漫画原作:『ベストマン~代理結婚式業株式会社~』第1話
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『ベストマン~代理結婚式業株式会社~』
第1話シナリオ(※マンガ原作形式)
凡例:
文章間に挿入された▼記号は、そこでマンガの該当ページが開始することを示す。
文章間に挿入された●記号は、そこでマンガのコマが変わることを示す。
文章間に挿入された2つの●記号は、そこでマンガのページが切り替わることを示す。
文章間に挿入された▲記号は、そこでマンガの該当ページが終了することを示す。
基本的にそのコマに入る、「 」でくくられた、擬音・字幕・独白・セリフ・解説を先に記載している。
次いで、そのコマに入る背景や人物の情報が記載されている。
この2つと文章間に挿入された●記号でマンガの1コマに入る情報を区別している。
人名の後の「 」の中には、その人物のセリフが入る。
人名独白の後の< >の中には、その人物の心の中のつぶやきが入る。
字幕の後の「 」の中には、5W1Hを説明する文が入る。
擬音の後の「 」の中には、そのコマに必要な効果音が入る。
解説の後の「 」の中には、作者の事項に対する解説文が入る。
「 」の中の( )はセリフのルビを示す。
「 」の中の" "はセリフの強調を示す。
( )は、( )の時点で、場面転換・時間経過・画面暗転が発生し、前のコマと次のコマとの間でストーリーが転換することを示す。
セリフなどの後の、背景や人物情報などを記載する文章の中の『 』や「 」は、背景や事物に、カッコ中の文章が記載されることを示す。
※は、該当コマを作画化する上での注釈や作者の意図を示す。
1ページ
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『ベストマン~代理結婚式業株式会社~』
第1話「余命(いのち)短し 結婚せよ孫娘」(前編)
扉絵イメージ:
白のタキシード姿の吾妻 大将(あずま ひろまさ)が、白無垢姿をしたアシスタントの大庭 雫(おおば しずく)をいわゆる「お姫様抱っこ」をした姿勢で立っている。
眼鏡をかけた大将は微笑んでおり、雫は茶目っ気タップリにウインクをしている。
2人の左側には、ビジネススーツ(パンツスーツ)姿の伊東 万桜(いとう まお)が横を向いたまま腕を組んで、2人に背を向けるように立っている。
やや上を向いて、「面白くない、ふ~んだ」といった表情で。
2人の右側には、第1話の依頼人(クライアント)である土肥 一実(どい かずみ)と万桜の事務所の新人キャストで一実の相手役となる曽我 大祐(そが だいすけ)が、それぞれスーツ姿で立っている。
大将と雫をのぞき込むように横から身を乗り出すような姿勢で立っている。
※主人公の大将とアシスタントの雫、取引先の俳優事務所の社長である万桜の三角関係が読者に伝わることをイメージしている。
5人の背景には、「代理結婚式 承ります!!」の文字が。
※大将の仕事が結婚式のウエディングプランニング業だけでなく、「代理結婚式」業もしていることが読者に伝わるように。
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2―3ページ
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小さな教会の礼拝堂。
祭壇の背後の明り取りの窓から光が挿し込んでいる。
窓から取り入れた光に包まれたタキシード姿の新郎とウェディングドレス姿の新婦が、祭壇と正面から向き合うように立っている。
新郎は慣例にのっとり、新婦の右側に立っている。
祭壇では神父が新郎新婦と向き合うように立っている。
祭壇の下、通路の左右にすえつけられた長椅子の座席には、結婚式の出席者である数人の男女が礼服やドレス姿で座っている。
※まだ日が高い午前中の時間帯という設定。
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新郎役の吾妻 大将(あずま ひろまさ)と、クライアントである新婦役の安田 恵美(やすだ えみ)の上半身のアップ。
銀縁眼鏡をかけている穏やかな表情の大将。
緊張した表情で、右手で胸元を抑えている恵美。
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長身の恰幅のよい黒縁眼鏡をかけた人のよさそうな顔の神父の上半身のアップ。
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●
神父「新郎 吾妻 大将(あずま ひろまさ) あなたは 病めるときも健やかなるときも 生涯彼女を愛し続けることを誓いますか?」
結婚式の誓いの言葉を話す神父。
神父の言葉を聞く大将。
※新郎新婦と祭壇をはさんで向き合う神父の表情がわかる構図で。
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大将「誓います…」
逡巡することなく速答する大将の顔のアップ。
新婦役の恵美に不安を与えないように。
穏やかな表情で。
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擬音「ギュッ」
傍らの恵美の不安を和らげるように、恵美に顔を向けて微笑む大将。
恵美の右手を左手で握りながら。
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緊張で不安な表情の恵美の顔のアップ。
