
少女とハートとドラゴンの話
何もない、固い茶色い土の上に、一人の少女がおりました。
音も色もほとんどなく、静かな静かな世界です。
少女はいつも、なぜ自分がここにいるのかわからずに、蹲って泣いていました。
そこへ一匹のドラゴンが、やってきました。
まだ幼いドラゴンは、人懐っこい声で少女に話しかけました。
「やあ!お待たせ!」
少女は驚いて顔をあげ、小さな声でたずねました。
「あなた、だぁれ?」
ドラゴンは瞬きを二度して、首を傾げて言いました。
「君はボクを知ってるハズだけど…まあいいや。時間だよ♪」
「じかん…って、なんの?」
少女はまだドラゴンのことが怖くて、身体を縮こまらせていました。
でもドラゴンは楽しそうに話を続けます。
「ミカン色の雲が浮かんだら、ハートの種が落ちてくるんだ」
「はーとの、たね?」
「君が拾うんだよ♪」
「わたしが?」
納得いかない様子の少女に、ドラゴンは自分の両手を見つめて言いました。
「ハートの種は落ちてくるとき、とってもやわらかなんだ。ボクのこのツメじゃ、やわらかな種を傷つけてしまう。だから、君のやわらかな手がいいのさ」
少女もドラゴンの両手を見てみましたが、確かに彼のツメは硬くて強そうでした。
「ひろったら、どうするの?」
「この、ガラスの瓶に入れるんだ!」
するとドラゴンは、大きくて透明なガラスの瓶をいくつか、少女の前に並べて置きました。
「ハートの種は時間が経つと、堅くなる。そしたらボクの出番♪」
「あなたの?」
「そう!今度はこの硬く鋭いツメで、この固い土を掘って、ハートの種を埋めるんだ」
「うめると、どうなるの?」
ガラスの瓶とドラゴンのツメを、交互に見ながらたずねる少女に、ドラゴンは胸を張って答えました。
「芽が出る」
「め?」
「うん!ただ、ハートの種は気まぐれだから、全部の種から芽が出る訳じゃないんだ」
ドラゴンは首を左右に振って、やれやれと言った表情で、溜息を吐きました。
その溜息を聞いた少女は、なんだか悲しくなって言いました。
「よくわかんない!」
少女は大きな声で叫ぶと、また膝の間に顔をうずめて泣き始めました。
「わかんなくてもいいからさ、そろそろ立ち上がって、ハートの種を拾う準備してよ」
「やだ!」
ドラゴンは泣きじゃくる少女の上を、くるりと一周しました。
「じゃあ、泣かないでよ」
「やだ…」
鼻を啜る少女に顔を近づけて、ドラゴンはたずねました。
「ねえ。君はなんで座ったまま、泣いてるの?」
優しい声に導かれて、少女はドラゴンの瞳を見ました。
そこには、蹲って泣いている自分の姿が、映っています。
少女は、ますます悲しくなってしまいました。
「だって!ここにはなにもないし、だれもいないんだもんっ!ひとりぼっちなんだもん!」
うわーん!と声を上げて、少女は泣きました。
しばらくして、少女の泣き声が小さくなる頃、ドラゴンがこっそり言いました。
「でも、今はボクが居るじゃない。もう君、一人じゃなくなったよ?」
少女は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、目を大きく開いてドラゴンを見ました。
ドラゴンは、にっこり微笑みました。
「ねえ。立ち上がってみてくれない?ボクは手伝いたくても、この硬くて鋭いツメで、やわらかな君を傷つけちゃうから、助けられないんだ。だから君の足で、立ち上がってみてくれない?」
ドラゴンはゆっくりと、やわらかい声で少女を促しました。
もう泣かなくていいんだよ、というように。
少女は涙を拭うと、唇を引き締めて足に力を入れ、立ち上がりました。
すると―…
「わぁ!きれい!!」
少女は自分の着ていたワンピースを見て、驚きました。
そこには、絵が描かれていたのです。
茶色い大地の上に立つ少女が、ミカン色の雲から落ちてきたハートに手を伸ばしています。
少女の傍では、ガラスの瓶から取り出したハートを、ドラゴンが土の中に埋めていました。
そして土からは、いくつかの芽が出ているのです。
芽は、一つまた一つと大きく育っていて、ミカン色の雲から落ちてきたハートの色と同じ花を沢山咲かせているのでした。
少女はワンピースに描かれた絵を、くるりと一周してもう一度、目の前のドラゴンを見ました。
ドラゴンは、ワンピースに描かれたドラゴンと、まったく同じ姿をしています。
ドラゴンが「君はボクを知ってるハズだけど」と言っていた意味が、わかりました。
少女は目を輝かせて、たずねました。
「めがでたら、こんなふうに、きれいになるの?」
「ううん」と、ドラゴンは首を横に振りました。
少女の目に、また涙が浮かびそうになります。
「その絵以上に、綺麗で素敵になるよ♪」
ドラゴンは両手を広げて、楽しく歌うように言いました。
「ほんと?あっ!」
少女の目の前に、一つ目のハートの種が落ちてきました。
それをゆっくりやさしく掴むと、ガラスの瓶にそっと入れました。
ドラゴンは、嬉しそうに頷きました。
「ボクと一緒に、ここを綺麗で素敵にしよう!沢山時間はかかるかもしれないけど、ボクと君の二人だし。必ず叶うから!」
「うんっ!」
少女は笑顔で返事をすると、次に落ちてくるハートの種目がけて、駆けだしたのでした。
END
ザキマツさんの企画 《募集》あなた色に。に参加させていただきました。
https://note.mu/ta_ichigo/m/m3b9a52ea9a8a
昨日のイラストに、設定を…ということでしたので、短いお話をつくってみました。
…つじつまがあっていればいいのですが。
少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。
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