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Bib-1グランプリ2021開催リポート

このnote記事は、2021年11月6日(土)・7日(日)に開催されたBib-1グランプリ2021について、紹介された本とゲームの様子をまとめたものです。
本を愛するビブリオバトル普及委員会会員が全国からWeb上に集結し、東西それぞれのチームに分かれてビブリオバトルを行いました。

大会特設サイト

アーカイブ(YouTube)

執筆者プロフィール:
花岡猫子(ビブリオバトル普及委員会 普及委員)

大学生の時にビブリオバトルに出会い、2011年に入会した。現在は関東地区のビブリオバトル普及委員として、合間や休日にビブリオバトルを楽しんでいる。短文投稿に特化したSNS:Twitterにて、自分が参加したバトルの実況中継をすることを得意としており、今回は普及委員会公式TwitterにおいてBib-1グランプリの実況中継を担当した。現在もビブリオバトルのおかげで積読が増え続けている。

Bib-1グランプリ2021について


ビブリオバトルが誕生して10年以上の間、多くの方々に愛され、様々な場面で活用されてまいりました。
一方で、大会形式で大規模に行い販促効果を期待するものと、少人数で楽しみ出会いも密になる草の根運動的なものと、実施方法の二極化もすすみ、どちらか一方のメリットしかご存知ない、という方も多くなってきているのではないでしょうか。

本年は「どちらの魅力も一度に体験できるイベントを」というコンセプトのもと、普及委員会の有志メンバーが話し合いを重ね、エンタメ性とバトラー同士の交流面を重視した企画を考案し、試験的な開催を行いました。
チャンプ本を選ぶだけでなく、発表を聞いて実際に手に取った本をアンケートで回答していただくなど、実験的な試みも行っています。
全5回のバトルには、それぞれ「対決コンセプト」が策定されていますが、これはご参加いただいたバトラー自身の自主的な発案であります。
大会を通じ「こんな楽しさもあったのか!」と新しい発見に繋がれば幸いです。

先鋒戦 対決コンセプト:Bibliobattle of the Year 受賞者

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1. 峯苫幸多さん/ 葉真中顕『灼熱』新潮社 2021
2. 岡野海さん / エラ・フランシス・サンダース:イラスト, 前田まゆみ:訳『翻訳できない世界のことば』創元社 2016
3. 磯谷梨紗さん /★望月竜馬『I Love Youの訳し方』 雷鳥社 2016
4. 明石友貴さん /うおやま『ヤンキー君と白杖ガール』KADOKAWA 2019

「僕には”宇宙一可愛い彼女”がいるので、今日は勝てます」
こんなセリフで本の紹介を始めるバトラーが未だかつていただろうか。
ビブリオバトル歴10年を超える筆者は寡聞にしてそれを知らない。
そんなバトラー:峰苫さんが取り出した本は葉真中顕『灼熱』
第二次世界大戦終了後のブラジルで玉音放送を聞いた日本からの移民たち約20万人。
その中で「日本が勝った」「いや負けた」と意見が分かれ、やがて多くの死者を出すほどの抗争に発展してしまいます。
悲しい史実を背景に、「いつか共に祖国へ行こう」と誓い合った2人の少年の熱い友情を描いた長編小説。

初っ端から驚きの内容で聞き手を引き込んだ後は、岡野さん紹介の『翻訳できない世界のことば』が続きます。
普段馴染みのある表現は、外国語に「翻訳」すると途端に難しくなってしまうことも。
けれどその言葉の持つ意味や豊かさは変わらないのでしょう。
美しいイラストと共に綴られた言葉たちは、世界の広大さを身近に引き寄せてくれる魔法を持っているかもしれません。

3冊目はこちらも言葉が主役の1冊。
『I Love Youの訳し方』は様々な作家による”I Love You”の翻訳を取り上げまとめたものです。
読み手の心持ちによって、同じ言葉でも受け取り方が大きく変わるため、お気に入りの言葉はその都度で変わってくるそう。
「読み終わった後の月は、一段と綺麗かもしれません」と素敵な締め台詞で華麗に5分を走り切りました。

