激ヤバ認識災害の湖:SCP-2316「校外学習」かみくだき解説
SCP-2316「校外学習」
要注意団体「失神交響楽」が暗躍するclass of 76シリーズの代表的なオブジェクトであり、深刻かつ重大な認識災害を及ぼす異常存在です。
SCP-2316の解説については、動画サイトの解説動画や先行する素晴らしい解説が沢山ありますので、ぜひそちらをご覧いただきたいのですが、この記事では初学者の立場から解説を試みるとともに、黒幕である失神交響楽や、他のオブジェクトとの関連などをかみくだいて整理したいと思います。
なお、解説に当たっては、報告書の内容をその都度引用しながらコメントしていきますので、冗長なところもあると存じますが、参考書的に見ていただければ幸いです。
※文字数がやたら多いですが、おそらくはクレジット表記によるものです。
概要
SCP-2316は、1975年にカーク・ロンウッド高校の高学年生が校外学習に訪れた、とある湖を中心とする異常現象です。非常に強力な認識災害を有しており、現場のエージェントはおろか、SCP報告書さえも、認識災害を広めるベクターへと変貌させてしまいます。
財団は、あの手この手でその存在を秘匿しようと試みるも、SCP-2316の異常性の根源である「俺」が報告書の閲覧者である「君」に語りかけ、認識災害により閲覧者に偽の記憶を刷り込み、高校時代の友人たちが待つ湖へと誘う…というのが大筋の内容です。
内容もさることながら、報告書のいたるところに、脚注や隠し文字、テキストの折りたたみをはじめとする様々なギミックが仕込まれているのも見所で、読者をオブジェクトの世界観へと惹き込んでいきます。
監督評議会命令
報告書の冒頭には、監督評議会命令により、報告書はレベル4/2316機密指定されていることが記されています。
これは、報告書自体に認識災害が含まれていて大変危険なため、許可なしに見てはならぬということなのですが、仰々しい文言が事態の深刻さを伺わせます。
オブジェクトクラス
SCP-2316は、アノマリー分類システム(ACS)により分類されています。これによって、オブジェクトの性質などをある程度推測することが可能です。
報告書の機密性を表すクリアランスレベルは4であり、前述する監督評議会命令と併せて、機密性が高いオブジェクトであることが伺えます。
収容クラスはKeterであり、封じ込めが困難なオブジェクトであることがわかります。
オブジェクトの影響規模を表す撹乱クラスはKeneq。これは5段階のうち、ちょうど3番目の区分であり、地域的・エリア的な範囲で影響を及ぼすオブジェクトであることがわかります。
また、危険度を表すリスククラスはDanger。5段階のうち、上から2番目の区分であることから、オブジェクトは極めて有害な性質があることがわかります。
余談ですが、「分類委員会メモ」では、ACSの使用例としてSCP-2316が挙げられていますが、メタ的な話をすれば、SCP-2316の作者であるdjkaktus氏がACSを推進しているためだと思われます。
ちなみに、このガイドでは撹乱クラスがなぜかVlamになっています。
報告書に異常な認識災害が含まれていることが警告されています。そのこと自体は先述の監督評議会命令でも記されていましたが、特筆すべきは認知抵抗値(Cognitive Resistance Value:CRV)です。
これは読んで字の如く、認識災害に対する抵抗値のことであり、閲覧者がどの程度、認識災害の影響を受けているかを表す指標となっています。閲覧者はこの後、ところどころでCRVの検証を受けることになります。
CRVが一定基準を下回った場合、危険性が高い状態と判定され、閲覧の中止と医療スタッフによる対処が行われます。
また、文中には「あなたは水中の死体に見覚えがありません。」という謎の一文が差し込まれています。
これがどのような意味を持つのかは後ほど触れますが、この一文はこの後も報告書内の各所で登場し、SCP-2316を象徴するフレーズとなっています。
補遺.1
!!!COGNITOHAZARD WARNING!!!の下には「彼らは長い間待っていたんだよ」というメッセージが隠されています。さて、一体なんのことでしょうか…?
