ブライダルエステ受けた話
■間にあってなかった
結婚式が近づいているのに、ブライダルエステに行っていない。
ブライダルエステとは、結婚式当日きれいにドレスを着こなすために、はみ出た肉をなかったことにしたり、肌をすべすべにするために高額な金額を支払う行為のことである。
\ブライダルエステ…?/
なんか絶対やったほうがいいよな〜、みんなやってるしな〜〜〜と思いつつ、持ち前のだらしなさで調べるのをスルーしていた結果、結婚式の2週間前になってしまった。
さすがにやばいと思い、重い腰をあげてホットペッパービューティーの予約を入れることにする。
検索画面に「ブライダルエステ」といれると、たくさんメニューがでてくるのだが、いずれも「3ヶ月コード」「半年コース」みたいな文字が並んでおり、わたしは「およよ?」と思った。
みぎをみてもひだりをみても、結婚式2週間前の人間を対象にしたメニューなど存在しない。
どのメニューにも、「直前はお断り」といった記載があり、門前払いそのものである。
しかたなく、「記載漏れだろ…」とおもいつつも、唯一直前お断りの表記のなかった店を選び、式の一週間前に予約を入れた。
■いざエステ
そのエステサロンは、繁華街にあった。
幼き頃、親から「カラーギャングが出るからいくな」と言われていた某街のど真ん中である。
ドアを開けると中国訛の店員さんが、「イラシャイマセェー」と元気に挨拶してくれた。
雑居ビルの中にある、よくある感じの美容施術施設である。
「リラックスして、オチャ、ノンデネー」
と、その人は香りの付いたお湯を出してくれた。
お茶と言い張るそれは、味はしないのに匂いがめちゃめちゃ強い。どこに売ってるのかと、わたしは逆に感激した。
カルテを持ってきたスタッフに、「キョウハ、ブライダルエステね、ケッコンシキ、イつ?!」ときかれて、「来週です」といったら、その人は「ハァ?!」と声を上げた。
「ゼンゼン、間に合わないよ、ソレ!ふつう、オソクテモ3ヶ月前!ムリだよ!」
彼女はそういうとプリプリ怒って、「シカタナイ、とりあえずヤレルコト、やる!カルテかいて!」と、カルテを渡してきた。
カルテには、気になる部位、悩みなどの項目が並び、ヒアリング形式で悩みを伝える仕様だった。
わたしは二の腕、腹、などに丸をつける。
太ってないのは眼球くらいなので、特に気になる部位を選んだ。
ちなみに中国人オーナーのせいなのか、カルテの日本語がところどころ間違っている。
それでも意味は伝わるので、とりあえず意図を汲んで回答していった。
生活習慣や運動習慣などもきかれ、2ヶ月行っていないジムのことを考えて真顔になったりする。負い目がすごい。
エステで肌を整えるのはわかるが、痩せるとなるともっと効率的な方法が確実にある。
わかっていたのに、できなかったのだ。
運動とか、運動とか、運動とかである。
そして最期に、そのカルテには
「この体になった理由」
という怖ろしい項目(自由記述)があった。
おそらくこれも中国語を日本語に直したせいなのだとは思うが、散々悩みを書いたあとに理由をかかされるのは強烈である。
わたしの頭の中を走馬灯のように、通わなくなったジムの看板や食べてきたお菓子の袋、大量の米粒が通り過ぎた。
そしてただ一言
慢心
と書いて筆を置いた。
全ては心の弱さゆえ、である。
■なるほど、これがエステ
結論からいうと、ブライダルエステはなかなか良かった。正直適当に店をえらんだため、メニューの説明を受けてもあまり良く分からず、冒頭に謎の液体を塗られてから20分放置されたときは何事かと思ったものの、である。
※「背中が白くなったよ〜!」といわれたので美白パックだったのだと思う。
ちなみに、わたしが受けたのは小顔施術と背中と二の腕エステだったのだが、顔の施術はそこそこ効果が感じられた。
慢性的な肩こりがほんのり改善し、リンパの流れがよくなってむくみが取れた。
即時でて即時消える効果だろうとは思ったが、まぁそれは良い。
背中と二の腕に関しては、正直よくわからなかった。
スタッフに「全然違うよ〜!」とbefore afterの写真を見せられたが、私には差が全く分からず、最早アハ体験といった2枚の写真。
ちなみに「んん〜?」とクビを捻ったら、あんなに自信満々だったスタッフも
「コレハ、ワカラナイネ」
と突然トーンダウンした。
■そして勧誘
全ての施術が終り、また冒頭とおなじ香りのすごいお湯がでてきた。そして、スタッフがお決まりの勧誘をはじめる。
結論としては、
「結婚式は置いといて、お前はキレイにはなった方がいいから14万円のプランを契約しろ」
という話である。エステが一回で終わる訳がない。
わたしはのらりくらりとかわした。
そもそも契約するなら結婚式の前にする。ここで高額な契約をするのは馬鹿すぎるというものだ。
あらゆる勧誘文句を、私はすべて打ち返した。
しかしさすが外国人、押しが強いのである。
「忙しくてもうこられない」
「シンヤマデ、ヤッテル」
「いちど帰ってってから検討する」
「キョウしか、安くナラナイ、モッタイナイ」
「一応、明日まで効果が続くかみてから決めたい」
「何回もヤッテ、効果ツヅク、だからプランにナッテル、そういうモノ」
埒が明かないので、わたしは伝家の宝刀を抜いた。
「借金があるんです」
わたしの言葉に、はじめてスタッフの顔に動揺の色が見えた。
「ェ…」
まぁ普通にすべて嘘だが、整体に通ってて、そこで半年契約をしているから、ローンがあるのだ、と私は説明した。
「イクラナノ、ソレハ…」
私は整体の契約などしたことがないので、適当「19万円」と答えた。
「オカシイよ…高すぎるよソレ…ダマサれてるよ…オカシイ整体ダヨそれ…」
値付けを誤ったらしい。
彼女の目にドン引き、という言葉が浮かんでいる。
まずい、と思った私は「でもあの、サブスクなんで」と嘘を重ねた。
「サブスク…?」
「行き放題なので、怪しくないです。良くしてくれてるし、そんな悪い場所じゃないです」
わたしは存在しない整体院と先生を、なぜか必死に庇った。
契約しないとわかると、スタッフはまだ香りの付いたお湯がたくさん残っているのに「ジャアマタネー」と即座に私を追い出した。
嘘をついた負い目があるので、頭を下げて店を後にする。
なかなかいい気分だった。
ちなみに、家に帰ってから、この前日に受けたブライダルシェービングの翌日は、絶対にエステをしてはいけないということ知った。
以上が、わたしのブライダルエステ体験である。
これがほんとのブライダルエステなのかはよくわからないが、まぁ今後結婚する後輩などがいたら、
「なかなかいいよ、ブライダルエステ。おすすめ」
と上から目線で、アドバイスをしていきたいと思う。
おしまい