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漫画原作:『燎原のArena~異聞東方見聞録~』第1話

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『燎原のArena~異聞東方見聞録~』第1話シナリオ(マンガ原作形式)

凡例:

文章間に挿入された▼記号は、そこでマンガの該当ページが開始することを示す。

文章間に挿入された●記号は、そこでマンガのコマが変わることを示す。

文章間に挿入された2つの●記号は、そこでマンガのページが切り替わることを示す。

文章間に挿入された▲記号は、そこでマンガの該当ページが終了することを示す。

基本的にそのコマに入る、「 」でくくられた、擬音・字幕・独白・セリフ・解説を先に記載している。
次いで、そのコマに入る背景や人物の情報が記載されている。
この2つと文章間に挿入された●記号でマンガの1コマに入る情報を区別している。

人名の後の「 」の中には、その人物のセリフが入る。

人名独白の後の「 」の中には、その人物の心の中のつぶやきが入る。

字幕の後の「 」の中には、5W1Hを説明する文が入る。

擬音の後の「 」の中には、そのコマに必要な効果音が入る。

解説の後の「 」の中には、作者の事項に対する解説文が入る。

「 」の中の( )はセリフのルビを示す。

「 」の中の" "はセリフの強調を示す。

( )は、( )の時点で、場面転換・時間経過・画面暗転が発生し、前のコマと次のコマとの間でストーリーが転換することを示す。

セリフなどの後の、背景や人物情報などを記載する文章の中の『 』や「 」は、背景や事物に、カッコ中の文章が記載されることを示す。 

※は、該当コマを作画化する上での注釈や作者の意図を示す。


1ページ


字幕「文永12(1275)年1月 大都(現在の北京) 近郊」
13世紀後半、日本の鎌倉時代。いわゆる、「元寇(蒙古襲来)」のころ。
当時、中国大陸を支配していたモンゴル帝国(元朝)の首都である大都近郊の街道。
砂塵吹きすさぶ中、馬に繋がれた2頭立ての木製の馬車が動いている。
幌(ほろ)がない剥き出しの馬車の荷台には、数人の男たちが身を寄せ合うようにして腰を下ろして座っている。
馬に繋がれた二頭立ての木製の馬車に詰め込まれているのは、前年の10月の文永の役」でモンゴル軍の捕虜となった対馬国(つしまのくに、今の長崎県)の宗(そう)氏配下の武士たち。
みな、大鎧を脱いだ「小具足(こぐそく)」姿をしており、なかには、頭部や手足に布を巻いて包帯代わりにしているものが数人いる。
※馬車が画面手前に向かっていくような構図で、
※小具足姿は、大鎧を脱いだ状態を指す。室内での軍議や休息の時にこの格好になる。
髻(もとどり)を結った頭部に折烏帽子(おりえぼし)をかぶり、鎧直垂(よろいひたたれ)を着て、鎧直垂の袴(はかま)をはいている。
右脇には、大鎧の一部でもある脇楯(わいだて)という大鎧のひもを脇で結ぶための防具を着けている。
左腕には、左腕全体と左肩・脇を覆う籠手(こて)を着けている。足には、脛当(すねあて)を着けて、貫(つらぬき、毛皮の靴の一種)を履いている。

擬音「ビュー」
ところどころに雪の残っている草原の真ん中の街道を数台の馬車が連なるように進む。
馬車にはそれぞれ、捕虜となった武士たちが分乗している。
馬車の進んでいる街道は、小高い丘の上に続いている。
※前のコマと反対に、馬車が画面奥の小高い丘に向っていくような構図で。

馬車の荷台に腰を下ろして座ったまま、馬車前方を陰のある鋭い眼差しで見つめる、主人公の藤太郎(とうたろう)の上半身のアップ。
捕虜となった他の武士たちと同様、小具足姿だが、烏帽子をかぶっていない。
髷がほどけた髪は風に乱れ、髭はのびきって直垂は薄汚れている。
※対馬から海を渡って大都までの3か月近い長い旅の過酷さと時間の経過が窺えるように。

