【感想】next to normal Nチーム
Next to Normal is a 2008 American rock musical with book and lyrics by Brian Yorkey and music by Tom Kitt.
2022年3月30日シアタークリエで観劇させて頂きました。
1回きりの観劇です。
わたしは、望海風斗さんのオタクなので彼女が出演するという作品は内容如何を問わず脊髄反射で観ることにしています。
作品紹介で、精神疾患の当事者が主人公であることを知りました。
精神医療をテーマにした作品が当事者や医療を変に誇張し、偏見を助長するのではないか、もしも当事者や関連する人が観て傷つくような内容であったら正直辛いなという不安が過りました。
贔屓の出演なのに、楽しめないかもしれないという不安な気持ちも実はありました。
観劇後に、色々な感情が逡巡して
なかなか上手く租借できず、この1か月は色々な方が感じた言葉を読んだり
同業者に、「こんな舞台を観てね…」と少し感想を話すなどしてアウトプットしていくことで何となく整理していきました。
実は、精神医療の現場に数十年従事しています。
どのような病であれ、好んで罹る人はいないと思います。
精神疾患によって奪われた生活や人生を取り戻すために奮闘している方達と接するため
この演目がテーマにしている「普通」とは何か
非常に考えさせられました。
「普通」の夫婦や、「普通」の親子とは何だろうと思います。
病気になった途端に、「普通」の梯子を外されてしまうのでしょうか。
発病したら「普通」を諦めなければならないのか
この舞台で再現されている情景を観ながら
自然と、過去の臨床で関わらせて頂いた一人一人のことを想い返しており胸がいっぱいになりました。
不誠実なことはしない
自分にできることを丁寧に真摯にやる。
改めて自戒を込めてそう思える作品でした。
劇評を書きます。
以下に、ネタバレありで感想を綴ります。
全体の感想
プリンシパルもいない、6人だけの舞台で全員が歌が上手いので圧倒されました。
躁状態であり、喪った息子が常に傍にいてくれる主人公の困りのなさ感(それは症状だから)と周囲の家族の苦悩の対比。それゆえに、主人公が置かれている状況や立場を想うと何ともやり切れない気持ちになります。
家族の心情を丁寧で具体的に描かれているこのリアルさは何だろうとずっと感じていました。
終演後に、読んだパンフレットに演出の上田一豪さんがお父様や奥様がMDIで治療を受けていた過去を明かされており得心がいきました。
一番好きなシーンは、幻覚の息子ではなく実在する娘の名前を呼んで助けを求めたこと。きっと、娘もやっと本当の親子、母からの愛があることを確認できて救いがみえたところです。
この物語は、家族の再生について書かれていてどこにでもある家庭のたまたま母親が病気で治療を受けているだけ。
「普通」にどこにでも起こり得る家族の物語なのかもしれないなとも思いました。
キャストの感想
ダイアナ(望海風斗)
女声歌唱に、感情を乗せて歌われる姿にまず引き込まれる。冒頭から、躁状態の性的逸脱行動にみられる宝塚では聞くことはないワード(所謂すみれコード)に自分でも初心で困るくらい動揺してた笑
病気がコントロールできていない、きっとこれは本来のダイアナではないのだろうなと思いながら観客としてはみているので、周囲の家族との衝突が苦しい。切なさや、真逆の大胆で激しい感情のふり幅がある芝居がさすがに上手かった。
ダン(渡辺大輔)
いいお声にうっとり。息子を喪い心のバランスを崩していく妻を温かく見守る役と見せかけて実はダンも当然深く傷ついていた。それは当然なことだと思う。妻を支えるために自分の心を殺して生きてきたのかなと。時々、エゴイスティックに見える演技も葛藤の現れだったのかしら。
ゲイブ(甲斐翔真)
声量も凄くあって何よりも鍛えられた胸筋に目が行く。
華やかで見栄えもいいし、歌声もいいので彼の登場が楽しみになる。
ゲイブは、わりと早いうちにダイアナの幻覚症状だとネタ晴らしがある。それは、何よりもダイアナの心の傷の深さを感じるし
否定されてきたダイアナの心の拠り所が息子という形で表されたのであれば、共存していく方法もあるよねと思う。苦しめるだけの幻覚でないのだとすればの話。
ナタリー(屋比久知奈)
歌が上手かった…すごい声量を浴びせられた。母の愛を求めているのに、母は目に見えない兄を追ってる。傷ついた複雑な年ごろの女性を好演していた。調べたら27歳なのね、思春期にしか見えなかった。強く見せているけれども今にも壊れそうなガラス細工のような演技だった。
ヘンリー(大久保祥太郎)
唯一の良心的な役らしいのだけど、何故かこの人は信じても大丈夫なのかずっと疑ってみてた笑
ドクター・マッデン(藤田玲)
二人の医者を好演。一人目のロボットみたいな動きをする薬物療法だけの医者はいわゆるダイアナの視点で医療に対するアンチテーゼなんだろうなあと。二人目の医者も、話を聞いているようで聞いていない傲岸不遜。精神科電気けいれん療法の提案もその後のフォローも雑の極み…気にしても仕方ないけれど見ていて一番しんどいのはマッデンの出番だった。
藤田さんはロック歌唱も恰好良くてすごく好みだった。
贔屓が出ていることで触れた作品でした。
今後の自分に活かしていきたい。
Aチームはまた別作品のようだとも聞くので、機会があったら見てみたいなあと思いました。
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