『クジラの子らは砂上に歌う』 梅田阿比
不思議なタイトルの漫画。主人公は14才の少年。隔離された世界の中で暖かく生きる人々が、不意に触れる外の世界の暴力へ向いていく―
友人がとても推していたので一生懸命本屋さんを探していたものの中々見つからず、どうやら少女漫画の棚にあることが家に帰って分かったりした。内容とは裏腹に。
主人公の中性的な愛らしさが作者の持ち味なんだろうなと思った。それは年若いキャラクターだけではなく、老人や大人の描写もまたとても丁寧で、それだけでこの話の誠実さが伺える。
一巻の後書きで、作者が主人公の記録を不思議な書店で見つけ、それに基づいて漫画化したというような、指輪物語をトールキンを古い記録から掘り起こして物語にした説話を思い起こす、もうひとつの物語を書く。平和な世界から不意に外敵の恐怖に立ち向かうという設定は、指輪物語におけるホビットもそうだし、近年なら進撃の巨人なんかもそうだろうし、母国のことも少し頭をよぎった。
以下ネタバレ
一巻の終わりで訪れる不意。あっさりとしたコマの次に、とても愛らしい主人公と、その幼馴染のような女の子が銃撃されてしまう。そして次の巻のキャラクター紹介に、さらっと彼女が死んでしまったと記述されていたときはちょっとショックだった。その代わりに、一巻の半ばで出会った不思議な女の子が、主人公たちの国にいるに従って段々と感情が生まれてく。
暖かな人物表現に相反するような現実のギャップ、まだ男として成熟していない主人公のこれからの思春期としての悩みも含めながら、この砂漠の世界をどう描いていくのか(広げすぎないか)、楽しみに思えた。
(3巻まで読みました)