2―3ページ


『燎原のArena~異聞東方見聞録~』

第1話 「草原の剣闘士(グラディエーター)」

扉絵イメージ:
擬音「ワァァー」
小高い丘の上からフカンで見た光景。見開きの大ゴマで。
深いすり鉢状の大地が広がっている。
すり鉢状の大地の脇は、古代ローマのコロッセオのように、観客が観戦できるような段差状の観客席になっている。
すり鉢状の大地の底は、十数人の戦士たちが集団を作って戦闘できるほどの闘技空間が広がっている。
観客席には、大勢の観客(元王朝の支配階級であるモンゴル人)が詰めかけており、歓声をあげている。
闘技空間では、馬に乗った複数人の武装した戦士(西洋の騎士や中東のアサシン)たちが、入り乱れるように戦っている。
※モンゴル軍の捕虜となった、藤太郎たちがこのすり鉢状の闘技場で、同胞の自由と生命を賭けて戦うことになるこの物語方向性を読者に暗示している。

4―5ページ


字幕「3か月前 日本国 対馬(つしま)」
海上に浮かぶ対馬(つしま)を上空から見上げた全景。
モンゴル軍が上陸した対馬下島西部の佐須浦(さすうら)・小茂田(こもだ)浜と、対馬国府の所在する対馬下島東部の厳原(いづはら)辺りから、黒い煙がたちのぼっている。
※対馬は、現在の長崎県北西にある島。13世紀当時、対馬国(つしまのくに)と呼ばれていた。
※文永11(1274)年10月、最初の「元寇(文永の役)」、対馬国にモンゴル軍が上陸し、日本の武士団と戦闘が続いている状況という設定。

佐須浦・小茂田浜の波打ち際には、対馬に上陸してきたモンゴル軍の小船が何艘も打ち上げられている。
浜辺には、甲冑姿のモンゴル兵の亡骸が累々と横たわり、矢や刀が地面に突き刺さっている。


字幕「藤太郎(とうたろう) 対馬宗(そう)氏 譜代の郎党」
青毛(黒色)の馬に騎乗しながら、兵を鼓舞する星兜に大鎧姿の藤太郎。
大鎧の右袖に、折れた矢が尽き刺さっており、右手で手綱を持ちながら、左手で弓を握っている。右腰には、矢の入った容器である箙(えびら)を身に着けている。

擬音「ワ~」
藤太郎独白「はぁはぁ 一体」
藤太郎独白「どれほどいるというのだ」
佐須浦を埋め尽くすモンゴルの軍船と押し寄せるモンゴル兵。

擬音「!」
モンゴル軍から飛んできた「てつはう」を見上げる藤太郎。

「てつはう」が藤太郎の眼前で爆発する。

(時間経過・場面転換)

6―7ページ


画面暗転

藤太郎の夢の中。
大鎧と星兜を身に着けた初老の武士で、藤太郎の主君である宗資国(そうすけくに)が馬上から太刀を振るう。
※背景はすべて黒で塗りつぶす。

無数の矢が降り注ぐ。

矢によってハリネズミとなる宗資国。


馬上から崩れ落ちる宗資国。

うつ伏せに地面に倒れる宗資国。

藤太郎「御館様!」
馬上から叫び声をあげる、藤太郎。

振り降ろされる刀。

血が飛び散る描写。

首級を上げられて、モンゴル兵に髻(もとどり)を掴まれた宗資国の首級。
首からは、大量の血液が滴り落ちている。
主君である宗資国の首級を青ざめた表情で見つめる藤太郎。
※藤太郎自身は、戦の最中で気絶してしまい主君である宗資国や対馬の戦がどうなったかこの時点で知らない。
対馬側がモンゴル軍の侵攻で敗北して主君が戦死したことを読み手に提示するため、夢の中に主君の戦死シーンを描いた。

