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ほぼ漫画業界コラム137【出版社は搾取しているのか?】

漫画業界がカオスになってきました。ただ、出版社が搾取しているなんて話題ですが、僕はそんな事はないと思います。全ては経済合理性から成り立っているからです。ちなみに原稿料を払っている以上、出版社の漫画事業は基本赤字です。だって連載作品の8割くらいはヒットしない赤字作品です。1割くらいが原稿料を回収できるトントン作品。残り1割が原稿料の何倍も出版社に利益をもたらしてくれるヒット作品。その中でもわずか上位数%の作品が超ヒット作品として全体の経費を回収してくれます。

もちろん、その超ヒット作品を描いている漫画家さんからすれば、原稿料率が不満なケースもあるでしょう。そこからは交渉ですね。している人はいると思います。原稿料やその他の待遇でバランスを取っているでしょう。漫画家は個人事業主ですから交渉するのも自由です。交渉決裂するならば他社に移ればいい。その自由がある限り搾取とはいえないと考えられます。著作権が漫画家に帰属する以上、漫画家は契約期間が終われば出版権、公衆配信権、二次利用窓口などの権利を引き上げられますし、契約期間が終わらなくても交渉によって終わらせる事もできます。ちなみに、出版社が国に求めている漫画に対する著作隣接権も今は認められてはいません。だから出版社ってそもそも漫画家に対して、強い立場ではないんです。

さらに、年々漫画のヒット率は下がっています。なぜなら発行点数、もしくは配信点数が爆発的に増えているから。だから今の漫画家の8割以上の方々は出版社に食わせてもらっている状態なのも事実なんです。僕自身も原作者として出版社にお世話になっています。ヒット作もあれば、ヒットしない作品もある。ヒット作は出版社に大きく利益貢献できていると思いますが、そうじゃない作品は原稿料と人件費分損害を与えている意識はあります。僕は元々は、出版社で編集長までやっていたから各出版社や配信会社の料率まで、大体知っています。各取次会社の料率も知っています。その数字を見ていると今は黒字にするのって、そんなに簡単じゃありません。みなさん、あらゆる手段を使ってその少ないヒット率をギリギリまで高め、なんとか黒字にしてるだけ。

でも、もし確実にヒットさせられたり、赤字に耐えられる資力があるならば漫画家は配信会社と直接契約した方がいいです。僕もそんな直接契約作品も作っています。今期は大きな黒字を出せました。でも来期は?さらにその先は?業界がうなるように変化しているこの時代では安心なんかありません。今期の利益をしっかりホールドしつつ冬の時代に備えます。だって社員抱えているんですから。だから原稿料を出してくれる出版社さんは大変ありがたい存在です。

まあとはいえこの数年間、出版社が大いに利益を出していたのは本当です。でも、それは本当にこの数年ですよ。コロナ特需があったほんのこの数年は大いに儲けたと思います。ただその前の2006年ぐらいから10年ぐらいは、出版社は苦しい時代でした。紙の本がどんどん売れなくなって来て、どこの出版社も赤字転落。潰れる寸前までいった所も多いはずです。小学館集英社など一ツ橋グループなんかは、それまでに投資して来た不動産の収益を使ってその業績悪化を耐えました。良い時期もあれば、悪い時期もある。コンテンツ産業なんてそんなものです。冬の時代を耐えるために、実りが多い時期の利益を使って安定した収益基盤を作って来た訳です。その後、電子書店の隆盛によって、出版社の売上は上昇していくわけですが…でも、それも先ほど述べたように新規発行点数の増加により苦しくなってきました。レッドオーシャンどころかブラックオーシャンに変化しつつあります。少なくとも国内は。海外に目を向けると、まだまだ可能性はありますがね。でもその時のライバルは、その現地の漫画家や出版社になる訳です。漫画は日本のお家芸という事でしたが、最近は海外の漫画家もどんどん育って来ています。10年後、活躍している日本人の漫画家と海外の漫画家の比率はどうなっているでしょうか。人口やテクノロジーによって技術差が縮まる事を考えると日本人が有利なのは日本市場においてのみになると思います。いや、それすら危ういかもしれません。

きっと、その時期に僕たちは思い出すでしょう。出版社が原稿料を出してくれて、面白い漫画を書けば成功できた時代を。いい時代だったなあと。今後、原稿料を出してくれる出版社は減っていくでしょう。原稿料の代わりにロイヤリティの最低保証、いわゆるミニマムギャランティが主流になると思います。韓国なんかは、そちらが主だっていう話も聞きます。

まあ、そう考えると当然今後は個人作家の時代になるでしょうね。既に沢山いますし。出版社に頼らずたくましく自分の力で大いに稼ぐ個人作家さんを僕は尊敬しています。ただ、今は商業と個人活動、どちらも併用してやっている人が一番成功している気もします。

ちなみに先日もさるインフルエンサー漫画家さんと会食しましたが、その方は漫画を通じて地方創生など様々な事に挑戦している方です。ただその方もおっしゃっていました。個人作家も瞬く間に飽和し、新規参入は難しくなる。YouTuberと同じで常に、人気の上下に苦しみ安らかでいられる時間は減っていくでしょう。全ては盛者必衰です。

最後にお馴染みの、平家物語の冒頭を添えて本日のコラムを終わらせて頂きます。最近、この句ばかり頭に浮かぶんですよね。俺大丈夫か?最近『逃げ上手の若君』にハマっているからですかね。あれ面白いですよね。
祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。


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