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「もがく女の出版ヒストリー」~平積みの夢を叶えるために~第7話
第7話:著者の禁止事項?
製本された「逃げられる女」が出版社から送られてきた。
ただの紙ではなく本として。
原稿ではなく立派な姿となって……。
時間をかけてその姿を眺める。
そしてこの本を抱きしめた。
愛しい我が子の誕生である。
この我が子を世に送りだす……と思うと胸が震えた。
しかも、勝手の知らない世界に送り出すのである。
愛しい我が子ならば一人でも多くの人の目に触れて欲しい。
誰かの手にとってもらい、そしてかわいがってもらいたい、
そう思うのは当然のこと。
誕生の歓びと同時に不安も膨らむ。
我が子の行く末を心配するのが親心だ。
製本された「逃げられる女」は来月には納本され書店販売になる。
その連絡が「全国の書店配本リスト」として出版社より送られてきた。
北から南まで、沖縄も北海道も入っている。
神田の三省堂も新宿の紀伊国屋の名前もあるじゃないか!
誰もが知ってる大型書店の名前を見て大興奮するもそれもつかのま
「この本は本当にこの書店に置かれるの?」
「本当に買ってくれる人はいるのだろうか?」
と重い気持ちになる。
さらに出版社から
刊行にあたりメッセージが送られてきた。
そこには禁止事項が書かれてあった。
「~書店へのあいさつはご遠慮下さい~
著者ご自身による書店へのご挨拶・営業活動は書店業務の妨げとなり、その後の取引に影響を及ぼすこともございますのでご遠慮下さい。書店と出版社の信頼関係の問題にも関わって参りますので……」
え~~っっ、そうなんだ。
それを言われるまで『地元の本屋さんに挨拶に行っちゃおうか、近所のよしみで置いてくれるかも!』などと企んでいたわたしは釘をさされたのだ。
出版社からのご法度はさらに続く。
「……大型書店・チェーン店への挨拶はご遠慮ください!
仕入れはあくまで書店の店長の裁量となりますので、強引なお願いや無理な要求、平積みして欲しい・目立つところにおいて欲しい・等は避けて頂きますようお願い申し上げます」
そりゃそうだ。
誰でも目立つ場所に置いて欲しいし著者にとって“平積みは夢”である。
作品を書いた人間なら土下座してでも、お願いしたいところである。
たぶん、以前にそういうことが何度も繰り広げられ、迷惑した書店側が出版社に苦情を伝えるケースがあったのかもしれない。
「しつこいんですよ!置いてくれってさぁ」
「困りますよ。いくら頭下げられても」
「そんな挨拶に来られても迷惑なんですよ」
みたいな。
著名人や名前のしれた作家ならともかく
どこのだれかもわからない、素人著者は書店の店長に嫌われるのだ。
本が誕生しても売り場に置いてくれるかどうか定かではない。
配本されても書店が本当にそれを陳列してくれるか分からない。
倉庫に置きっ放しの可能性も大いにアリ、
実際売ってもらえるのか分からない。
その不安を抱えながらわたしは何も出来ず
ただ指をくわえて待ってるしかないの?
我が子がどうなるのか、
どういう扱いを受けるか分からないというのに
ただじっとしているしかないの?
何かわたしにできることはないのだろうか?
せめて本当に本が置かれるかどうかその姿を確認したい。
本が売られる姿を見てみたい。
倉庫に放置されてるだけなんてイヤ。
うう~ん……
そうだ!!
思いついた。
書店に潜り込めばいいのよ。
大手の書店でパートとして雇ってもらえば……。
出版社からは営業や挨拶まわりは禁止されていたが
「本屋や書店でバイトをしてはいけない」などとは言われていない。
そうだ!働いたっていいいのだ!
自分の本の流通過程を見る?本屋の現状、実態を潜入ルポ?
自分で自分の本を売る?(著者でなくパートとして)
こんなヤツがいるか~~~っ。いや、まずいないよ。
本業の仕事とバイトの掛け持ちは正直キツイ。
しかし母は我が子のために頑張るのだ。
大型書店になんとか雇ってもらえたわたしはドキドキしながら初出勤をむかえた。
知らない世界に飛びこむには勇気がいる。
自分より年下の社員さんとの関係だとか
仕事内容の不安は当たり前、
しかし今回は違う意味でも緊張する。
「自分の本を売る」そのミッションは達成できるか?
わたしが潜り込んだ大手の書店は
一階は雑誌・実用書・小説で、
二階はコミック、
三階は 専門書となっている。
自分の本がもし置かれるとしたら、
この一階の恋愛小説コーナーの棚に納められるのだろう。
そのコーナーを眺めながら自然とわたしは拳を握っていた。
頑張れ美佐子!
<続く> 第8話:書店の仕事の裏事情
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