8―9ページ


藤太郎「うああ!!」
両目をカッと見開いて絶叫する藤太郎の顔のアップ。

擬音「ガバッ」
薄暗い元軍の軍船の船倉。
てつはうで気絶した藤太郎が意識を取り戻す。
額と右腕には、包帯代わりの白い布が巻かれている。
星兜と大鎧を身に着けていない、左腕に籠手を着けただけの小具足姿。
寝具はなく、藁を束ねた枕があるだけ。
藤太郎は、横たわった身体を起こす。

藤太郎「ここは?」
薄暗い軍船の船倉を見渡す藤太郎。
船倉に空いた窓口から光がさし込んでいる。

男「気がついたか?」
すねあてと毛皮製のくつである貫(つらぬき)を身に着けた二人の武士が暗がりから藤太郎に声をかける。

字幕「塔二郎(とうじろう) 藤太郎の弟」
字幕「弥四郎(やしろう) 対馬宗氏家臣」
藤太郎と同じく対馬宗氏に仕える弥四郎と、藤太郎の弟である塔二郎の二人が、藤太郎の前に現れる。
二人とも、藤太郎と同じく左腕に籠手を着けただけの小具足姿。虜囚の証である木製の手枷を着けている。


藤太郎「塔二郎…それに弥四郎…」
藤太郎「おぬしたち 無事であったか?」
同じ宗氏家臣としてモンゴル軍と戦った二人の無事を知り、安堵した表情で身を乗り出す藤太郎。

擬音「ズキッ」
藤太郎「ううっ…」
塔二郎「兄者!」
包帯の巻かれた右腕を左手で押さえる藤太郎。痛みにやや俯きがちに顔をしかめる。
塔二郎は、藤太郎の側に詰め寄る。

弥四郎「藤太郎…おぬし 丸一日 気を失っておったのだ」
右手の親指と人差し指とで顎ひげを撫でる弥四郎。目を細めて遠くを見るように、対馬での戦の様子に思いをはせている。

擬音「スッ」
弥四郎「あの火薬玉が爆発した拍子に馬から落ちてな…」
薄暗い船倉の隅に置かれた無数のてつはうを右手で指さす弥四郎。

藤太郎「火薬…玉?」
右腕の痛みに耐えかねるように表情を歪ませながら弥四郎の指さす方角を見る藤太郎。

10―11ページ


船倉の奥に無造作に転がっている、てつはうの玉のアップ。

藤太郎独白「あれ(火薬玉)が 目の前で砕け散って…」
てつはうを目の当たりにして、戦で気を失う寸前の様子を思い出す藤太郎。
藤太郎の脳裏には、3ページの3コマ目の様子が浮かんでいる。

擬音「ハッ」
藤太郎「塔二郎! 対馬(しま)は… 御館様は…どうなったのだ!!」
藤太郎は、傍らの塔二郎の両肩を両手で揺さぶりながら、切羽詰まった表情で問いただそうとする。

虚ろな表情を浮かべて、兄である藤太郎を見つめる塔二郎。

両目を閉じて、首を左右に振る塔二郎。


塔二郎「対馬(しま)の男衆で 逃げ延びたもん以外 生き残ったのはこれだけだ…」
藤太郎の背後には、数人の小具足姿の武士と、直垂姿の島民が皆、手枷をはめた状態で船倉の木の床の上に腰を降ろしている。
手傷を負ったもの、無傷なものも含めて、みな不安で打ちのめされたような表情をしている。

弥四郎「殿ばかりか…ご子息の右馬次郎様や弥二郎様まで亡くなられた…」
藤太郎の視線を避けるように、顔を左下に向けて俯く弥四郎。
口惜しさと無念さのあまり、右手の拳を握りしめたまま身体をうち震わせる弥太郎。

藤太郎「そんな…」
両手を船倉の木の床について、俯き失意にくれる藤太郎。

女「いやあ!!」
布を裂くような女の悲鳴が船の外から聞こえてくる。

12―13ページ


字幕「厳の方(いづのかた) 宗弥二郎の正室(藤太郎と塔二郎の姉)」
幼い乳飲み子を抱きかかえている重ね小袖に打掛を身に着けた厳の方が逃げ惑う姿のアップ。
背中までスラリとのびた黒髪を振り乱し、背後から襲い掛かろうと追いかけてくる巨漢のモンゴル兵に対して、振り向きがちの視線を向けている。

