20150212バレンタイン企画表紙

洋菓子店の彼女と花屋の僕 #ハピバレ2015

「あの、さ」

もう何百回も声を掛けているのに、口が渇いて上手く声が出せない。
それは、今日という日だからだ。

「はい?」

僕の声に振り返る彼女も、すっかり見慣れているのに、見惚れてしまう。
それは、覚悟を持って呼び止めたからだ。

「これ…どうぞ」

一輪の赤いチューリップを、差し出す。
彼女を想ったときに浮かんだ、赤いチューリップ。

「え?どうしたんですか?コレ」

もう何万回もラッピングしてきたのに、今日はこのラッピングを13回もやり直した。
指先が震えて、止まらなかったから。

「あ…いつも、お世話になってるから」

相手がお客様ならスラスラ喋れるクセに、なぜ彼女が相手だとこうもままならないんだろう。
問い掛けに対する答えが、出せない。
肝心な答えなのに。

「わぁ!ありがとうございます!バレンタインにお花もらっちゃうなんて、いいんですか?」

「うん。バレンタインだから…」

「え?」

そう。
今日はバレンタインデーだから、キミに贈りたかった。

「あー…僕、チョコレートって柄じゃないから…その」

僕の気持ちを、キミに贈ろうと思った。
やっと気づけたこの想いを、僕らしい形で。
だけど、言葉が続かない。

キミは向かいの洋菓子店に勤めているから、今日はずっと忙しいのに。
そんなに時間はかけられないのに。
肝心の言葉が出てこない。

「嬉しい、です」

「え?」

「ありがとうございます♪」

不甲斐ない僕を、彼女の笑顔が包み込む。
僕の大好きな笑顔が。

彼女はペコリと頭を下げると、小走りに店へと帰って行った。
まだバレンタインデーは、終わっていないのだ。

ならば僕に、もう一度チャンスをください。
今度は必ず彼女に「好きだ」と伝えますから。

END

#イラスト #ハピバレ2015

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