ラストの4冊目は明石さんご紹介の『ヤンキー君と白杖ガール』
街を牛耳り恐れられるヤンキー・森生が、白杖をついて歩く弱視の盲学校生・ユキコとぶつかってしまい…。
視覚障害だけではない様々なハンディキャップを描きながら、悩みも喜びも丁寧に描くラブコメディー。
ちなみに本稿執筆現在、この漫画を元にしたドラマが日本テレビにて放送中です。

初っ端から怒涛の紹介が続いた先鋒戦。
チャンプ本は『I Love Youの訳し方』でした!
ただしこの本、現在は絶版のため入手はとても難しく、できるだけ図書館や古書店などで探していただければと思います。

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次鋒戦 対決コンセプト:地方

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1.宍戸佳織理さん / 池田晶子『14歳からの哲学:考えるための教科書』トランスビュー 2003
2. 上和田真由子さん / 久保田里花『椋鳩十 : 生きるすばらしさを動物物語に (伝記を読もう ; 16)』あかね書房 2019
3. 角谷舞子さん / ★与謝野『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。 ビスコをめぐるあたたかで小さな物語』 光文社 2020
4. 関口俊介さん / 高田大介『図書館の魔女』講談社 2016

続いての次鋒戦は宍戸さんご紹介の『14歳からの哲学』で始まりました。
「生きるとは何か?」「愛とは何か?」「働くとは何か?」
…簡単に答えは出ないが、誰しも一度は頭をよぎる「問い」に対し、著者は難しい言葉を使わず、シンプルに優しい話し言葉で「自分で考える」ことを届けてゆきます。
大人が手に取っても十分に読み応えがあり、支えになってくれるかもしれません。

2冊目は上和田さんご紹介の『椋鳩十 : 生きるすばらしさを動物物語に』
作家として自然を題材に多くの物語を描いた椋鳩十は、教員や図書館司書としての顔ももち、「母と子の20分間読書」の第一人者としても知られるなど、様々な立場で人々に読書体験へ誘っていました。
本書は椋鳩十のお孫さんが執筆したことも大きな特徴です。

「今回が100回目のビブリオバトルになります」とお話しされたのはバトラー3人目の角谷さん。
「100回」といえば…の前振りで出てきたのは『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。 ビスコをめぐるあたたかで小さな物語』
ビブワンで紹介された20冊の中で最も長いタイトルの本になりました。
質問タイムで「どこでその本を手に取りましたか?」に対しての角谷さんは「行きつけの本屋さんにはおもしろ系の本ばかりを集めた棚があり、そこは毎回チェックしているんです」とのこと。
常連さんに注目される本棚づくりがビブリオバトルの多様さを支えています。感謝。

次鋒戦ラストは関口さんご紹介の『図書館の魔女』
言語学者の著者が紡ぐ、書物と言葉を操り大国間の陰謀に立ち向かう少年少女を描いたファンタジー。
このシリーズを読んだことで司書を志したという関口さんの元へ、チャット欄では多くの方から応援コメントが寄せられていたことが印象的でした。

対決コンセプトは「地方」でしたが、その実多種多様なラインナップとなった次鋒戦。
チャンプ本は『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。 ビスコをめぐるあたたかで小さな物語』でした!
それにしてもタイトルが長い…!(笑)

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中堅戦 対決コンセプト:子どもにすすめたい本

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1. 坂本牧葉さん / ミシェル・レミュー:作, 森絵都:訳『永い夜』講談社 1999
2. 佐々木奈三江さん / ★伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』光文社 2015
3. 松崎萌さん / 汀こるもの『探偵は御簾の中 : 検非違使と奥様の平安事件簿』講談社 2020
4.中山岳彦さん /なだいなだ『TN君の伝記』福音館書店 2002

6日の終盤・中堅戦は坂本さんご紹介の『永い夜』で始まりました。
なんと236ページもある分厚い本。
しかしイラストと文章はさらりと軽やかで読みやすいとのこと。
ベッドに入ってもなんとなく眠れない女の子が「もしもこうだったら…」と、とりとめのない空想をする様子が綴られていきます。
日本語への翻訳を作家・森絵都さんが担当された1冊。
質問タイムでは「寝る前の読み聞かせに良いでしょうか?」と「読み始めたらよく眠れそうでしょうか?」と、相反する質問が同時に来ていたことが印象深かったです。