勾配のキツイ階段を伝って、船倉から船の甲板に上がろうとする藤太郎。
斜め後ろからアオリがちの構図で緊張感を出す。

モンゴル兵「ぐへへ…おんなぁ!!」
革製の外套のような鎧と革製のブーツ、防災頭巾のような被り物を身に着けた巨漢のモンゴル兵の上半身のアップ。
目を細め欲望剥き出しの獣のような表情をしている。

藤太郎独白「あれは…姉上!!」
階段を上りきり、木製の甲板の上で驚きの表情を見せる藤太郎。

擬音「ドサッ」
厳の方「あっ!」
足がもつれて、甲板の上に倒れる厳の方。抱きかかえた幼子を守ろうと半身の姿勢で倒れ込む。


擬音「ズアァ…」
獲物を追い詰めた悦びで歪んだ笑みを浮かべる巨漢のモンゴル兵。倒れ込んだ厳の方の恐怖を煽るように、厳の方の背後からアオリがちの構図で兵士の全身を描く。

何物にも屈しない毅然とした表情をモンゴル兵に向ける厳の方の上半身のアップ。

厳の方から赤子を取り上げようと襲い掛かるモンゴル兵。

モンゴル兵「大人しくいうこときけば生命は助けてやるだ!!」
ひざを折り、横から厳の方を抱きすくめるような姿勢で、赤子を取り上げようと、赤子に手を伸ばすモンゴル兵。
両目をきつく閉じ、両手で赤子を抱きかかえながら、赤子を奪われないよう抗う厳の方。

14―15ページ


擬音「バチィ~ン!!」
厳の方は、毅然とした表情をして右手でモンゴル兵の頬を勢いよく平手打ちする。

厳の方「下郎! 下がりなさい!!」
左手で赤子を抱きかかえながら、何者にも屈しない鋭いまなざしを向ける厳の方の上半身のアップ。

驚いたような表情で、打たれた左の頬を右手でさするモンゴル兵の顔のアップ。

擬音「ギラン」
モンゴル兵「囚われものの分際で!!」
先程までの相好を崩した表情からうって変わり、一片の情けもない冷酷な怒りに満ちた表情にかわるモンゴル兵。

擬音「グッ」
厳の方の重ね小袖の襟元の合わせ目をおし広げるようにグッと鷲掴みする節くれだったモンゴル兵の両手のアップ。


擬音「バッ」
重ね小袖のあわせ目を力づくでおし広げたモンゴル兵。厳の方の白い乳房が露わになる。

厳の方「ああっ!!」
乳房を露わにさせられ、慌てふためいた表情の厳の方の上半身のアップ。

モンゴル兵「好(い)い鳴き声だあ!」
傍らに赤子を置き、おし広げられた小袖のあわせ目を両手でかき寄せながら、身をよじり不安と恐れを表情に見せる厳の方。

モンゴル兵「へへ…大人しく おらにも乳を呑ませてくれさえすれば…」
左手で厳の方の右の乳房を小袖の上から握りしめ、右手で厳の方の小袖のあわせ目を広げて、左の乳房を再び露わにするモンゴル兵。

擬音「レロォ…」
モンゴル兵「手荒なことは しねえだ!!」
厳の方の左の乳房に顔を近づけ、今にも乳頭を嘗め回さんばかりに分厚い涎まみれの舌を這わせようとするモンゴル兵の顔のアップ。
目を細めて恍惚とした表情を浮かべている。