晴れの舞台にも関わらず、不自然なほど震えている恵美。
※読者が違和感を感じるように。
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神父「新婦 安田 恵美(やすだ えみ) あなたは 病めるときも健やかなるときも 生涯彼を愛し続けることを誓いますか?」
俯きがちに神父の誓いの言葉を聞く恵美。
前のコマより、身体の震えが強くなっている。
※新郎の誓いの言葉のコマと反対に、神父と祭壇をはさんで向き合う新婦役の恵美の表情がわかる構図で。
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「ガタガタ」
俯いたまま震えている恵美。
握っていた大将の左手を放し、両手を組んで祈るような仕草をしている。
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※このページまでは、"ただの結婚式"の一場面であるように読者に装う。
4―5ページ
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恵美「わたし…わたし…」
神父を前に結婚の誓いを言えず、震えながら言葉を詰まらせる恵美。
申し訳なさそうな表情で、涙を滲ませている恵美の顔のアップ。
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擬音「ザワザワ」
長椅子に座る出席者の男女が互いに困惑した表情で顔を見合わせている。
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擬音「ワー」
恵美「ごめんなさい!!」
両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んで泣きじゃくる恵美。
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大将「………」
右手を前に出して、困惑したような表情の大将の上半身のアップ。
●
擬音「フウ」
目を閉じて深呼吸し、心を落ち着かせる大将。
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●
擬音「!」
大将「恵美さん…」
大将「いいんですよ……」
大将は、しゃがみ込んだままの恵美の右肩の上に左手を置く。
大将の声で我に返った恵美は、顔をあげて大将のいる右側を向く。
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擬音「ニコリ」
微笑む大将の顔のアップ。
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擬音「サッ」
右手を上げる大将の上半身のアップ。
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擬音「パチパチパチ」
擬音「パチパチ」
長椅子の座席から立ち上がった出席者全員が、恵美に対して笑顔で拍手をしている。
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出席者の中に混ざり、笑顔で拍手をしている大将のアシスタントの大庭 雫(おおば しずく)。
●
(画面暗転・時間経過・場面転換)
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※このページで、ただの結婚式の一場面でないことを読者に提示する。
なぜ出席者たちが拍手したのか、次のページ以降、明らかにする。
6―7ページ
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「あずまウェディングプランニング」と縦書きされた看板が掲げられた3階建てのビルの外観。車の交通量の多い、いわゆる「路面店」であり、ビルの前に車が2台ほど駐車できるスペースがある。
入口が2階にあり、地面から2階に向けての階段が設けられている。
※1階は倉庫兼車庫。2階が大将たちの事務所。3階が大将の住居となっている。
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2階にある大将の事務所の応接室。
テーブルをはさみ、向き合う形でソファーに座っている大将と恵美。
大将は、黒縁眼鏡でダブルのスーツ姿。上着の下にベストを着こんでいる。
恵美は、余所行きのレディーススーツ姿。ジャケットにフワリとしたスカートで。
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擬音「コトッ」
字幕「大庭 雫(おおば しずく) あずまウェディングプランニング社員 大将のアシスタント」
地味なビジネススーツ姿で、テーブルにお茶を置く雫。
●
恵美「吾妻(あずま)さんに 大庭さん…本当にありがとうございまた…」
コーヒーカップの置かれたコーヒーソーサーを膝の上に乗せながら、大将と雫に深々と頭を下げる恵美。
●
●
恵美「一緒に入社した同期の女子(こ)たちが 次々に結婚していった中…」
恵美「最後に残ったのが "ワタシ"だったんです」
コーヒーカップを大事そうに両手で包みながら、俯いたまま話す恵美。
※恵美の表情がわかるようにアオリの構図で。
●
恵美「会社の上司や同僚からも陰口を言われて ずっと辛かった…」
恵美の膝の上に乗せられているコーヒーカップの置かれたコーヒーソーサーのアップ。
