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懐かしく新しい物語を求める貴方に捧げる『千年ダーリン』レビュー
「男とサイボーグ 宣戦布告の駆け落ちだ!!」
1980年代の千年谷を、古代兵器で強化された怪人たちが襲う――。
全ての人類を一つにまとめようとする親玉ネイロンの野望を止められるのは、
〈枝のような天才少年〉仮初銀色と、〈銀色と心臓で繋がった改造人間〉束ノ間一平のコンビ=「千年鉄騎」だけ。
町と仲間を守るため、二人は愛とハートを武器に戦い・遊び・ふざけ倒す!!!
「僕の体がどうなろうと……君だけは絶対死なせないんだから…」
「独りと独りが出会って 千年鉄騎だぜ 銀色…」
まえがき
今回紹介する作品『千年ダーリン』は2020年/令和2年6月からWeb漫画サイト・トーチWeb上で連載が開始された、1980年代/昭和50~60年代を舞台とするSFアクション活劇である。
所謂『昭和レトロ』──昭和時代の風俗・文化を愛でるムーブメント──に属する作品であるが、この作品の凄みは「懐かしさ」だけではない「新しさ」、時代を縦断しまくった舞台設定とノスタルジックかつ耽美な絵柄、痛快なアクションバトルの融合にある。
言葉を尽くすよりも作者・岩澤美翠先生の画を目に焼き付けた方が早い気はするが、今回はこの『千年ダーリン』という物語の魅力を一読者なりに紐解き、お伝えしていきたい。
魅力① ストーリー・バトル設定
まずは本筋とバトル設定についてできるだけ簡単に説明しておこう。
死んだ不良と時計屋の少年(30p)
— 🌴岩澤美翠🌏 (@jungle_diplodox) April 23, 2021
1-3 pic.twitter.com/vAAtF6TC6r
喧嘩上等の不良男児・束ノ間一平はある日謎の怪物に襲われ、命を落としてしまう。しかし目覚めると己の身体が不死身のサイボーグへと改造されていた。
彼を改造した時計屋の美少年・仮初銀色は「君を動かす源を誰にも奪われてはならない。たったひとつのとっておきだから……」とささやき、怪物から仲間たちを守ろうとする一平の想いに応えるべく力を目覚めさせる。
その力こそ『千年鉄騎』。一平の身体には銀色の心臓が捧げられ、銀色の身体には力の核となる"勾玉"が埋め込まれている。彼らは二人で一つの心臓を共有しながら未知なる敵ネイロン、そして古代遺跡にまつわる陰謀に立ち向かっていくことになる……
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コテコテの河原殴り合いシチュエーションに始まり、主人公の暮らす街並み、小道具、作品全体を通して流れる空気は「昭和レトロ」のパブリックイメージそのものだが、そんな中での「改造人間のバトルアクション」というオーパーツの差し込み方がこの作品を作品たらしめている。
主人公コンビ擁する『千年鉄騎』、そして彼等と対立する組織・ネイロンの手下である『千年人機』はそれぞれが"勾玉"という秘宝を核として動く古代兵器であり、それぞれが「触覚」「皮膚」「体温」といった人体機能の一部に特化している。
『千年鉄騎』が持つ特化機能は「心音」。心臓の鼓動を敵に伝えることで勾玉を砕き、肉体を滅ぼすことができる。
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この設定によって、メカニックでありながら肉弾戦の泥臭さも同時に堪能できる唯一無二のバトルシーンが生まれている。
必殺技やモノローグにも名画のような独特の味があり、特に『心音』を武器とする二人を「敵も仲間も抱きしめるだけでいい」と表現するセンスには胸を撃ち抜かれる。
作中で繰り返されるこの言葉は、守るべき人々のみならず望まぬ破壊兵器にされてしまった敵への慈悲、そして闘う覚悟を抱く一平の心情を体現していると言えるだろう。
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魅力② キャラクター・関係性
物語が進むにつれ「銀色はなぜ千年人機のひとつである鉄騎の力を手に入れ一平を改造したのか?」「ネイロン達が千年人機を使い人々を襲う目的は?」「"勾玉"の正体とは?」等の謎が徐々に明かされていく。そして千年人機VS千年人機の闘いから、次第に主人公陣営・ネイロン・裏で糸を引く人間達の三つ巴の様相を呈していく。
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元の肉体は失われたようだが……
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銀色の育ての親だが裏でネイロンと組み、手柄を横取りしようと狙っていた。
それらの展開を語る上でなんといっても外せないのは、主人公コンビ・一平と銀色の関係性の移り変わりである。
単行本あらすじにある「ブロマンス・ストーリー」という謳い文句の通りデフォルトで男と男の距離が近い本作だが、特筆すべきはやはり銀色の巨大感情だ。