きつく両目を閉じ、恥辱に震えながら、顔をモンゴル兵から背けようとする厳の方。

16―17ページ


厳の方を救うべく、一目散にモンゴル兵目指して駆ける藤太郎。

擬音「ドカッ!!」
モンゴル兵の右側方から、体当たりをする藤太郎。
驚いた表情の厳の方。

藤太郎の体当たりを受けてそのまま横に倒れ込むモンゴル兵。

藤太郎「姉上!!」
痛めた右腕に左手を当てながら起き上がり、姉である厳の方を見つめる藤太郎。

厳の方「藤太郎!」
助けに現れた藤太郎を呼ぶ厳の方の顔のアップ。


擬音「ドカッ!!」」
藤太郎の腹部をブーツで蹴りつけるモンゴル兵の右足のアップ。

藤太郎「がっ!」
俯きながら苦悶の表情を浮かべる藤太郎の顔のアップ。

モンゴル兵「なんだ~おめえ!!」
左手で藤太郎の襟元を握り、左手だけで力まかせに藤太郎の身体を抱き上げる兵士。
こめかみに血管が浮き出て、怒りの激しさが現れている。
藤太郎は、俯きながらモンゴル兵に蹴られた腹部を押さえている。

モンゴル兵「おらの邪魔すんなあ~!」
モンゴル兵は、右手で張り手を藤太郎の顔面に繰り出し、藤太郎を突き飛ばす。

擬音「ドカッ」
突き飛ばされた藤太郎は、船べりに頭をぶつける。

18―19ページ


藤太郎「ううっ…」
包帯の巻かれた白い布が流血で赤く染まる。
突き倒された拍子に口を切ってしまい、口元から一筋の血が流れている。
虚ろな表情で気を失う寸前の藤太郎。

両手ではだけた小袖をかき合わせ、船べりでうずくまる藤太郎を不安な眼差しで見つめる厳の方。

モンゴル兵「へへ…こっちに来るだあ…」
涎を垂らし、欲望にまみれた薄汚れた眼差しを向けながらモンゴル兵の上半身のアップ。

厳の方「くっ…」
獲物を見るようなモンゴル兵の視線を外すべく、顔を背ける厳の方。

視線を向けた先に甲板に無造作に置かれたままになっていた不揃いの大きさのてつはうがあるのを発見する。

厳の方は、20cm程の鉄製のてつはうに右手をのばす。


厳の方「寄るな 下郎!!」
モンゴル兵によっておし広げられ、乱れたままの小袖と打掛姿の厳の方。
手にしたてつはうを両手で放さない様に抱きかかえている。
髪を振り乱し、毅然とした表情で船べりに立ったままモンゴル兵を睨み付ける。

厳の方「武家の女(つま)として…」
厳の方「辱めをうけるくらいなら 死を選びます!!」
屈辱と不安から涙を溢れさせながらも、武士の妻としての覚悟を必死に訴える厳の方の顔のアップ。

