「食欲をそそる色と照明」
グルメブームを反映して、テレビ、雑誌などにはおいしそうな料理の映像や写真が氾濫しています。
人は料理を舌で味わう前に目で味わっており、見た目によって食欲がそそられたり、反対に食欲を失ってしまう場合もあるということです。
スイスの色彩学者ヨハネス・イッテンは著書の中で、次のようなエピソードを紹介しています。
ある実業家が自宅にたくさんのゲストを招待して晩さん会を開いたそうです。
テーブルに並んだ豪華な料理を見てゲストは大喜びでしたが、この時、主人は照明を赤にするように命じました。
厚いステーキは、赤の照明が当たってよりおいしそうに見えたのですが、つけ合せのホウレンソウは黒く、ポテトも赤く見えてまずそうになりました。
ゲストが驚いていると、今度は照明が赤からブルーに変わりました。すると肉は腐ったように、ポテトもカビが生えたように見えて、ゲストはすっかり食欲をなくしてしまいました。
やがて、照明がブルーから黄に変わると、ワインはヒマシ油のようになり、ゲストの顔も生気を失って青く見え、みんなが押し黙ってしまったそうです。
そこで、主人が照明の色を白に変えると、ゲストはホッとして食事に手をつけ始め、会話も弾みだしたとあります。
これは色によって食欲をそそられること、また食欲をなくしてしまうことの証明だと思います。
さまざまな調査を総合すると、人間の食欲を増進させるのは赤、オレンジ、黄などの暖色系で、ここに緑が加わります。
反対に、波長の短い紫や黄緑などが食欲を減退させる色だと言われています。
(参考文献「ヨハネス・イッテン色彩論」大智浩訳 美術出版社)