何めいてそれは微笑む

嘘吐きと吐いたあなたが
朝顔の中に咲く間に
何周もしていた朝と夜は
僕らを置き去りにさざめく

ふたりだけの世界というと
それも良いけれどと僕なんかは思う
君は笑って取り合わない

進化を求めるのは僕らが笑い合うためだ
立ち止まることを嘆かれるのは
幸せを願われているからだって
ずっとずっと なんて前から知っているのにさ

どうにも切なくなってしまう
赤葡萄を透けた光りがきれいに
本当にきれいに机を照らした

一日の始まりが光に包まれて始まって
またその終わりに光を抱きながら眠る
そんな伝承を笑い飛ばした君の顔を思い出す
いつでもちょっと痛そうだったのに

戸棚の影の引いた場所に佇む
きみのあまりに優しい瞳に夕日がだぶって
何も見えないというふりをして
折れた指をしまっていた

まぶしそうな目をして微笑むのは
あたしの番だというのにあなたは懲りない
唇を尖らせる真似も
あなたの方がずっと似合うから
拗ねてみるのも下手くそであなたは
わかってないのにおろおろとしてて

救われていることに心臓の下あたりが気付く
砂の重りが肺を引っ張って
咳き込む様にキスをした
からだごと潮に流されて泣いたことすら
なくなっていくから

どうにも切なくなってしまう
わたしの一等好きな指が丹念に
白葡萄の房をなぞっていく

くすんだしずかな青に包まれて泣いた
涙を流さずに泣けたのだった
あなたの顔が過っては泡になり
いつでも最後に笑っては消えた

光の当たる正面で遥か頭上に立つあなた
埃よりも薄いまつ毛が囁くように光って
知らないふりをするあなたに気付いて
濃くなる影に指を入れた

どうにも切なくなってしまう
赤葡萄を透けた光りがきれいに
本当にきれいに夜を裂いていた

もういられないとわたしは分かる
あなたもそっと解っている
破れた夜の端と端で
リボンを手繰り寄せあっていた

朝焼けに染まる朽ちたバリケード
ゴミ溜めが朝露と光を吸っていた
ランプを消したのは君の方だけど
震える手が熱いのは僕の方だ

ゆれあう炎が互いにふれる
怖がりながら灯している




羊毛にくるんで朝を迎えた
こする目がすこし腫れていた
壊れたトースターが鳴り続けた
ターコイズブルーに空は云う

どれだけ凍えていても
春といったら今日は春
恋といったら君は恋
めくるめく輝きになる
愛はそこにいた

君の声が気高く伸びる
羊の雲を憶えている

君の顔が影に飲まれて
やさしく笑う声が泣いた
幸福に逃げている
今日を日差しの向こうに翳したままで

ピクニックなら真夜中にかぎる
ゆるけなそよ風にながされる

秒針の過ぎる音を聞いている
ただ思いの丈をわがままに言いたいだけ

お腹いっぱいだなあ もう
叫び出すほどじゃないな こんな
草木の祝福も君に注ぐよに
冠を編むような日々なのです

君の声が震えて伸びる
悲しい程に好きでいる

あなただけでも幸せでいてと
傲慢なことを願っている
悲劇の私に逃げている
今日を昨日の水やりに埋めたままで

声の形がいつでも其処に残る
輪郭を拾えばさみしい音がなる
耳に冷たい水が流れ込むように
どんな時だって探していた

君の声が気高く伸びる
羊の雲を憶えている

一人じゃないよって気取った声だ
ふりむけばそこに陰は凪いで
そよそよ笑うように口を閉じていて





理想論を口にしたって
こらえ性もない僕たちじゃさあ
気取ったって世話ないよ
リトルグリーン君はかわいいこ

来世はさよならね
そんなこと口にするのに涙ぐむなよ
結局慰めるのは僕なんだよ
運命じゃなくたっていいから
口に口でキスをしてよ

息を永く吐くほど秋は凍る
ぱらぱらのチャーハンが甦る刹那に恋をする
好きなんだずっと好きでいるんだ
認めてよ 石鹸水に指を浸している

かき混ぜたのはあの子の恋心
ぐるぐる回る時が過ぎゆく
寂しくないのは朝焼けと約束をしたから
綺麗なものは変化で出来ている

かなしいものは変化で出来ていて
綺麗だと認めるたび泣きたくなった
虹がかかる空見上げられないのは
いつか今日は昨日になるからだ

やさしい顔は変化の証で
視線を上げたら泣きたくなった
包まれた途端思い出すのは
心が初めて熱を帯びた日だ

桜が散るさまに微笑むような
耽美な君でなくていい
誤魔化さず笑ってくれるのなら
手足になって朽ちたとていい

息を永く止めても秋は過る
焦げた焼き菓子の匂いが昔馴染む
好きでいることしかできないよ
認めないでね ただ僕を見ていてね

銀にちかりと光る星型に
とろとろ流し込めば煌めく
寂しくなればケーキを焼くから
落ち込んだらそばに来て欲しい

やさしい顔は変化の証で
視線を上げたら泣きたくなった
包まれた途端思い出すのは
君が初めて泣いていた午後だ
包まれた途端思い出すのは
君の心に暮れていた秋だきっと

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