擬音「!!」
今にも気を失いそうな、虚ろな視線で姉の厳の方を見る藤太郎。

厳の方独白「藤太郎…みなのこと…頼みましたよ」
船べりに向かって走り出す厳の方。

てつはうを放さないようにきつく両手で抱きかかえながら、船べりから海に飛び込み入水する厳の方。

20―21ページ


擬音「ドボン!」
心なしか波立つ海面に水飛沫が上がる。

押し寄せる波によって何事もなかったかのように海面の水飛沫がかき消される。

唖然とした表情の藤太郎。流血が右目を塞いでいる。

船べりに両手をあずけて、厳の方が消えていった海面を、口を半開きにしたまま唖然とした表情で眺めるモンゴル兵。

モンゴル兵「おらの…」
モンゴル兵「おらの嫁御が逝っちまった!」
狂ったように雄たけびを上げるモンゴル兵の顔のアップ。

擬音「カチリ」
左腰に吊り下げた刀剣の柄に右手をかける。


擬音「バッ」
抜刀した刀を右手に握るモンゴル兵。

モンゴル兵「おめえの…」
モンゴル兵「おめえのせいで…」
両手で逆手に握った刀剣を顔の前まで上げて傍らの藤太郎に突き立てようとするモンゴル兵。

俯いたまま、船べりに背をあずけて、身動きできぬまま腰を降ろしている藤太郎の全身をやや俯瞰視点で描く。

擬音「キラリ」
あおり視点で、刀を藤太郎に突き立てようとするモンゴル兵の上半身のアップ。
刀剣の刃先に光が反射して輝いている。

藤太郎に迫る刀剣の刃先。
コマの右上から右下にかけて、刀剣の刃先を勢いのあるように描写する。

22―23ページ


モンゴル兵の突き立てた刀剣が狙いを逸れて藤太郎の右脇の甲板の板に突き刺さる。

モンゴル兵「おっ…おごっ…」
藤太郎に襲い掛かろうとした刹那、兵士の腹部に後ろから日本刀が突き刺さっている。
何が起こったか理解できないような表情で、モンゴル兵は口元をパクパクさせている。
藤太郎を狙った刀剣は逆手に握ったまま。

字幕「ウラーン 日本征討軍 監軍(監察御史)」
ウラーン「戦で捕らえしもの…これすべて 大ハーンの所有したまう下僕(しもべ)…」
モンゴル兵と違い、中国風の真紅の甲冑を身に着けており、甲冑の上には真紅のマントを羽織っている。
左の腰には、日本の打刀が差してあり、太刀の鞘が同じく吊り下げられている。
整った顔立ちの若武者であるが、凍えるような冷徹の眼差しをしている。

擬音「クルリ」
回れ右をして、背後のウラーンに襲い掛かろうと憤怒の表情を浮かべるモンゴル兵。

擬音「!!」
ウラーン「それを手籠めにしようとしたあげく…死に追いやるとは」
振り返ってみても自分を刺した相手が見つからず、驚き戸惑っているモンゴル兵の背後に廻り込んだウラーン。


モンゴル兵が藤太郎の右脇に突き立てたままになっていた刀剣をウラーンが引き抜く。

ウラーン「その罪 万死に値する!」
モンゴル兵が背後を振り返ろうとした刹那、一閃にしてモンゴル兵の首を跳ね飛ばすウラーン。
感情をもたない機械のような冷徹な表情をしている。

24ー25ページ


ウラーン「処分しろ」
左手に持った懐紙で右手に握った刀剣の血のりを拭うウラーン。
俯きがちに蔑むような眼差しでモンゴル兵の亡骸に視線を向ける。
ややアオリ気味の構図で描く。

亡くなったモンゴル兵と同じような甲冑を身に着けたウラーン配下のモンゴル兵二人が、それぞれ巨漢の兵士の両手と両脚を持ち、二人がかりで亡骸を運びあげる。
ウラーンと同じ、真紅の色をした甲冑であり日本刀を腰から吊り下げている。

擬音「ドボン!!」
海中に水飛沫が上がる。厳の方が入水したときよりも大きな飛沫があがる。

ウラーン「恋い焦がれていたなら 海の底まで追いかけていくといい…」
船べりで気を失う寸前の藤太郎を一瞥するウラーン。

擬音「カチン」
ウラーン「首が無くては見つけられると思えぬがな…」
口元を歪めて、蔑むような表情を見せるウラーン。血のりを拭った日本刀を鞘に納める。


甲板に転がるモンゴル兵の首に視線を向けるウラーン。

ウラーン「あの男の属する隊を調べよ!」
ウラーン「十人隊長以下 残らず斬れ!」
踵を返して立ち去るウラーン。右手をかかげて、配下のモンゴル兵に指示を飛ばす。
背中の真紅のマントには、平氏の家紋である揚羽蝶の家紋が大きく描かれている。
軍船の舳先の高楼には、赤い吹き流しの旗がはためいている。

赤い吹き流しの旗のアップ。気を無くす寸前の藤太郎の見たことを表現するように、コマ
の四隅を暗くして表現する。

藤太郎独白「揚羽蝶の紋に…赤い旗…?」
ウラーンの揚羽蝶の家紋の描かれた真紅のマントのアップ。
前のコマ同様に四隅を暗くして表現。

擬音「ガクッ」
首を力なくうな垂れて、気を失う藤太郎。

第1話終わり。次回に続く。

モンゴル帝国の捕虜となった、藤太郎たちの運命は!?

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