コーヒーカップの中のコーヒーに恵美の顔がボンヤリと写り込んでいる。
●
擬音「パァ」
恵美「でも…」
恵美「今日…"代理結婚式"を挙げて…何だか吹っ切れたような気がするんです!」
顔をあげる恵美。
明るく愛らしい笑顔。
憑き物が取れたようにイキイキとしている。
●
大将「……」
無言でソファーに座りながら、恵美の話に聞き入る大将。
穏やかな表情をしている。
●
雫「恵美さん…」
身を屈むような仕草で恵美の座っているソファーの側に立つ雫。
何かを隠すように、両手を背中の腰のあたりに回している。
※「代理結婚式」の記念品となる品物を背中に隠し持っている。
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8―9ページ
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雫「これ…」
雫「今日の"代理結婚式"(しき)のキャスト(出席者)のみなさんから」
中央に"代理結婚式"のウェディングドレス姿の恵美の写真が印刷されている特製の色紙(しきし)。
写真の周囲には、"代理結婚式"に出席者として参加したキャスト一人一人の励ましと、応援のメッセージが名前とともに添えられている。
●
雫から手渡された色紙を両手で大事そうに握りながら、一心に見つめる恵美。
●
擬音「ギュッ」
涙を浮かべ、無言で宝物となった色紙を抱きしめる恵美。
●
(時間経過)
●
事務所の階段を下りたところから、2階の事務所を見上げて、頭を下げる恵美。
右肩には、女性モノのバッグをかけている。
※2階の窓からフカンで下にいる恵美を見た構図で。
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●
大将独白「おれは 吾妻 大将(あずま ひろまさ)…ブライダル業を生業(なりわい)としている」
事務所の窓を開けて身を乗り出し、右手を振って恵美を見送る雫。
雫の右側に立ち、恵美を見送る大将。
右手には、紅茶の入ったカップを握っている。
※カップには、「I♡(ラブ)Mio(澪)」の文字が描かれている。
※大将の亡き婚約者で、事務所の共同創始者であった伊東 澪(いとう みお)の名前。
●
大将独白「"結婚式のプロデュース"(本業)のかたわら…」
事務所の敷地から街道沿いの歩道に出る恵美の後姿のアップ。
※大将と雫視点で上から見たフカンの構図で。
●
大将独白「"結婚"という二文字(ふたもじ)の呪縛に囚われてしまった男女(ひとたち)を救うべく…」
歩道を歩く恵美の後姿。
同じ歩道を恵美と向かい合うように、画面手前に向けて走ってくる上下揃いのジャケットとロングスカート姿の土肥 一実(どい かずみ)。
一実は、小さな手提げバッグを右肩にかけている。
何かに焦っているかのように必死な表情で、額に汗を浮かべている。
※このコマと次のコマで依頼者(クライアント)が恵美から一実に変わることを読者に提示する。
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大将独白「裏の仕事として この"代理結婚式業"(しごと)を営んでいる…」
穏やかな表情で歩道を歩く恵美。
未来への一歩を踏み出すことができて、自信に溢れた穏やかな表情をしている。
恵美とすれ違い、画面奥へ走っていく一実の後姿。
※前のコマと構図は一緒だが、恵美と一実の向きを逆にして描く。
依頼人が入れ替わったことがつたわるように。
●
大将の事務所に駆け込んできた一実。
2階にある事務所の入口に向かうための階段の前で立ち止まり、乱れた呼吸を整えながら、「あずまウェディングプランニング」と縦書きされた事務所の看板を眺めている。
※ややアオリ気味の構図で。
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10―11ページ
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擬音「今日はセイロン産か…」
大将独白「人生(みらい)を 上をむいて歩いていけるように!!」
左手でティーソーサーを持ちながら、右手で取っ手を握ったティーカップを口元に近づけて、湯気とともに立ち昇っているかぐわしい紅茶の香りを楽しむ大将の上半身のアップ。
●
擬音「美味!」
大将独白「ハレの日を夢見る気持ちは誰にだってあるものさ…」
事務所の窓辺で目を閉じたまま紅茶を飲み干す大将。
大将に陽の光が注いでいる。
一仕事終えて一服しつつ、一瞬の至福の時にいるようなリラックスした表情をしている。
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頬を朱色にホンノリと染めながら、紅茶を飲む大将を見つめている雫。
両手で大事そうに持ったお盆の上に、先程まで応接室で恵美に出したコーヒーセットが、のせられている。
※アシスタントの雫が、社長である大将に好意を持っていることがそれとなく読者に伝わるように。
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擬音「カラン コロン」
事務所の入口のドアが開き、来客を告げる音が鳴る。
半開きになったドア。
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●
ドアノブを右手で握りながら、息を切らせたままの一実。
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擬音「ゼーハー ゼーハー」
