が完全にデジタル化された未来をイメージすることもできないわけです。
そして、恐ろしく「お金がかかる」わりに大したことができない、というのも時代が変わる入口で繰り返される風景です。
当時のApple Macintoshの価格は標準スペックで100万。レーザープリンタも揃えると200万円を超えていました。これだけお金がかかっているのに、日本語は2書体しかなく、プリンタの出力は300dpiです。
著名なデザイナーがMacintoshでデザインに挑戦していましたが、コンピュータのサンプルのような作品しか発表されず、一時的にデザインのレベルが低下したことも事実です。
「それ見たことか!」と言い始める人が出てきますが、あっという間に技術が手作業に追いつきます。
仕事を奪われたデザイナーたちは何をしたか?
※今までやってきた仕事のやり方(手作業)を奪われたという意味です
簡潔にいうと、
必死に現状把握することに努め、業界の垣根を超え、手を取り合って目の前の仕事を一つひとつこなしていたということです。
「こういう準備をしておけばOK」なんてことはわかりません。
Sneaksで披露されるAdobe Senseiには驚かされますが、私たちが実際にAI機能を試すことはできません。Photoshopなどに搭載されているわずかな機能だけです。
これだけでは「AIで何が変わるのか」イメージできないでしょう。
でも、けっきょく80年代のデジタル革命の時にように、右往左往することになるだろうと思っています。
歴史に習うなら2つだけ。
「現状把握」と「心構え」です。
・疑心暗鬼になる人たち(ブームに惑わされるな!)
・過大評価する人たち(AIに仕事が奪われる!)
この2つだけは避けて、冷静に、でも現状把握には務める。
未来は先行した企業や個人によって作られるものであり、予測することはできません。
身も蓋もない話ですが、そう考えます。
10月のAdobe MAXのSneaksで(私自身も)大騒ぎすることになりますが、その前に現在の雑感を記しておきます。
Apple Macintosh II
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お知らせ:
ロサンゼルスで開催される「Adobe MAX 2018」の関連情報をTwitterで投稿します。
・今月中→ 昨年のAdobe MAX 2017の振り返り/今年のMAXの注目
・10月上旬→ 今年のMAXの注目
・10月15〜16日→ 現地から速報レポート
・10月17日以降→ MAX 2018のまとめ
Adobe XD 基礎編に、企業で実施しているXD研修(2日間コース)を1時間程度で学べるように再構築した実習を追加します。
講師向けに作られた「虎の巻」をベースにしており、重要なスキルを取り出して構成していますので短時間で「ザッと学ぶ」ということが可能になります。
詳細ページをご覧ください。
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投稿者:
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投稿日:
2018年9月10日(月)