普段は冷静沈着だが、こと一平が絡むとなりふり構わなくなる仮初銀色という男。彼のヤバさを端的に示す台詞として8話(2巻収録)の以下の台詞を挙げたい。
後ろ盾だった育て親に裏切られ、手を金槌でブッ叩かれ、まさに殺されようとしている場面での台詞↓
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鋼の心臓すぎる(ダブルミーニング)。
銀色のキャラ造形は非常に絶妙なバランスで成り立っており、一平に対する執着はところどころ狂気を孕んでいるようにも見えるのだが、根底にあるのは「好きな人の大切なものを一緒に守りたい」といういじらしさなのがグッとくる。
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また、銀色の愛を戸惑いながらも受け入れていく一平側の矢印も忘れてはいけない。
命を救った・救われた関係でありながら身体を改造した・された関係でもあり、当初は銀色の真意がわからず警戒していた一平。しかし自身に対する執着、命を賭して仲間を助けてくれた姿勢に次第に心動かされていく。
直情型で一見無鉄砲に見える一平だが、ひとたび認めた相手には敬意を持って接する優しい心根の持ち主。そんな彼が銀色を信頼していくまでの過程には少年漫画的な熱さがある。
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彼等の関係性の白眉は、前章で触れた「心臓を共有して闘う」というギミックと「想いを一つにして寄り添う」というラブコメが見事に噛み合っているところだ。
この「バトルと主人公二人の関係が同軸で進化していく」流れはバディ物の王道だが、それを男と男の愛の物語として真正面から展開している辺りに新機軸を感じる(ちなみに『ブロマンス』の定義も人それぞれで違うだろうが、私はこの謳い文句を「恋愛要素を内包した男と男の友情」くらいに捉えている。帯は『ラブコメ』表記だしね…)。
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17〜19話(3巻収録予定)の過去篇では銀色の行動原理の全てが明らかになる。決して幸せばかりではない本作だが、一平と銀色二人の絆が闘いの果てにどこへ向かうのか、読めば最後まで見届けたくなること請け合いである。
魅力③ 令和から見た昭和
繰り返すが本作の舞台は昭和時代であり、今とは違う時代のエッセンスを人によっては懐かしく、人によっては目新しく感じられる娯楽漫画としての側面もある。
しかしそれ以上に忘れてはいけないのが、本作の昭和時代が娯楽的な表層だけではなく、負の側面も含めて描かれていることだ。
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昭和後期(40~50年代)の石炭産業は衰退の一途を辿っていた
団地の老朽化とゴーストタウン化、炭鉱の過酷な労働環境、戦争経験者による弱肉強食的な思想……恥ずかしながらこの漫画をきっかけに知った事柄も多いのだが、登場キャラクターの背景と実際に存在した(あるいは今も存在する)社会問題や情勢は切り離せないものとして密接に絡み合っている。
鉱山出身の孤児である一平を懸命に支えたホームレス・鶴じいや、銀色を育て親の支配から庇い続けてきた目付役・文次などは、そんな作風を象徴するサブキャラクターと言えるだろう。
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成長した彼が鉄騎の力を最初に使ったのは鶴じいを守るためだった。
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最終的には銀色を逃がす手助けをした。
岩澤先生のこの作風は戦時中の少年たちの視点から衆道・同性愛を描いた過去作『未練の谷』(現在非公開)でも顕著だが、昭和という時代の明るい部分だけではなく、当時を生きる人々の苦悩も織り交ぜて物語の骨子にしているところが作品としての強度、信頼を高めているように思う。
あとがき
そんな大傑作『千年ダーリン』だが、単行本は現在2巻までリイド社より発売されている。最新話までを収録した3巻も1月26日に発売予定だ。
毎度言っていることだが、この記事が貴方の『千年ダーリン』という物語に興味を抱くきっかけになってくれたらこれほど嬉しいことはない。
ここまで読んでいただきありがとうございました。3が日も終わりますが、皆様よいお年をお過ごしください。
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— 🌴岩澤美翠🌏 (@jungle_diplodox) January 17, 2021
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