一実の顔のアップ。
額から一筋の汗が流れ落ちている。
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右肩に下げた一実の小さな手提げバッグのアップ。
一実は、左手をバッグの中に入れて何かを取り出そうとしている。
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一実がバッグから取り出したのは、「NS05―HA12―YU20」という謎の記号が書かれた名刺大のカード。
※英単語の暗記に使う「暗記カード」のイメージ。
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擬音「コトッ」
大将「結婚式のご相談でしょうか?」
右手で握ったままだったティーカップを、テーブルの上に置かれたティーソーサーの上に乗せながら立ち上がる笑顔の大将。
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一実「………」
大将に呼びかけられた一実は、顔をあげる。
恥ずかしそうな表情の一実の上半身のアップ。
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12―13ページ
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大将「!」
一実「NS05…HA12…YU20」
大将に、謎の記号を読み上げる一実の後姿。
謎の記号を聞いた大将は、何かに気づいたようなハッとした表情をする。
※暗号は、依頼人が「代理結婚式業」を大将に依頼する符号であり、かつての依頼者でもあった紹介者が誰経由で「代理結婚式」の紹介を受けて式を挙げてきたかを示している。
依頼者のイニシャルと依頼人ナンバーといった風になっている。
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大将「YU20…"宇都宮 由紀様"のご紹介で…」
大将「"代理結婚式"のご相談ですね?」
右手人差指と中指を右のコメカミに当てて、何かを思い出すような仕草をする大将。
※大将の表情は、先程までのリラックスした表情から一転、鋭い表情に変化する。
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擬音「コクリ…」
無言で大将の言葉に肯く一実の顔のアップ。
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一実「あたし…」
一実「明日にでも"代理結婚式"(しき)を挙げなければならないんです!!!」
必死の表情で自分の窮状を大将に訴える一実の上半身のアップ。
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大将&雫「明日?」
一実の思いがけない訴えに驚く表情の大将と雫。
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(時間経過・場面転換)
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●
大将「…なるほど おばあさまが"ステージ4"の末期癌で…」
大将「それで"代理結婚式"(しき)を 明日にでも挙式(あげ)たいと…」
大将の事務所の応接室。
テーブルをはさんで、大将と一実がソファーに座っている。
ソファーに腰かけながら、屈めるように前のめりになって一実の話を聞き入る大将。
雫がお客である一実の前にティーカップをのせたティーソーサーを置こうとしている。
※応接室に場面が移ったことがわかるように、斜め真上からみたフカンの構図で。
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字幕「土肥 一実(どい かずみ) 会社員」
一実「あたし 小さい頃に両親を事故で亡くしてから…おばあちゃんに育ててもらってきたんです…」
ソファーに腰かけて、落ち着いた表情で自分の境遇を話す一実。
膝のうえに両手を重ねていて、育ちの良さを感じられるたたずまいで。
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一実「高校…大学と行かせてもらって…」
一実「社会人になってこれから恩返しができると思っていたのに…」
祖母との思い出を回想する一実。
セーラー服姿でピースポーズをする一実。
大学の卒業式で入れ物に入った卒業証書を片手に、互いに和服姿で写真に収まる一実と祖母の工藤 経子(くどう きょうこ)。
白髪のショートヘアの上品な老婦人。
ビジネススーツを着た一実を見て、立派になった孫の姿に涙を見せる経子。
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擬音「ギュッ」
一実「同僚の由紀から"代理結婚式"のこと聞いたんです!」
一実「ここなら"花婿"や"花嫁"の代役を派遣(ようい)してくれるって!」
膝の上で重ねた手を強く握る一実。
※一実の強い覚悟を表現している。
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一実「お願いです 吾妻さん!」
一実「祖母のために…あたしの"花婿"になってください!!」