補遺.2
CRVは、認識災害への曝露を演出する仕掛けとして機能していますが、類似の仕掛けは失神交響楽による世界終焉を描いたSCP-7676「1976年のグランド・シンフォニー」でも見ることができます。
同報告書の閲覧者は、マイクロサッケードを網膜スキャンにより常時観測されることになり、規定値を逸脱した場合は、認識災害に曝露したと見做されることになります。
マイクロサッケードは、視線がとどまっている間の無意識の眼球運動のことで、これを分析することで、脳がどのように視知覚を認識しているのかを判断することができるようです。
「水中の死体に見覚えがありません。」というフレーズがさっそく登場しました。マイクに向かってこのフレーズを繰り返すことで、ユーザーのCRVを検証する仕組みのようです。
また、後述するオブジェクトの特性から、おそらくは認識災害に対抗する自己暗示的な機能があるのだと推察されます。
なお、実際にはマイクに向かって喋る必要はなく、チェックボックスのある一文をクリックすると、次のように文章が展開されます。
私は水中の死体には見覚えがありません。
どうやら、無事にCRVのチェックをクリアできたようです。次に進みましょう。
特別収容プロトコル
財団職員のオブジェクトへの接近は禁止で、監視は遠隔操作のダミー探査機でのみ実施するとあることから、直接的な観察は危険を伴うことがわかります。繰り返し警告されてきた認識災害的な性質によるものでしょう。
しかし、映像や音声による間接的な観察にもリスクはあるようで、探査機で撮影・録音した映像・音声の取り扱いは、認識災害への適切な処置を取った職員に限定されています。
この認識災害への適切な処置というのが、先ほどのCRV検証というわけですね。
SCP-2316は湖に存在するようで、周囲をフェンスで囲うとともに、定期パトロールにより大衆から隔離しているようです。
「私は水中の死体に見覚えがありません。」がここでも登場しましたね。これ以降もちょくちょく出てきます。
パトロールには、SCP-2316の曝露経験や、特性について事前知識がない人員を充てるとされていることから、オブジェクトの異常性について知ることは、認識災害の危険性があることがわかります。
また、他のオブジェクトであれば、接近した人間に対しては救助や捕縛、記憶処理、場合によっては終了措置により対応することが多いですが、ここでは近付き過ぎた人物は死亡したと見做すとあることから、接近する人物はそのまま放置されるものと推察されます。
ここでまたもCRV検証が行われます。特別収容プロトコルでは、断片的にオブジェクトの性質が語られましたが、この程度の内容であっても、認識災害に曝露する危険性があるということなのでしょう。
私は水中の死体に見覚えがありません。
今回も無事クリアです。次に進みましょう。
説明
SCP-2316は、とある湖における異常現象の総称であり、湖に浮かんだ複数の死体の集まりとして出現します。
これらの死体の身元については、認識災害の危険性があるとして詳細は検閲処理されていますが、DNA検査によっても確定はしていないようです。
水面に浮かぶ身元不明の死体――CRV検証にある「水中の死体に見覚えがない」というのは、このことを踏まえたフレーズであったのだと推察されます。
検閲により身元が伏せられていたことから、オブジェクトの性質と同様に、死体の正体を知ってしまうことが、認識災害の曝露に繋がってしまうものと思われます。
脚注によると、この死体の数は不明ですが、現在は45体、最大で200体ほどあるとのこと。かなりの数ですね。
ちなみに、湖の所在と名称は伏せられていますが、後にSCP-7076「76年度生の卒業」において、その名称が明らかになります。詳しくは後述します。
SCP-2316実例は水死体の集まりのように見えますが、実は一つの実体である可能性が示されています。
各実例は見分けることができず、これらの身元不明の水死体には見覚えがないということが念押しされています。
本文中には脚注が振られていますが、何やら様子がおかしいです。
脚注を通じて、何者かが語りかけてきます。自らを「俺」と称する彼は、自分は水死体が誰なのかを知っている、君だってそうだろう、と言葉を投げかけます。
続く脚注では具体的に名前を挙げ始めますが、途中でブロックされたようです。
私は水中の死体に見覚えがありません。
SCP-2316を見ることや、その性質を知ること、何らかの在籍履歴がトリガーとなって、認識災害が発現することが記されています。
