『3:うたかたのひび』を終えて
こんにちは、作演出の鈴木あいれです。
劇団にとって2回目になるVR演劇『3:うたかたのひび』が無事終演しました。
ご来場いただいたお客様ならびに配信をご覧になったお客様、改めまして、ありがとうございました。
このnoteでは演出としての今回の公演の総括と、今後の創作に向けての考えなどをゆるゆるとまとめていこうかと思っています。
今回の目標「ノリとか空気感をVRの舞台に乗せる」
演劇の強み
演劇をほかのメディア(映画やアニメ、ゲーム、漫画等)と比較した際に特徴的なのは、観客と上演される世界が物理的につながった空間上に存在するという点だと考えています。
メディアが多様化する現代でこの特徴は演劇のみが持つ強烈な強みなので、これまで常に意識して作品作りをしてきました。
わかりやすいところで行くと、舞台上でカレーヌードルを食べてみたり、劇中で3mくらいあるやぐらを組んでみたりとか、そういう取り組みです。
いっぽうで誤解を恐れずに言うと、「セリフ」というものの優先順位はかなり下げていました。これは「セリフはテキトーでいい」という意味ではなくて、「物語の根幹の部分をセリフには任せずほかの空間的要素で語り、セリフにはできるだけ自由でいてもらいたい」的な考え方です。その結果、テキストでは書くことができない「ノリとか空気感」が舞台上に満たされて、最終的にはそれが客席まで届く、みたいなところを目指してきました。
(※「ノリと空気感」だけの作品は↓からご覧になれます。)
『ほんとうのわたし』でのこと
ただ、それは現実の演劇で目指してきたことであって、初のVR演劇であった『ほんとうのわたし』ではそこはいったん切り離して考えていました、というか切り離すしかなかったという感じです。
初めのうちはこれまで現実で作ってきたような感じで劇を作り始めていたんですが、何をしたら面白い、良いと思えるかが全くわかりませんでした。そもそもVRの舞台での上演を、上で書いた「物理的につながった空間上に存在する」と同じ手つきで扱っていいのかというところから疑念が生じ、一回これまでの手法は捨てて、ゼロからテキストに向き合ってみようということになりました。幸いにもさとださんの描いた世界観とセリフはかなり強度のあるもので、まずはそこを信頼して再構成を始めました。
そんななか迎えたのが『ほんとうのわたし』の負荷テストでした。当日来てくださったお客さんが俳優のセリフに対してかなりいい反応を下さったので、そこで初めて劇の完成形がなんとなく見え始めたという状況でした。
結果的に、『ほんとうのわたし』はコメディアスの劇としてはめずらしく、その重要な要素の大部分をセリフに担ってもらった劇になりました。
原作の良さを立体化してお客さんに伝えることもできましたし、これまでと違う形で演劇を成立させたという意味ですごくいい作品になったと思っています。
いっぽうで、『ほんとうのわたし』の中にも「セリフではない空気感」が成立できたシーンもありました(雪が降ってるシーンとか、特に)。当初は一度切り離した「ノリとか空気感を舞台に乗せる」というところが成立できるということがここでわかったため、次回公演(すなわち、『3:うたかたのひび』)ではここを一番大事な目標にしようと思ったのです。
目標は達成できたか。
そういう目標を掲げていたので、原作からの改変もいかにして「二人の空気感」を充実させるかという視点で行っていきました。
「性格の悪い三女のセリフ」が一字一句同じくして異なる伝記から出てきて盛り上がってしまったり(93番の素が出る)、芝居がかった口調を93番がするようになるまで3回も07番に同じセリフを言わせたり、テキストとしての情報量は非常に少ないんですが、舞台上の空間に与える影響は非常に大きいものになったように思います。
で、次の心配はそれが客席まで届くか、というところがあったのですが。迎えた本番、そういうシーンに対してお客さんが笑ってくださったり、頭を動かして俳優の方を見つめてくださったりしているのを客席後ろで見ていて、よかった、やっぱりVRであったとしてもこの「ノリとか空気感」は伝わるし、信じてよいものなんだなと思ったのでした。
次の目標
とまあ、長々と書きましたが、要は「現実でできてたことはVRでもできました!」ってだけなような気もしています。が、現実でできることをVRに持ってくるのはめちゃくちゃ大変なのは、特にVRでモノづくりをしている方々はわかってくださるはず……
なので、ということになるかはわかりませんが、次のVR演劇での目標は
群像劇をやる
コメディをやる
です。どちらも「ノリと空気感」を駆使しないと成立しないという意味でも、次の目標にふさわしいと思っています。
やりたい台本は決まっていますが、企画がでかくなるのでいろんなところと調整もしないとという感じ。
ご期待ください。
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