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読書まとめ 『知がめぐり、人がつながる場のデザイン』(中原淳著)

わたしがオススメする本の重要なポイントをギュッとまとめました。この記事でご紹介するのは『知がめぐり、人がつながる場のデザイン―働く大人が学び続ける”ラーニングバー”というしくみ』(中原淳著,英治出版)です。

そもそもラーニングバーとは

「海外で開かれているような、インフォーマルに、フレキシブルに、インタラクティブに、多様な人たちが交歓しながら、ともに知恵を生み出していけるような場を日本の大学にも創れないだろうか」

本書の著者である中原淳先生の思いがきっかけで、ラーニングバーが誕生しました。

そもそもラーニングバーとは何か。本書では次のように紹介されています。

「ラーニングバーとは、〈働く大人〉と〈組織〉と〈学習・成長〉という三つの領域に関心のある人々が、それらにまつわる最先端のテーマをもとにディスカッションする場である」

(p.27)

このような説明を受けるとお堅い場をイメージされるかもしれませんが、いいかえると、ラーニングバーは、〈働く大人〉と〈組織〉と〈学習・成長〉に関心のある多様な人々が集まり、ゆるゆるとつながり、対話をしながら愉しく学べる「知的かつ愉しい場」だということです。
また、ラーニング「バー」といわれているように、会場には軽食や飲み物が用意され、参加者がともに飲み食いしながら対話を楽しむことができます。

ちなみに、わたしも2023年11月に「帰ってきたラーニングバー2023」に参加しました。そのときの講義内容や学んだことを別の記事にまとめていますので、気になる方はご笑覧くださいませ。

ラーニングバーのコンセプト

ラーニングバーでは大事にしているコンセプトがあります。それは、

①聞く
②聞く
③聞く
④帰る  
という場ではなく、

①聞く
②考える
③対話する
④気づく  
場である


ということ。本書では、「対話」が「気づく」の源泉であると書かれています。自分と異なる会社、異なるバックグラウンド、異なる価値観をもつ人と対話をすることで、自分の「あたりまえ」が他の人にとっては「あたりまえ」ではないと気づくことがあります。また、自分が知っている知識、持っている経験が、相手によき学びや気づきを与えることもあります。
聞く、考える、対話する、気づく、のプロセスによって、他者から自分、自分から他者へと、知がめぐっていく。そのような場がラーニングバーなのです。では、「知がめぐり、人がつながる場」であるラーニングバーをデザインするために、どのような点を意識すればいいのでしょうか?


◆◆◆

ラーニングバーをデザインするために

ラーニングバーをデザインするにあたってのポイントはたくさんあるのですが、とくに大切だと感じたことをまとめてみました。できるかぎり専門的な用語を使わないよう、本書で書かれていることをわたしの言葉でいい替えた部分がありますので、本書と表現が違う場合がございますがご理解いただけますと幸いです。

ラーニングバーを構成する3つの概念

ラーニングバーをデザインするうえで意識しなければならない3つの概念として、「モジュール」「ブリコラージュ」「カリキュラム」があります。本書では下記のように解説されていました。

ラーニングバーとは、「既存の多種多様な学びの場が持っている学習活動のよいところ(モジュール)をブリコラージュしながら、成人の学習のために構成されたカリキュラム」である。

(p.95)

モジュール
:ここでは「数十分程度の学習活動」を指す
ブリコラージュ
:多種多様な構成要素を組み合わせて、必要なものをつくり出す行為
カリキュラム
:学習者の学習経験の総体

ラーニングバーには、講師による講義、参加者同士の対話、講師へのQ&Aタイムなど、さまざまな形の学びが盛り込まれています。これらを組み合わせてカリキュラムをつくっていきます。そのときに、

「ずっと聞くだけだと飽きてしまうだろうから、ここで何か体を動かすようなワークを入れたら緩急がついていいんじゃないか」とか

「対話はレクチャーのすぐあとに入れることで、講義内容について自分が感じたことを整理する時間にもなるよな〜」とか

「ここで問いかけを入れたら、次に考えるヒントを与えて、それから自分なりの答えを出して、最後に講師が考えた答えを提示する流れにしよう」とか

さまざまな種類の学習活動をどのように組み合わせたら、参加者にとって充実した学びの時間になるだろうか、と考えながらカリキュラムを組むことが、ラーニングバーをデザインする人に求められるのだと思います。

テーマの設定のコツ

ラーニングバーの内容を決めるときに、どのようなテーマで講師の方々、参加者の方々でディスカッションするのかを明確にしておく必要があります。

そこで意識すべきなのは、「みんなの問題」であるかどうか。
最近のビジネスの現場で多くの人が「これは課題だ」と感じていることや多くの人が関心を寄せているホットな話題などをテーマにします。世間が何に興味があるのかを知るためには、常に社会に関心を寄せ、アンテナを張って、あらゆるところから情報を入手する必要があると思います。

空間のデザインに必要な3つの心構え

ラーニングバーを「知的かつ愉しい場」にするには、会場をどうデザインするかという視点も大切です。会場の空間デザインにあったて気をつけるべき3つの心構えをご紹介します。

1. 学習者中心主義
:運営をする側の都合や、教授者の都合を優先するのではなく、徹底的に学習者の立場に立ったデザインを行う。

人材開発や教育に携わる人は忘れてはならない考え方だと思います。準備の時間から本番、そして会が終わってからも、「参加者に充実した学びをお届けする」というミッションを常に握っておく必要があります。

2. 主催者がみんなで楽しんでやる
:みんなが楽しくやっているかどうかは学習者にすぐ伝わる。「やらされ感」が漂う場ほど、学習者にとって居心地の悪いところはない。

運営をする側も常に参加者に見られているということを忘れてはいけません。運営をする側も参加者も楽しく取り組むことで、会場が「知的で愉しい雰囲気」につつみ込まれるのではないでしょうか。

3. 常に観察し、必要に応じてデザインをつくりかえる
:どんなに工夫してつくり込んだものであっても、運営をする側の意図とはまったく違う効果を生み出してしまうこともある。だからこそ、現在進行形で起きている学習を常に観察し、必要に応じてデザインをつくりかえていくことが重要。

大切なのは準備してきたものを完璧にやり遂げることではなく、「参加者に充実した学びをお届けすること」です。それがミッションです。無論、徹底して事前につくりこんでおくことは大切ではありますが、状況によっては事前に想定していたこととまったく違うことをやる、という選択肢も常に頭に入れておく必要があります。


以上が、本書で解説されていた「ラーニングバーをデザインするときのポイント」でした。まだまだ紹介したい内容はたくさんありますが、気になった方はぜひ本書を読んでみてください。

◆◆◆

わたしが選ぶ本書のハイライト

最後に、わたしが本書の中で一番印象に残った部分をご紹介します。

他人に「変われ、学べ」と言いながら、主催側がテーマについて学んでいないセミナーやフォーラムがあれば、それは論理矛盾でしょう。「受講生へのきめ細かい指導」をうたいながら「学習者中心主義」が貫かれていないセミナーがあれば、聴衆は違和感をもつことでしょう。

〜中略〜

あなたのセミナー、フォーラムはデザインされていますか?
そして、
あなたに伝えたいメッセージはありますか?
そして、
あなた自身は学んでいますか?

(pp.110-112)

人材開発・組織開発・教育に携わるみなさんの中にはドキッとした方もいらっしゃるのではないでしょうか?
わたしはこの文章を読んでドキッとしました。人材開発・組織開発・教育に携わるものとしてこれからも学びを怠ってはならないなと思わせてくれる問いかけでした。

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