認識災害に曝露すると、各実例(水死体)を見覚えのある人間、それも古くからの馴染みのある知人であると信じ込むようになります。
これまで繰り返されてきた「水中の死体に見覚えがない」というCRV検証フレーズの意味合いが確定しましたね。
ちなみに、偽の記憶を植え付け、高校時代に関するあるはずのない思い出を想起させ、執着させるという性質は、SCP-1833「76年度同窓生」をはじめ、SCP-1423「76年、夏」、SCP-3776「キャンプ・ニムロッド」など、多くの失神交響楽関連オブジェクトに共通する性質です。
ここでも脚注が置かれています。この何者かは、報告書に書かれた説明内容を否定し、認識災害はSCP-2316実例が――古くからの友人たちが――助けを求める声なのだと語ります。
湖に入るか、実例と接触すると、新たな実例が出現するとともに、認識災害の強化を引き起こします。実例が増えるたびに、その異常性はより強力になっていき、影響者に水中へ入ることを強制させます。
そして、影響者は湖への入水後に消失し、回収されたことはないとのこと。特別収容プロトコルにおいて、湖に接近しすぎた影響者を死亡したものと見做すと定めているのは、この性質によるものなのでしょう。
何者かは、なおも語り続けます――不思議と、どこか聞き覚えのある声で。
補遺として、インタビューが記録されていたようですが、今はそのデータは削除されているようです。
オブジェクトの詳細を知ることは異常性の発現につながることから、認識災害をブロックするために取られた措置でしょう。
しかし、例によって脚注を見ると…
実は、空白部分には透明文字による仕掛けがあり、見つけ出してクリックすると…
ギミックが起動し、彼の言葉とともに、削除されていたはずのインタビュー記録が展開されました。
これまでの脚注もそうですが、財団のセキュリティをやすやすと突破して、報告書を改竄し、秘匿された情報を見せつけてくる彼は一体何者なのでしょうか。
財団のハリソン博士が、曝露者に対しインタビューを行った際の記録のようです。
曝露者の名前は黒塗りにされています。これも認識災害対策なのでしょう。実例のことを友人と称していることから、すっかり認識災害にやられてしまっているようです。
なお、曝露者の話では、水中へ入るのを強制されるような感覚はなく、自らの意思で水中へと入り、SCP-2316実例に会いに行ったのだと語っています。
これは、説明の項で記述された「入水を強制する性質」や「影響者は消失してしまい、戻ることない」という説明と矛盾しています。どういうことなのでしょうか。
曝露者は、SCP-2316実例を見覚えのある懐かしい顔であると言いながらも、まるで夢の中で見たように、正確には思いだせない奇妙な感覚があったと語ります。
「彼らは何となく奇妙だった」の箇所は、class of 76のtale「思い出ハブ 序曲:予鈴」へのリンクとなっています。
表示される画像は高校の年刊であり、下段に進むほど写真の顔が歪んでいき、メッセージが不穏なものになっていくことから、この年刊は失神交響楽関連オブジェクトであるSCP-1833「76年度同窓生」であると推察されます。
SCP-1833は、それを読んだ人間に、高校時代の偽の記憶を刷り込むという異常性を有しています。先述したとおり、これは失神交響楽関連オブジェクトに共通する性質です。
インタビューを受けていたのは財団のエージェントであったようです。
彼はSCP-2316の調査に訪れた際、実例たちの声なき声を聞き、彼らがそこにいることを広く伝えるために――認識災害を広めるために、湖から戻ってきたのです。
「カーク・ロンウッド高校、所属クラスは—」の箇所は、SCP-1833「76年度同窓生」へのリンクとなっています。ここから、SCP-2316とSCP-1833はカーク・ロンウッド高校に関連していることが伺えます。
カーク・ロンウッド高校は、class of 76の関連tale「思い出」ハブにて、失神交響楽による大規模実験(SCP-332「1976年度カーク・ロンウッド高校マーチング・バンド」) が行われた高校です。
この高校は様々なclass of 76関連オブジェクトで登場し、失神交響楽の活動中心地の一つです。
なお、以前は高校名は「バーチウッド高校」とされていたのですが、改稿により現在の形となっています。
さて、ここで説明の項の記述を思い出してください。
説明の項において、SCP-2316実例である水死体の身元や、在籍に関する欠格要件の詳細は、異常性を誘発するおそれがあるとして[認識災害につき除去] という形でブロックされていました。