2冊目は佐々木さんによる『目の見えない人は世界をどう見ているのか』。「障害を持った人の世界はどのように見えているのだろう」と疑問を持った著者による研究。
視覚障害を持つ方にインタビューを行い、丁寧に経験を拾い上げていきます。
世界の見方は自分が思っていたよりも広い。
そんなことを体感できる1冊。

身体面についての本の後は、心にギュッと届く素敵な夫婦関係。
松崎さんご紹介の『探偵は御簾の中』
平安時代を舞台に、検非違使(平たく言えば現在の「警察官」だと思っていただければ)の夫が持ち帰った事件を奥様が解いてゆくミステリ。
契約結婚で始まった夫婦関係が、次第に相手を想い合い、好きを重ねてゆく展開に萌えに燃える。
シリーズ化が決定し、現在2巻目まで刊行中。

4冊目は中山さんご紹介の『TN君の伝記』
「覚えて欲しいのは彼の名前ではなく、彼がどのように生きたのかだ」という著者の意図のもと、対象となった人物の名前はあえて伏せられている、ちょっと変わった伝記物です。
著者があえて匿名にした意図、描かれる生き様の魅力、この1冊をきっかけに興味を持ち、史実を調べていくうちに「なぜこの形に書いたのか?」を深く考えてしまうそうです。

さて、1日目の終盤となる中堅戦、子どもに広い世界を知ってほしい、心から熱くなれるものを見つけてほしい、一方で時には何も言わず、黙って寄り添ってほしい、そんな願いを叶える本に込められた願いを感じるバトルでありました。
チャンプ本は『目の見えない人は世界をどう見ているのか』に決定。
ヨシタケシンスケさんによる表紙イラストも必見です。

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副将戦 対決コンセプト:小説・ノンフィクション

副将戦note

1. 大嶋友秀さん / 沢木耕太郎『流星ひとつ』新潮社, 2013
2. 柴田美衣さん / ★シェンキェーヴィチ:作, 木村彰一:訳『クオ・ワディス』岩波書店, 1995
3. 瀬部貴行さん / ★佐藤亜紀『戦争の法』伽鹿社, 2017
4. 森一晃さん / 森有正『生きることと考えること』講談社, 1970

明けて翌日7日、副将戦1人目は大嶋さんご紹介の『流星ひとつ』
ビブリオバトルで紹介するベストタイミングを7年も待ち続けていたほど好きな1冊。
ノンフィクション作家の沢木耕太郎が、昭和の一時代を築いた歌姫・藤圭子にインタビューした内容をまとめた1冊。
インタビューものによくある「地の文」がなく、読んでいるとまるでバーカウンターの隣で直接、藤圭子さんのお話を聞いているかのような錯覚になるそうです。

2冊目は柴田さんご紹介の『クオ・ワディス』
「暴君」ネロ皇帝が統治する古代ローマを舞台に、軍人ヴィキニウスと当時”新興宗教”だったキリスト教徒の女性・リギアの恋愛を描く1作。
ノーベル文学賞も受賞している濃厚な大作で、読んでいるとローマの市場をのぞき、小道の前にたたずんでいるような臨場感があるほど。
物語は後半から大きく盛り上がり、ラストで題名の『クオ・ワディス』の意味に納得する爽快感がたまらないそうです。

3冊目は瀬部さんご紹介の『戦争の法』
すでに何回か出版されている本ではありますが、今回は九州の出版社・伽鹿社から出ている版のご紹介です。
佐藤亜紀さんの小説の魅力は"悪人"の描き方が秀逸なこと。
この小説では架空の日本で起きた戦争を舞台に、少年兵、武器の密輸商人など、「獣のように」本能に忠実に生きなければいけない人々の極限状態を描いていきます。
エンターテインメントとしても面白く、文学的なテーマも含めた重厚さが魅力。
伽鹿舎の出版物は取扱書店も限られており、手に入る機会がとても限られていることから、この機会にぜひ応援したい!という気持ちも込めてのご紹介でした。

ラストは森さんのご紹介、しかしタイマーが始まって2分近くも本のタイトルを話していません。
自己紹介や近況、好きなことやとりとめもない話でさらに4分近くが経過。
残り10秒での『生きることと考えること』を紹介すると話されました。
ビブリオバトルでの5分の使い方はバトラーの自由です。
タイムリミットのギリギリまで紹介する本を伏せる「作戦」はZoomウェビナーのチャット欄を大いに沸かせ、時間切れになるほどの質問が相次ぎました。

