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【5日でクビ】スナックで働いた話⑤最終回

続きです

■今日から頑張る私

スナックのアルバイト中、やばい男たちの来訪を受け、『仕事としてきちんと頑張らねば』と心を入れ替えた私であったが、時既にお寿司、ということでママから『早くやめさせたい女No.1』の扱いを受けていた。

ママは新人面接を繰り返しているらしい。

お客さんの前でにっこりと笑ってみたいが、やっぱりうまく笑えない。相手とうまいこと会話をしたいけれど、やっぱりシラフの状態で会話をすることは難しい。

頑張りたい気持ちと、なんとなくの気恥ずかしさと、やっぱり見つけられない会話の糸口に、私は段々気持ちが沈んでいった。

もう遅いのか?やっぱり、出鼻をくじかれたらおわりなのか?

そんな私に、その日、神様みたいなお客さんがついた。

■私を指名するおじいちゃん


そのおじいちゃんは、なんと私を三日間指名してくれた。

彼は連日やってきて、入るとすぐに、『栞ちゃんをつけて』といった。

しかし当然、わたしはおじいちゃんともまともに話せない。

それでも、指名してくれる。

わたしが話の途中で沈黙すると、おじいちゃんは、『栞はここにいたらいけないよ、早くやめなさい』といって、梅酒(とおじいちゃんは思ってるが、本当はノンアルコール)を私に飲ませてくれた。


そして、私が黙ったり、質問に『わかんない』というと、

『だめだなぁ、俺じゃなきゃ、栞はだめなんだよなぁ』といった。


ろくにしゃべれないし、あたまでっかちで愛想もないし、そんな女、俺が指名してあげないと、ほかの人はつまんないよ。

と、おじいちゃんは私を何時間もとなりに座らせて言う。


『ここにいる限りは、俺が栞を指名してやる。でも、栞はこの世界ではいきてはいけないよ。もっとしっかりした会社生活をしなさい。兼業もだめだ。アルバイトだって、こういうところは合ってない』

『でも、ここにいる女の子たちはコミュニケーション能力がすごいし、少しだけ頑張りたい気持ちもある』

『ここにいる女の子たちはみんな立派だよ。でも、仕事は能力の切り売りだからな。ここで可愛げと根性を売ってる女の子と戦っても、栞は勝てないし、あの子達みたいにはやれない。会社でしっかり働いたり、別の仕事を見つけるほうが、栞には向いているよ』

わたしはおじいちゃんの言葉に、そうかもなぁと思った。

■偏見と学び


『栞、喋れないならカラオケを歌っていいよ。歌うと女の子にお金がはいるから』

おじいちゃんの言葉に、ポチポチとデンモクを操作した。

ーーー私は、やっぱりどこかで水商売を軽く見ていたんだと思う。

こうして働いてみてその大変さと、自分にはないここで働く女の子たちの才能をみた。

でもきっと、私にだって才能があって、個性があって、そして、輝ける場所がある。

すべての場所で、そこで輝ける人がいて、だからこそすべての仕事が成り立つのだ。


それがしれてよかった。

働いた甲斐がある。

わたしはこの世界に向いていないけど、絶対になにかの、特別な才能がある。

前奏が流れると、お客さんたちはちらりと私をみた。


流れたのはサザンオールスターズ『栞のテーマ』。


父親の車でよく聞いた思い出の歌だ。これなら、おじいちゃんでも知ってるかなぁと思った。


『彼女が髪を指で、撫でただけ、それが痺れる仕草……』


よし、バイトをやめるか、と思った。



そして就活をして、人生で向いてることを見つけたらいい。

仕事じゃなくてもいい。
私に向いていて、私にできることをすればいい。


そして歌い終わったとき、私はにっこりとおじいちゃんをみた。



『栞………






お前、歌がうますぎる』



■クビ


その日から3日間、わたしは『キーを変えてないサザンオールスターズを歌わせているのに、めちゃめちゃうまい女』としてちょっとチヤホヤされた。

なんというか、普通に声量があるので様になるし、父の影響で聞きまくったので、ちょっと桑田佳祐のモノマネで歌うだけで盛り上がる。

一曲千円。


世の中ちょろいな〜とおもった。


さっきまでの謙虚な気持ちは秒で霧散した。


しかしそのあとママに呼ばれて、『栞、チーママが退院することになって、面接に受かった子もいるから、今日まででいいよ』といわれた。

わたしは『わかった』といって、席で待つおじいちゃんに、『ねぇ、私今日で最後だって』といった。


おじいちゃんはそうか、といって、


『栞、絶対に戻ってくるなよ』といった。


『うん』


『栞、は真面目に生きていくんだよ』


『うん』


『街であったら、声かけていいか?』


『だめ』



『そうだよな、栞みたいなきれいな子が歩いてたら、俺みたいなおじいちゃんは声かけられないよ』



『……ありがとう』



『栞…』




『ありがとう』



『栞………













最後に、足触ったらだめか?』






いいわけがない。



■まとめ


ということで、以上がわたしのスナックの思い出である。


あれ以来友達とは連絡をとっていなくて、あのスナックはまだ地元にあるかもしれないけど、前を通ったこともない。

お給料はやはり高額で、みんなそれなりにもらってそうだった。


しかし履歴書をその場で返却されたし、給与は手渡しだったので、税金は全員ちょろまかしてそうだなと今でも思っている。(わたしは税金はしっかりしてます)



そういえば、スナックには若い地元の大学生がたくさんいて、今回はその子達のことしか書かなかったが、次に多いのはシングルマザーだった。



シングルマザーの人は、『体を売ったら水商売はだめなの』といっていた。水商売は体をうらないで、もうけるためのものだから、と言っていた。


結局私はその後営業として社会に戻り、あいかわらず無愛想である。


いまでもあのおじいちゃんが、私を本気で応援してたのか、いつかスケベできるかもと期待してたかはわからないけれど、まぁ、とにかくすべていい経験だったといえよう。


おわり



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