【5日でクビ】スナックで働いた話③
つづきです
■常連さんとわたし
ついにバイト初日。
スナックがオープンした。
わたしは友人のヘルプ?っていうのかわからないが、とにかく補助人員として席に座ることになる。
身バレを恐れずに正直にかくが、私についた源氏名は『栞』である。しおり。
ちなみに本名にはかすりもしていない。
スナックのテーブル席で、わたしと友人はそのお客さんを挟むように座った。
お客さんはおじさんというより最早おじいちゃんに近い年齢で、友達の父親が近所をうろうろしてそうな格好ランキング第一位みたいな格好をしていた。
友人いわく『比較的まともな常連さん』である。
『おっ!新しい子じゃん、かわいいね』
といわれたので、
『はい』
と答えた。
不正解なことはなんとなくわかっている。
ちなみに正解は『え〜♥うれしい♥お客さんもかっこいいですよ♥♥お名前きいてもいいですか?』である。多分。
今更なことを言うが、わたしの苦手なことは『お世辞』と『謙遜』だ。
■スナックが楽なわけがない
よく、『いいよなぁ女は、キャバクラで働けば楽して金もらえるし』と言う男性がいるが、冷静になってほしい。
おじさんと話して金をもらうなんて、それはもうほぼ会社である。
当たり前だが、みんながみんな水商売が楽だと感じるわけがない。
世の中には私のように『人に気をつかうとめちゃめちゃ疲れる』人間は一定数いる。
女の子がみんな甘え上手なわけではない。
私を誘った友人に『なんでスナックではたらいているの』ときいたら、『酒も話すのも好きだから、好きなことして金もらえて最高じゃん』といっていた。
これを聞いただけで、友人と私は全然ちがうと思った。
わたしは外に行くのはきらいではないけれど、慣れていない人と会話をすると、ありえないほど疲れてしまう。
繰り返して恐縮だが、やはり私、あまりにも水商売向きではない。
そりゃ脳停止で『すごーい』『かっこいい♥』『すきになっちゃう♥』をハローキティポップコーンマシーンの如く同じ言葉を言い続けろといわれればできるが、一応会話をしないといけないので、相手の顔色を見て、感情を読み、言語として理解しなければならない。
そんなのって難しすぎる。
わたしはお客さんとたのしく話す友人を前に、無言でもくもくとグラスを拭いた。
『〇〇さん、栞ちゃんね、偏差値70超えの有名な高校にかよってたんですよ。仕事もこないだまで大手の〇〇に勤めてて、すごいよね』と、友人がいった。
わりとリアルな個人情報を秒で暴露された。
ちなみに彼女の言った偏差値と前の会社が大手であることに関しては、一応事実であるが、微塵も自慢にはならない。(しかしネタにはなる)
高校はインテリたちの空気に馴染めず街を徘徊し、結局好きなことをするために専門的な大学に進学したからろくに勉強していない。
『鬼の瞬発力』といわれ、とにかく勢いでおしきり、たくさんもらった内定からここ!と選んだ会社もブラックで3年でやめた。
めちゃめちゃ、なんでも切り捨てるのが早い。
プライドという言葉はわたしの辞書にないんか?
過去の経歴は尽く、いまの私の前では無意味である。
ちなみに過去がどうだとかは関係なく、今の私もいつの私も最高であるし、自己評価はめちゃめちゃ高いので、隠す必要もないから『そうです』と言った。
正直、そんじょそこらの人間より私は最高である。
なにをやっても最高だし、なにより私は私好みの顔とスタイルと頭脳をしている。
わたしなクソみたいな塩対応でおじさんと会話をし、
おじさんは、『なんで君みたいな子が、水商売はじめたの?もったいない』といった。
■そんな子という話
おじさんは、いくつか私に世間話をした。
わたしは淡々と、そのニュースの話や経済の話に、仕事をするみたいに答えた。
男性を前に自分からしゃべり倒すことは好きではないので、私はきかれたことに答えただけだった。
『賢いね』といわれて、
『賢いけど、ほんとに水商売には向いてないな、ほんとに』といわれた。
『そんな子が』という言葉は、この日についたすべてのお客さんに言われた。
『きみ、しっかりしてるね。そんな子がなんで水商売始めたの?』と、お客さんは全員聞いてきた。
私は『騙されたからです』といいたかったが、『まぁ、経験なので』と、そこは答えた。
自分におけるここでの評価は、どうやら『水商売をするような子ではない』という話らしい。
まぁ正確に言うと、水商売にやる気のない普通の子がなぜ、というところだろう。
でも、みんなが口を揃えて言う、『もったいない』とはなんだろう?『水商売をしなさそうな子』とは、なんなのか?
■自分が好きすぎる弊害
わたしは自分に対して、特段人と比べてめちゃめちゃまじめだとか、あたまがいいとか、綺麗だとか、そういう評価は特にしていない。逆に、馬鹿だとも、ブスだとも、不真面目だとか、そんなふうには微塵も思っていない。
というか、わたしは私がめちゃめちゃ好きで、自分の選択は何でも肯定する。
自分を、面白いやつだと思っている。
だれとも比較する必要がないくらい面白いやつだし、全人類敵になっても、あたしはアタシの味方だなぁと思っている。
だから水商売をすることも、仕事をやめることも、学校をさぼることも、ときに悩んだりはしたけど、『マァいんじゃね』と思ってきた。
でもここにきてはじめて、『君のキャラじゃない』みたいなことを言われた。
私ってそんなふうにみえてるんだな、と驚いて、そして『この人たちはなんで、水商売なんか、といいながら、水商売にお金を落とすんだろう、ここに何しにきてるんだろう』と思った。
そしてわたしは、『そんな子』といわれたスナックのお嬢さんたちの圧倒的才能と魅力を、ここから数日感で感じることになった。
そろそろnoteの結論が見えてきたと思う。
水商売の女は、まじですごかった。
つづく