「ここぞ!」という本が出揃った副将戦。
チャンプ本は同票数獲得のため、『クオ・ワディス』と『戦争の法』の2冊同時チャンプとなりました。

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大将戦 対決コンセプト:司書・先生

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1. 中島利文さん / 木暮太一『カイジ「命よりも重い!」お金の話』サンマーク出版 2017
2. 筧美和子さん / ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』早川書房 2020
3. 田中肇さん / スーザン・バーレイ:作・絵, 小川仁央:訳『わすれられないおくりもの』評論社, 1986
4. 三浦一郎さん / ★高田宏『言葉の海へ』新潮社, 1978

いよいよラストの大将戦。
1冊目は『カイジ「命よりも重い!」お金の話』
中島さんは濃紺のスーツと黒いシャツにネクタイ、サングラスでまとめたクールなスタイルでご登場。
すでにこの時点でチャット欄は ざわ…ざわ…と湧いておりました。
内容は経済ジャーナリストが人気漫画『カイジ』を題材にお金を「使う知識」と「守る知識」を解説する1冊。

2冊目は『ザリガニの鳴くところ』
主人公の少女・カイアは6歳の時に両親に置き去りにされ、わずかな記憶を頼りに大自然の中を生き抜いていきます。
読み終わってしばらくは他の本が手につかないほど、この小説の世界に浸っていたという筧さん。
「今もカイアが自分の中に生きている」と話すほどの読書体験だったそうです。
動物学者の著者が初めて執筆した小説でもあり、自然描写の丁寧さと美しさが群を抜く1作。

3冊目は田中さんご紹介の『わすれられないおくりもの』
みんなに慕われている森の賢者のアナグマさんは、ある日死を迎えます。とっても悲しくて、どうしたらいいかわからない。
けれどアナグマさんは、みんなに「おくりもの」を残していったのです…。非常に重いテーマですが、明るい色と穏やかな筆致で、死に対する受け止め方を描いていきます。
著者のスーザン・バーレイさんは22歳の時に通っていた学校の卒業制作として作り、その後多くの人に親しまれた絵本です。

そしてラストは三浦さんご紹介の『言葉の海へ』
幾多の困難を乗り越え、日本初の近代国語辞典『言海』を完成させた文学者・大槻文彦の評伝です。
「全ての省庁で、言葉がきちんと伝わるように」という意図で作られた国語辞典。
当時20〜30代の若者が情熱を傾けた辞書作りが、その後もさまざまな仕事を産み、人々を繋いでいった。
その事実にグッとくる1冊を熱く紹介してくださいました。

魅力詰まった4作が揃った大将戦。
チャンプ本は『言葉の海へ』に決定!
野外からのリモートでのご参加だったこともあり、熱い気持ちがほとばしったバトルとなりました。

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大会をふりかえって

試験的な開催となったBib-1グランプリ2021。
「この日のために」と熟慮して選ばれた20冊をみて、各バトラーの気合を感じた2日間でした。
「チャンプ本」に選ばれた本以外にも気になるものが多く、バトル終了後の筆者はすぐに近隣図書館の蔵書検索ページを開き、紹介された本の所蔵を確認していました。

対面でビブリオバトルを開催した場合、発表中の5分間はバトラーの話を静かに聞くものです。
バトラーも聴き手の反応を見ながら5分間を自由に使います。
しかし今回はオンラインでの開催です。
ZoomやYouTubeのチャット欄に書かれたコメントは応援するものから発表内容へのツッコミまで多岐に渡り、聴き手の盛り上がり具合が可視化される様子は興味深いものでした。

本レポートでは各回の様子・紹介された内容についても書いておりますが、気になった方はYouTubeでのアーカイブ動画をご覧ください。

11月23日(火)には、紹介を聴いて実際に手に取られた本に与えられる「Bib-1大賞」を、ビブリオバトル普及委員会のYouTubeアカウントにて発表・表彰します。
そちらもどうぞお楽しみに!

よければサポートお願いいたします。いただいたサポートは、(一社)ビブリオバトル協会の運営資金として、ビブリオバトルの普及活動に活用させていただきます。