「セクハラNO」無視され10年 現役女性自衛官が国に損害賠償訴え 背景に自衛隊の隠蔽体質
航空自衛隊の現役女性自衛官が、那覇基地でベテラン隊員から受けたセクハラをめぐり、防衛省・自衛隊が被害回復や不利益防止措置をとらなかったとして、国家賠償を求めている。1月15日に、東京地裁で第5回口頭弁論があり、原告自らが被害救済を求めて意見陳述した。セクハラが起きたのは2013年1月。6年後の19年に加害者は最も軽い戒告処分を受け、その後定年退職した。一方で、原告の女性自衛官も、裁判に組織の文書を提出したとして警務隊に告発され、訓戒となり、不利益を与えられ続けた。
「なぜ、私が受けてきた行為がセクハラやその二次被害だと認めてもらえないのか」。
原告の訴えをきいた。
被害女性を「厄介者扱い」
「セクハラ研修」で被害女性の実名を挙げる
東京地裁であった国賠訴訟で国側の代理人は「自衛隊はセクハラを概ね認め、組織として適切に対処してきた」と主張した。
原告の女性は意見陳述の中で、「全く違います」ときっぱりと否定した。
加害者の処分は調査開始から5年後、被害から6年後。その間に、隊内のセクハラ研修で女性は事例として実名を挙げられた。「私は多くの隊員から、クレーマーやおかしい人扱いされるようになりました」
加害者の処分は口止めされて周知されず、女性による公益通報の調査を行った監理部長も「セクハラ自体がなかったのだから、誰ひとり処分になるものはない」「裁判所ですらセクハラを認めていない」と、女性の方を責めたという。組織がセクハラを認めないため、加害者を相手取って民事訴訟を起こしたが、裁判に組織の文書を提出したとして、女性は訓戒処分を受けた。
「やむなく行ったことについて、(国側の準備書面は)『自己の主張を正当化する目的のためだけに、組織の文書を何人も閲覧できる状態に置いた』と書いてきて、ひどすぎます」
「こんな人たちが私に対する安全配慮義務を果たせるはずがなく、やってきたことは二次、三次の加害行為です」
「組織による二次加害をなかったものにはできない」
加害者と接触しないような措置も短期間で終わった。
「私は被害に遭った後、ずっと異動させてほしいと言ってきましたが、分離どころか、よくもここまで接触する場所を提示してきたなと思うような内示をしてきた。それなのに、今回の裁判が始まることになったら、突如、別の基地に移動になった。事件の現場から遠ざけて裁判をやりにくくしようとしているのだろうと思いますが、私にとってはとても承服できないことです」
国賠訴訟には、異動先の身上書(人事評価)も提出された。そこには、「以前勤務していた隊では人間関係でトラブルがあって苦労していたが、職場が変わり、人間的にも素晴らしい隊員に変身し、明るい隊員になった」と書かれていた。
女性は驚きを隠さない。
「私は、対人関係や人間関係でトラブルがあったわけではなく、ハラスメントの被害者です。そして、職場が変わったからといって、人間的にも素晴らしい隊員に変身などしていません。私への不適切な対応により、私の評価がねじまげられ、働きにくくなり、本来できることが削られているのです。昇任がとても遅れたり、ボーナスが減給されたりしたのも、それが原因です。裁判で認めてもらうまで、そういう状態は変わりません」
那覇地裁は加害者からの反訴に対し、セクハラを認定した。しかし、その後も組織は動かなかった。
それでもあきらめるわけにはいかない、と女性は言う。
「後輩たちをこれ以上ひどい目に遭わせないためにも、私のセクハラ被害と、その後の組織による二次加害をなかったものにはできないのです」
組織ぐるみで加害者を擁護
裁判後の報告集会が同日午後、都内で開かれた。
原告側代理人の田渕大輔弁護士は、隊員3人が那覇地裁に提出した加害者Aを擁護する陳述書の内容を紹介した。
「Aの心の広さや器の大きさには感心するとともに、その仕事ぶりを高く評価していました」「セクハラが勤務中に行われたということが信じられません」
陳述書は他方で、原告をこきおろしている
「人の好き嫌いが激しい。仕返しをしようとする」
原告のプライバシーについてもさらしていた。
「ピルを飲んでいる」
「元交際相手が結婚し、訴訟に協力できないことになった」
女性は「この陳述書を書いた人たちはセクハラを受けた当時、同じ部屋にいた。隣の部屋にいた人ですら、私の様子がおかしいと気づき、『今の電話、誰からだ?』と聞いてきた。この人たちが、セクハラに気づいていないはずがない」と述べた。
その上で、「気持ち悪いですよね。なぜ私の薬の服用歴や交友関係まで知っているのか。職場の人間関係がハラスメントそのものです。これを読んでも、私がセクハラを受けていたという事実関係に疑問を持つ方はいらっしゃいますか? 女性隊員が避妊しているとか、書けるんですよ?」
そして自衛隊の法務班が裁判で加害者を支援し、陳述書の作成にもアドバイスしたことにも疑問を呈した。
「加害者と組織がタッグをくんで、加害者を擁護する陳述書を作成し、法務班の幹部も止めない。ちょっと異常性のある職場だと印象づけかねないものが、公に堂々と出てしまう。こうした職場ではセクハラは日常的にあります」
陸上自衛隊での性暴力を告発した元自衛官、五ノ井里奈さんのようにSNSで発信しては、と提案されることが多いが、現役自衛官はSNSでの発信が制限され、自由にインタビューを受けると処分の対象になる、という。女性は「裁判を傍聴したり、報告集会に来たりした人たちが、私の事案をマネジメントの教訓として参考にしてほしい」と希望する。
「私の中ではどす黒いもの。一生引きずっていかなければいけない経験です。でも、それが社会に活用されるのであれば、マイナスがゼロくらいになり、私自身も軽くなって、生きていけます」
(阿久沢悦子)
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