僕が生まれたこの島の空を僕はどれくらい知っているんだろう
「お母さん小満芒種(スーマンボースー)って知ってる?」
「梅雨のことでしょ?」
「そうみたいだよね。」
「それがどうしたの?」
「いや、最近知ったから。お母さん世代の人は使うのかな?って思って。」
今日の沖縄はずっと雨が降っている。今日というか、昨日も一昨日も、小雨がずっと降っている。
車の窓を叩く雨。せわしなく動くワイパー。車内に響く擦弦音。
沖縄の梅雨はとても梅雨らしく、1ヶ月ぐらい晴れの日が少なく、雨季のようにずっと雨が降り続く。
そもそも、梅雨らしい梅雨ってなんだろう?結構地域差があるのかな。
小中と那覇に住んでいた。その頃の家がまっすぐな坂道の途中にあって、何度か雨に追いかけられたことがある。
近年の夏はゲリラ豪雨の模様がテレビによく映される。真っ黒な雲から地面に向かって雨が伸びていて、降っているところと降っていないところの境目がくっきりしている。
子供の頃、あの境目に何度か追いかけられた。怖い半分、ワクワク半分。あの頃、どういう感情だったか、正確にはもう思い出せない。
雨が降る直前に土の匂いがする。その匂いは、専門用語で「Petrichor(ペトリコール)」というそうで、雨が降らないあいだに植物が土中に放出する油分が、雨で蒸発して匂いを発するのだとか。あの匂い割と嫌いじゃない。
もう少し匂いの話を続けると、香水にはアルコールベースのものとオイルベースのものがある。
西欧のものはアルコールベースのもので、天然香料と合成香料が入っている。
向こうのカラッとした気候、空気感に合わせて作られているので、日本でつけるのと向こうでつけるのとでは、香りの立ち方が全く違うらしい。
インドでは、オイルベースのもの、いわゆる「香油」が愛用されている。こっちの方が日本の風土、気候にはあうらしい。
ーーー
蝉時雨が響く真夏。昼とも夕方とも言えない時間に下校する。家が近づくにつれて襲ってくる。どんどん高まる緊張は、自宅アパートの階段の踊り場付近で頂点を迎え、ついに耐えきれずうずくまる。
「このまま死んでしまうかもしれない。」
迫ってくる死に感じる感情の大部分は恐怖だけど、僅かに混ざる心地よさ。これが死という得体の知れないものの魅力なのか。
空はどこまでも青く晴れ渡り、雲は大きい。遠くで戦闘機の飛行音が聞こえる。