右手を左胸に当て、ソファーから身を乗り出すような姿勢になりながら、必死の表情で自分の想いを訴える一実。
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14―15ページ
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擬音「ガチャッ」
万桜「その依頼 お受けいたしますわ! 大将(たいしょう)!!」
応接室のドアの開く音がする。
※「代理結婚式業」にキャストを派遣している会社の社長である伊東 万桜(いとう まお)が大将の事務所の応接室のドアを開ける。次のコマで万桜を登場させる。
万桜は、大将の亡き婚約者である澪の姉であるとともに、大将の事務所の大口取引先の社長でもある。
万桜が大将(ひろまさ)を「たいしょう」とあだ名で呼ぶのは、2人が身近な関係にあることを表現している。
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字幕「伊東 万桜(いとう まお) 伊東キャスティングエージェンシー社長」
背中まで届く黒髪のロングヘアで、ビジネススーツ(ジャケットとパンツ)姿の万桜の上半身のアップ。
自信に満ちた表情の知的美人(クールビューティ)な趣の女性。
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大将「万桜(まお)…」
雫独白「ムッ」
断りもなしに応接室に入ってきた万桜に驚く大将。
ソファーから立ち上がる大将。
日頃から、煙たく思っている万桜の突然の登場に、ムッとした表情をする雫。
※大将・雫・万桜の三角関係が何となく読者に伝わるように。
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擬音「サッ」
万桜「お話し聞かせてもらいました…おばあさまのために誠心誠意 つとめさせていただきます!!」
すかさず、ソファーに座っている一実の手を取り、大将の断りなく"代理結婚式"の依頼を快諾する万桜。
突然の万桜の登場と思いがけない快諾に、呆気にとられて鳩が豆鉄砲をくらったような驚いた表情をする一実。
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大将「万桜…まだ依頼を受諾(うけ)るとは一言も…」
いきなり話に入ってきた万桜に困惑した表情の大将。
大将の後ろで、目を怒らせて「女狐出入り禁止」と描かれたプラカードを掲げ、抗議の声を人知れずあげている雫。
●
擬音「グッ」
大将のスーツのネクタイの結び目のアップ。
結び目を鷲掴みする万桜の右手。
●
●
鷲掴みした大将のネクタイの根元を引っ張り、自分の顔に大将の顔を近づける万桜。
主導権を握って得意げな万桜と、旧知の万桜の強引な行動に戸惑った表情の大将。
※大将と万桜の顔がわかるように2人の横顔を描く構図で。
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万桜「子曰く 義を見てせざるは勇無きなり…」
万桜「亡くなった澪(いもうと)が見たらどう想うかしら…大将(たいしょう)?」
大将の婚約者であった妹の名前を持ち出して、大将を圧迫するように決断を迫る万桜。
万桜のペースのプレッシャーに、困惑気味の大将。
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雫「ちょっと…勝手決めないでくださいよ!」
顔を真っ赤にして、大将への圧迫を制止しようとする雫の顔のアップ。
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擬音「フフン」
擬音「ツケも溜まってるしね」
万桜「あ~ら~キャストの派遣元はワタシの事務所(ところ)なのよぁ~」
万桜「それに 事務所(ここ)を設立したときの"最大出資者"…一体誰だったかしら?」
口元に笑みを浮かべて、雫の抗議を軽くあしらう万桜。
※それとなく、読者に大将の事務所が儲かっていないことを提示する。
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万桜「おばあさまのため 一肌脱がせていただきますわ!!」
一実「はあ…」
再び、ソファーに座る一実の手を取って話しかける万桜。
呆気にとられたままの一実。
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16―17ページ
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雫「うぅ~これも貧乏なのが悪いんだ~」
俯き、万桜の事務所への支払い(ツケ)を払えない大将の事務所の窮状と、キチンと断れない自らの境遇を嘆く雫。
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擬音「スウ~」
大祐「あのぅ~社長…」
大将と背格好の似ている万桜の事務所の新人キャストである曽我 大祐(そが だいすけ)が遠慮しがちな表情で戸惑いながらも応接室に入ってくる。
ビジネススーツ姿だが、ネクタイの結び目を緩めている、
短髪で体育会系だが、両耳にピアスをつけたヤンチャな青年ぽい大祐。
※大将と背格好が似ているのは、次回への伏線。
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字幕「曽我 大祐(そが だいすけ) 万桜の事務所の新人キャスト」
