映像作家_OSRIN / 情熱大陸
常田「斜め上からのアイデアが他の監督とは違う。どんなにキツイ、しんどい状況でもなんとかしてくれる泥臭さがすごい」
King Gnuのリーダー、常田大希はOSRINをそう評する。
2019年MTV最優秀ビデオ賞
白日 / King Gnu
再生回数は4億回を超える。
モノクロの世界で演奏シーンに徹したつくりは、本意ではなかったのだという。
本来のOSRINワールドは、不思議な魅力でいっぱいだ。
It’s a small world / King Gnu
このMVでは、ボーカルの井口理を宇宙人にし、4分近い曲を、固定カメラのワンカットで押し切った。
OSRIN「キモカワイイが好き。キモいって結構褒め言葉かも。よく使う」
「子どもが書きそうな話とか。子どもが空見て想像しているような景色とか」
彼の映像づくりは、身を削る想像のプロセス。というよりも、自由奔放な遊びの追求に似ている。
OSRIN「多分俺らみたいに楽しそうにしている奴らは、他にいないんじゃないかな」
OSRINは、撮影を終えたばかりのKing Gnuの新曲、逆夢の編集に取り組む。
逆夢のMVでは、廃墟と化したホテルの大浴場に、色とりどりの花を持ち込んだ。
植物が浸食している世界が欲しいと注文し、美術スタッフがつくりあげた世界で撮影を行った。
理想だったという、ステンドグラスの窓からは光が差し込む。
場所は自力で探すという。
毎回30〜40の候補を出す。
編集では、20を超えるアングルから、歌詞やメロディに合わせて、最良のカットを選び、組み合わせていく。
つなぎ方に正解はない。だからこそ、こだわりも強い。
例えば、アングルを切り替えるポイントをどこにするか。
OSRIN「24分の1秒で編集していく。音にドンピシャで合わせるのか、2,3フレーム前なのかで、カットの切り替わりの見え方が全然違う」
「24分の1秒で印象は、変わるし、分かる。単位はそのためにある気がする。ちゃんと提案や提供したいことに対して絶対必要なもの」
すべてにスピードが求められる時代。
一曲を映像にまとめるのに、およそ3日。
夜型人間には、徹夜も珍しくない。
「一生直せるな」
OSRINは事務所のソファに横になる。
プロデューサー「マジで帰ってないよね」
OSRIN「一番ここで寝てる。またねって言われるからね、娘から」
アシスタントに依頼した、逆夢のサムネイルのラフ案。
アシスタントから数パターンのサムネイルが送られてくる。
OSRINのチェックは手厳しい。
「どれも微妙だったわ。どれが一番強いかって考えないと。とりあえず分かんないから数パターン出しましたって言われても。だったら自分で考える。お前の意思がないと。その仕事の仕方してたら消費されるだけだよ」
細部の色調を整えたり、特殊効果を加えたりと、妥協を許さない職人の一面がのぞく。
一方で、次に取り組む楽曲、カメレオン/ King Gnuを聴きながら、演出プランを練る。
今日も家に帰れそうにない。
King Gnuの新曲、カメレオンは全編をCGにするようだ。
OSRIN「人形っぽく動かしたい。糸で引っ張られてる感を出したい」
CGによる人形劇。
普通に考えれば、5ヶ月はかかる。
だが配信は、2ヶ月後。
急がれるストーリーと絵コンテの作成がOSRINにのしかかる。
キャラクターのデザインすら、まだ出来上がっていなかった。
あえて困難に挑もうとする心意気。
OSRIN「楽はできるんですけどね。自分の夢でもあるので。あのバンドが成功するっていうのは。力抜くわけがない」
1990年、OSRINは東京に生まれ、愛知で育った。
絵が好きだった少年は、名古屋芸大で映像編集の魅力を知り、この道を目指す。
卒業後、上京して小さな制作会社に就職。
24歳で結婚したものの、文字通り地を這うような暮らしだった。
OSRIN「マジ金なくて。定期代4000円をどうにか浮かせるために、12kmぐらい毎朝チャリこいで」
「婚約指輪もあげられてないし、結婚式だってもちろん挙げてないし。我慢してって、ごめんねって。いつかヤバい人間になるっていうのだけを約束して。絶対俺はヤバい人間になるから。そしたらいくらでも今損してる分返すからねって」
その時期にデビュー前のKing Gnuと巡り会う。
OSRIN「カーナビ広告の仕事を当時やってて、(King Gnuに)見せた時にあまりにもテンション低いリアクションで。多分くそダサかった。(自分が)できること少なくて」
だが、創作への姿勢にお互い深く共感し、ミュージックビデオの依頼を引き受けたのが、全てのはじまり。
OSRIN「いい加減家族孝行しなきゃね。帰りてえ」
と机に突っ伏す。
一気にブレイクしたKing Gnuと共に、自身の世界も一気に広がった。
妻との約束があるから頑張れる。
けれど、家族との時間は…なかなかとれない。
映像作家としての評価が高まると、思いがけない仕事が舞い込む。
2年前から、櫻坂46のジャケット撮影で、演出を任されている。
OSRIN「今回、特殊な照明を組んでて。動くとその分、グラデーションの効いたボケが発生するようになっています」
目の回るような忙しさの中でも、完璧なイメージをつくり上げていた。
残像で滲む光の中に浮かび上がるアイドルは、もはやアイドルとは言いがたい。OSRINワールドの住人だった。
美術スタッフ「撮影最高。OSRINの現場は楽しいですよ。見たことのないものを現場で出してくれる。ヤバい」
OSRIN「緊張するかもしれない。大丈夫かな」
この日は、意外な人物とのミーティング。
俳優、森田剛から、一緒に映画をつくらないかと持ちかけられていた。
と、その時。
「お疲れ様です」
森田の妻、宮沢りえも同席して、OSRINの用意したシナリオのアイデアを聞くという。
構想しているのは、妻を亡くし、記憶まで失った男の物語。
先月、OSRINは沖縄にいた。
いくつもの仕事が並行して動いている。
それでもスケジュールを調整して、撮影後の滞在を延長した。
しばし、映画のシナリオに没頭したかったようだ。
思い描くストーリーを生身の人間の芝居やセリフで表現するのは容易くない。
多忙な日々に長く孤独な戦いが加わった。
OSRIN「責任があると思う。それはミュージックビデオも映画もCMも変わらない。誰かの時間を長くか短くか奪うことになると思う。っていう責任をもってやってる方がいいはず」
やる以上は、マジなのだ。
沖縄から戻ると、特別な仕事が待っていた。
King Gnuの井口理が、少年時代から憧れていた、ポルノグラフィティの岡野昭仁と出す曲の、映像制作。
井口の頼みなら、自ずと力が入る。
OSRIN「これは理の夢なので。お願いします!」
「憧れの人と歌うってさ、結構エモいよね。泣きそうだもん、お兄ちゃん的には」
OSRINは男気の人だった。
OSRIN「いいじゃん!みんないいよ!」
ところが、絶好調の現場にまさかのトラブル発生。
朝から使っていたカメラが、全く動いてくれない。
技術スタッフには、絶望の色。
それでもOSRINは、平然としていた。
OSRIN「あ!情熱のカメラある。番組のカメラで撮り始めたら本当にヤバいシーンだよね」
結局、スチール用のカメラでその場をしのぐことになった。
臨機応変にして、融通無碍。
OSRIN「センスは無い。期待してないから、自分に。だから楽しんでやれちゃうんですよ。期待してると上手くできない時、なんでできないんだよってなる。邪魔になる期待ははしないほうがいい。希望はあったほうがいいけど、期待はしないほうがいい」