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少年は残酷な弓を射る 上
最初はただ不満だらけの主婦の愚痴をうだうだと読まされるんじゃないかって警戒して、実際そんな感じで本は夫への手紙という体裁で話が進んでいく。そしてどんどんと、美化され尽くして幸せの定義になっている、恋愛、結婚、セックス、赤ちゃん、そういったものの幻想がそれはもう面白いようにビリッビリに引き剥がされていく。
話は、コロンバイン高校の例の事件のように、息子が生徒を無差別殺戮をしたらしく、そんな彼への刑務所や裁判所などでの報告と一緒に、若い頃の話、仕事で成功した話、子どもが作りたくなった話、その最中の自分自身の違和感や不満を、交互にストレートに語られる。彼女の記述を読んでいると、ケヴィンは本当に糞ガキに思えるし夫もロクデナシに見える反面、刑務所で「何者にもなれない自分」からの脱却をはかったケヴィンがどこか魅力的に見えたり、ちょっと本を読まない時にこの話を相対的に考えると、結局一番の諸悪の根源は主人公なんじゃないかとも思えて、とにかくうんざりするのに、こんなに面白く本を読んでるのは久方ぶりで、早く明日の仕事を片付けて本屋へ走りたい。
ツーリストであり都会に行きた女性の、郊外と虚構の幸せにすりつぶされていく様は、どうなるんだろう。アメリカンビューティーやエレファントをまた観たくなったりもした。