万桜「あっ そうそう…大将(たいしょう) 新しいキャスト(こ)を連れてきたのよ!」
万桜「事務所(うち)の期待の新人(ニューフェイス)」
初対面の大将たちに打ち解けていない硬い表情をした大祐の上半身のアップ。
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大祐「曽我 大祐ッス 大将(たいしょう)さん…以後よろしくお願いします!」
言葉遣いは体育会系だが、深々と大将に頭を下げて挨拶する大祐。
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大将「名前…大将(ひろまさ)だから オレ…」
大将独白「万桜…お前 間違いなく名前わざと間違えて教えてるだろ…」
大祐に向けて、呆れ顔で自分の正しい下の名前を言いつつ、心の中で旧知で腐れ縁の万桜に対して毒づく大将。
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擬音「ハッ」
大祐「!」
心底驚いた表情の大祐の顔のアップ。
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擬音「ガバッ」
大祐「すいませんでした~! 大将(たいしょう)さん!!」
とっさにその場に腰を下ろして、大将に土下座する大祐。
名前をわざと間違えたわけでないのに、大祐に土下座されて困ってしまう大将。
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擬音「クスッ」
大将と大祐のやり取りを微笑ましい笑顔でみる一実。
場の雰囲気に知らないうちに打ち解けた一実を見て、ホッとした表情の雫。
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大将「一実さん…」
一実に呼びかける大将。
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18―19ページ
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大将「一緒によい"代理結婚式"(しき)になるよう 頑張りましょう!」
右手を一実に差し伸べて握手を求めようとする笑顔の大将。
※大将が握手を求めることで、大将が一実の依頼を受諾したことを意味している。
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擬音「バッ」
一実「はい! こちらこそお願いします! 大将(たいしょう)さん!!」
ソファーから慌てて立ち上がり、大将の手を取る間もなく頭を下げてしまう一実。
●
一実「あっ」
自分も大将の名前を間違えてしまい、慌てて口元を手で押さえる一実。
●
擬音「アハハ」
万桜独白「うふふ…一実さん(クライアント)も すっかり打ち解けてくれたみたいね…」
うっかり名前を間違えた一実に対して雫や大祐たちから笑いがおこる。
ホッとしたような表情で大将と一実のやり取りを見守る万桜。
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万桜「それじゃあ さっそく お仕事開始よ!!」
気合いの入った万桜の顔のアップ
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(画面暗転・時間経過・場面転換)
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一実の祖母の経子が入院している郊外の総合病院の外観。
数階建ての建物が林立して繋がっている真新しい感じの建物群。
※陽は西に傾いた午後の時間帯という設定。
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擬音「コツコツ」
擬音「カッカッ」
経子が入院している病棟の廊下を歩く一実・万桜・大将・雫・大祐の5人。
一実を先頭に縦に2列になって床を歩く靴音が響きわたっている。
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万桜字幕「ワタシたちは 会社の同僚として"お見舞い"に同行するわ…」
一実たち5人の上半身のアップ。
万桜だけが先程までと違い、黒縁の眼鏡(伊達眼鏡)をかけている。
※5人の顔が折り重ならない構図で。
※5人は、経子の病室に向かいながら、あらかじめ打ち合わせてきた事柄を思い出している。
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万桜字幕「病室に着いたら あなたの口から大将(かれ)との結婚をおばあさまにご報告するの…」
先頭を歩く一実とその後ろを歩く万桜の上半身のアップ。
緊張した表情の一実と、そんな一実を気遣うような表情で後ろから見つめる万桜。
●
万桜字幕「ワタシたちがお祝いするから…あとはおばあさまと今後の"代理結婚式"(しき)の日取りについてお話をしましょ 一実さん」
経子の病室の出入口の壁に描かれた部屋番号のアップ。
部屋番号の下の入院患者の氏名の欄に、「工藤 経子」と一実の祖母の氏名が記載されている。
※個室に入院しているという設定。
一実がお金をかけて祖母を個室に入院させるほど大切に思っていることを示している。
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20―21ページ