これらの情報が、認識災害のトリガーとなる懸念があるためです。
しかし、このインタビューにより、そのどちらもが明らかとなってしまいました。
在籍先はカーク・ロンウッド高校。水中の死体はカーク・ロンウッドの生徒たちの成れの果て――
それは財団が覆い隠そうとした、決して知られてはいけないはずの情報でした。
しかし、閲覧者は「俺」に誘われるがまま、隠されていたインタビュー記録を目にしてしまった――
認識災害は静かに、ゆっくりと、着実に閲覧者を蝕んでいきます。
ちなみに、ここにはもう一つ隠し文字のギミックが仕込まれています。
認識災害に曝露した財団エージェントの名前は、一貫して黒塗りになっていましたが、この部分には「あなたはすいちゅうのしたいにみおぼえがありません」
という一文が隠されています。
さらに、最後の黒塗り部分は「あなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたわたし」となっており、認識災害が進行中であることを示唆しています。
私は水中の死体に見覚えがあります。
ああ、やはり、認識災害は閲覧者を飲み込んでしまったようです。CRVの値は許容範囲を超えてしまいました。
医療スタッフがやってくるまで、そのまま動かず待てとのメッセージを残し、端末はロックされてしまいました。
そのとき、閲覧者は2つ目の補遺に気が付きます。内容が何も書かれておらず、無効なエントリと付記された謎の補遺…閲覧者は空白へと目を凝らします。そう、ここにも仕掛けがあるのです。
「無効なエントリ」の隣には、透明な文字で「下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ」と書かれています。
そして、文の下の特定の場所をクリックすると――
ロックされているはずの画面が動き出し、新たなメッセージが表示されました。
またしても「俺」と名乗る認識災害が、閲覧者へと言葉を投げかけてきます。
彼は語ります。水に浮かぶSCP-2136実例は君の友人であると。この湖は、1975年に、友人・同級生たちと一緒に校外学習に訪れた場所であると。
「俺」と同じように、SCP-2316実例もまた閲覧者へと語りかけているようです。削除されたインタビューにおいても、エージェントは実体が彼らの声を聞いた、助けを呼んでいたと語っていました。
彼は囁きます。異常存在となった他のクラスメイトは、その場を去った「俺」と「閲覧者=君」のことを、湖の底で待ち続けているのだ、と。
認識災害は繰り返し呼びかけます。
75年の秋の校外学習を思いだせ。皆のことを思いだせ。皆の呼ぶ声が聞こえないのかい?
繰り返される「聞こえないのかい?」の途中に脚注が付されています。
内容から察するに、認識災害に飲み込まれてしまった被害者の残留思念のようなものでしょうか。
財団が(オブジェクトの特性を解明するため)実験により多数の犠牲者を出しながら、見ているだけで止めようとはしなかったことに対する恨みと無念さが語られています。
その後は、なんの気休めにもならない自己暗示のフレーズ――あなたは水中の死体に見覚えがありません――だけが、ひたすらに繰り返されてしています。
お見通しだよ、と言わんばかりの「聞こえてるのは知ってるよ」。目を閉じても、耳を塞いでも、彼の呼びかけが止まることはありません。
解説動画などでは音声で流れるため、思わず背筋がぞくりとする箇所です。
こうして、認識災害は閲覧者を取り込んで湖へと誘います。いつの日か、クラスの皆がまた一つになるために…
最後にある「湖に戻るんだ」の箇所は、tale「決して色あせない」へのリンクとなっています。
このtaleでは、主人公の青年がSCP-2316へと誘い込まれるがまま水の中へと入り、SCP-2316実例と「再会」した結果、その一部へと変貌してしまう…という筋書きです。
SCP-2316の正体
これまで説明してきたように、SCP-2316の正体は、校外学習でとある湖を訪れていた、カーク・ロンウッド高校の生徒たちの成れの果てです。
彼らはそこで何らかの異常現象(SCP-4833では、失神交響楽による集団認識災害事件と称されています)に巻き込まれ、認識災害を広める異常存在へと変貌してしまいます。
これにより、ほとんどの生徒はSCP-2316実例と化してしまいましたが、報告書内で「俺」と名乗る存在と、彼らが探し求める「君」の2名だけが、その場を去ることとなります。
SCP-2316実例化を免れた「俺」ですが、残念ながら無事では済まなかったようで、彼もまた異常存在と化してしまい、クラスメイト全員の再会に執着するようになります。
