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【漫画起業論】

最近、パワフルな起業家の方々からよく質問される。

「なぜ漫画家に起業家が少ないのか?」

彼らはいう。一定の成功を収めた漫画家は延々と印税がはいってくるキャッシュリッチな状態だ。さらに、複数のアシスタントを雇ってきた経験がありマネジメント能力もあるだろう。起業家として相当、有利なポジションにいると。 特に最近はエンタメ系のスタートアップが殆どという状況において、作画、演出、脚本、演技、全てを見れるトップ漫画家は最強の起業家になれるのではないかと。 にも関わらず漫画家から起業家に転身し、成功した人の話を聞いた事がないと、パワフルな起業家達は言う。

確かに、頭に浮かぶ、どの過去の偉大な漫画家も一定の成功を収めた後は、法人を作ったりはするものの沢山社員を雇ったり、上場させたりといった話は聞いた事がない。いや、それどころか有名漫画家が現職中に、漫画を書く以外の活動に注力しているのも聞いた事がない。

もちろん、古くを遡れば漫画を描きながらアニメ会社を起業した手塚治虫先生がいるが。でも当時は漫画とアニメの区別もあまりなかった時代なので、手塚先生にとってはアニメも漫画活動の一環だったんだと思う。 ともかく、パワフルな起業家たちが指摘するように、漫画家から起業家に転身して成功した人はあまりいないと考えられる。

一体なぜか? 

彼らのそんな問いに僕はいつもこう答えてきた。 「

漫画描くのはとても疲れるから、他の事する余裕なんかないんですよ」

と。 作画、演出、脚本、演技を全て統括して作品作りに没頭している漫画家はもうヘトヘトである。残った余力はせいぜい家族に注ぐぐらいか。


だが、そんな漫画家の状況が変わり始めた。 漫画家でありながら、それ以外の活動に時間を割いて成功を納める人が増えてきたのだ。まずパッと浮かぶのが、ぬこー様ちゃんなどの個人作家たち。

彼らは出版社と取引はせずに自身の漫画をSNSにのせ、Amazonインディーズなどで収益をえている。さらにその影響力で起業案件や様々な事業を営み始めている。

また、商業作家にも変化が出てきた。デジタルツールの発達によって作画時間やアシスタントへの指示出しが大幅に短縮された漫画家たちは余ったリソースを漫画以外の仕事に注ぎ込み始めている。 例えば僕が原作を書いている『TSUYOSHI〜誰も勝てないアイツには〜』の作画をしている丸山恭右さんは、週刊連載をしながらもYOUTUBEや講演会などそれ以外の活動に余念がない。 彼がすごいのが彼はTUSYOSHIから入ってくる印税収入の多くを、動画スタッフの育成や様々な事業に注ぎこんてきた事だ。それらの投資が今着実に身を結び始めている。

僕はこの流れが今後も加速すると予想する。AIだ。生成AIでの作画を非難する漫画家も多いが、AIによる作画の恩恵を一番受けるのは、これまで作画に多くのリソースを割いてきた漫画家自身である。特に週刊漫画家。 昔の週刊漫画家といえば下手すれば週7日、一日16時間労働ぐらいしていた。それがもし週4日、一日6時間労働ぐらいになればどうだろう?

もちろん浮いたリソースを使ってもう一本連載を立ち上げる人もいるかも知れない。だが、どうだろう。それよりも1本ヒット作品があるならば、それを使って様々なビジネスを自身で展開する方が効率がいい気がする。

はっきり言おう。これまで漫画家達は創作以外の仕事を、出版社に丸投げしてきた。だがAIやSNSも含めた各種デジタルツールがあれば、すべて自身で行える時代になってきたのである。そして、一通り自分でやってみて、要領を得た場合は自分でスタッフを雇ってさらに、自分のリソースに余裕を作る事が出来る。余ったリソースはさらに、事業に再投資。大成功は目に見えている。

日本からもイーロンマスクが生まれるかも知れない。 そういえばちょっと前の起業家の中心はコードを駆けるエンジニアばかりだった。エンタメ起業が増えるならば、最強のエンタメ職である漫画家が最強の起業家になるのかもしれない。 日本の起業家の中心が漫画家になる日も来るかも・・・

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