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一実「おばあちゃん!」
ベッドの上で上半身をを起こしながら、病棟の窓に広がる代り映えのしない住宅や小さな工場の景色を独り眺めている病院の薄手の衣服を着た一実の祖母の経子。
遠い昔のことを思い出しているような表情をしている。
経子のベッドの側には、点滴が掲げられた点滴スタンドや、血圧や脈を計測するための機械や医療用機材がのせられたスタンドが置かれている。
点滴のチューブや機械からのびたケーブルがベッドサイドの柵の間を這っている。
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擬音「!」
字幕「工藤 経子(くどう きょうこ) 一実の母方の祖母」
経子「おやまあ 一実…」
病室の出入口の方を向く経子。
孫の一実の姿を見て、柔和な笑みを浮かべる。
●
経子「こんな時間に…仕事 サボってきたのかい?」
一実「ううん…今日は土曜でお休みなの…おばあちゃん」
ベッドサイドで祖母の両手の上に、自分の両手を重ねて笑顔で語り掛ける一実。
経子も孫である一実の元気そうな顔を見つめて嬉しそうに笑っている。
●
万桜「こんにちは~♪」
経子に声をかける万桜。
万桜たち4人の存在に気づき、オヤッとした表情の経子。
●
●
経子「一実…お客さんかい?」
経子のベッドの周囲を囲むように立つ万桜・大将・雫・大祐。
※一実たちの配置は
雫 大祐
窓側 大将 万桜 病室出入口
経子 一実
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擬音「ニコッ」
万桜「ワタクシ 一実さんの上司で伊東と申します」
伊達眼鏡をかけた営業スマイルの万桜が、ベッドサイドに近づき経子に挨拶をする。
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擬音「ジィ―――」
相手を値踏みするように、目を細めてジーっと万桜の顔をしげしげと見つめる経子。
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擬音「ドキッ」
一転戸惑った表情の万桜の上半身のアップ
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22―23ページ
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擬音「オロッ」
経子「女優さんみたいなキレイな顔して~ベッピンさんだね~♪」
思いがけない経子の言葉にズッコケる万桜。
嬉しそうに笑う経子。
目を点にして呆気にとられる一実。
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経子「若いときのわたしを見てるようだわぁ~」
万桜「あはははは~」
万桜独白「バレたかと思ったわ…」
ベッドサイドの柵を支えに起き上がる万桜。
伊達眼鏡がズレており、呆気にとられた表情で笑っている。
※万桜と大将はかつて同じ俳優事務所に所属していた俳優同士という設定。
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一実「みんな おばあちゃんのお見舞いに来てくれたのよ!」
ベッドサイドで立つ大将・雫・大祐に顔を向けて3人を職場の同僚として経子に紹介しようとする一実。
●
経子「こんなにまあ…大勢で…ありがたや ありがたや…」
仏さまに手を合わせるように、目を閉じて拝むような仕草をする経子。
マイペースな経子の姿にペースを乱され、困ったような表情の一実。
●
●
擬音「チラッ」
大将独白「一実さん…」
ベッドサイドにいる一実に向けて、ウインクをして合図を送る大将。
●
擬音「!」
我に返った表情で、病室にきた本当の目的を思い出す一実。
●
一実「おばあちゃん…」
一実「今日 会社の人たちと病室(ここ)に来たの…大事な話があるからなの」
ベッドサイドで経子の手を握り返し、真剣な表情で祖母に話しかける一実。
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一実「わたしね…同じ職場の男性(ひと)と結婚することにしたの!」
ベッドをはさんで向かい側に立つ大将の側に近寄ろうとする一実。
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擬音「ニコッ」
ベッドの上で上半身を起こしたまま、正面を見据えにこやかな笑顔の経子。
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擬音「ニコニコ」
経子「一実…良い男性(ひと)を見つけたねぇ」
ベッドの上から正面にいる大祐を見る経子。
大将ではなく、自分が一実の婚約者だと勘違いされてしまい驚いた表情の大祐。
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擬音「!」
大祐が婚約者と勘違いされてしまい驚く一実と大祐の顔のアップ。
※ちょうど一実が大祐の側に来たところ。経子は一実が大祐を婚約者として紹介しようと側に近寄ったと早合点してしまう。
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第1話終わり 次回(後編)に続く。
次回、経子に一実の婚約者だと勘違いされてしまった大祐は、果たしてどうするのか?急展開する「代理結婚式」の行方は?