強力な異常性を持つ彼は、財団の報告書すらも認識災害の感染源へと変貌させて、新たな犠牲者を生み出し続けています。
クラスメイトの最後の一人である「君」を見つけ出すその日まで…
関連オブジェクト
ここでは、SCP-2316の関連オブジェクトのうち、代表的なものをいくつか紹介します。
SCP-1833「76年度同窓生」
とある高校の76年度生の卒業年刊です。
高校を卒業済みの人がこれを読むと記憶が改変され、自身がこの高校の出身であると懐かしむとともに、存在しない思い出を埋め込まれていきます。
年刊は初めはポジティブな内容が多いものの、ページを進むにつれて徐々に不穏なものへと変化していきます。
年刊背面に添えられた手書きのメッセージ「私たちはすぐに会えるって信じてる!」の箇所はSCP-2316へのリンクとなっています。
――そう、高校時代の友人たちは暗く冷たい湖の底で、また再び皆でひとつになるために、君を待ち続けているのです。
なお、報告書中では高校名が伏せられていますが、上述したように、高校はカーク・ロンウッドであることがSCP-2316で示唆されています。
SCP-1423「76年、夏」
1976年に撮影されたポラロイド写真です。
見ると記憶を改竄され、捏造された高校時代最後の夏休みの思い出を想起し、曝露者は記憶を辿るように旅に彷徨いながら、偽の記憶への執着と美化を深めていくことになります。
本文中の「彼らが夏休みの間に遭遇した他の対象と連絡しようとします。」の箇所はSCP-2316へのリンクとなっています。
このオブジェクトでもやはり、高校時代の友達に会いたくなってしまうようです。
「思い出ハブ」においては、SCP-332事件の後、日常を取り戻しつつあったリーに失神の記憶を呼び覚まします。
これもまた、失神交響楽がお得意の記憶操作系異常の代表例ですね。
SCP-4833「失神交響楽」
数多の異常存在を生み出したclass of 76の黒幕です。
その正体は、認識災害や記憶操作を手口とする現実改変能力者の集団であり、"調和の状態"を確立すべく暗躍しています。
報告書内にはSCP-2316についての言及があります。引用してみましょう。
湖の名称は相変わらず黒塗り閲覧されていますが、事件が1975年の秋に発生したという内容は、SCP-2316報告書内における「俺」の言葉と一致しています。
なお、後段部分について補足します。失神交響楽は、自らの名前をオブジェクトに残すなどの方法により、自身が関与した痕跡を残していく傾向があります。SCP-332やSCP-814「純音」がその代表例です。
「SCP-4833と関連付ける決定的な証拠は発見されていない」と言う言及は、SCP-2316にはそのような失神交響楽の関与を確定付ける証拠が見つかっていない(≒名前が書いてない)ということを意味しています。
同じく「異常存在の性質はSCP-4833の手口と一致している」という言及は、失神交響楽の得意技である「認識災害により偽の記憶を刷り込み、思い出の再現(訪問、友達に会いにいく)を強制する認識災害を用いている」ことを表しています。
SCP-7076「76年度生の卒業」
2076年、つまり、失神交響楽の大規模活動が行われた1976年からちょうど100年後、失神交響楽関連オブジェクトが一斉に活性状態に入り、卒業予定の高校生周辺で異常が頻発するようになります。
異常性の深刻な拡大による世界終焉が差し迫る中、失神交響楽の演奏は遂にクライマックスを迎えます。
一連のインシデントの中で、SCP-2316の湖の水位が上昇し、周囲に大規模な水害を引き起こしています。
また、報告書の中で、湖の名前が「トルベフスキー湖」であることが明かされます。
SCP-6132-J「地形にファンブル」
とある地図です。いくつかの認識できない水域が存在しており、これを尋ねられた人物は「私はその水域に見覚えがありません(I don't recognize the bodies of water.)と回答します。
要は「水域(body of water)」とSCP-2316の「水中の死体(the bodies in the water)」をかけた言葉遊びのジョークSCPです。
SCP-2755-JP「湖底の星」
とある人形実体です。1975年のカーク・ロンウッド高校在校生で、普段は60代の姿をしていますが、異常性が発現すると若返り、当時の記憶を――校外学習で湖を訪れた記憶を思い出します。
湖底でピンクの光(SCP-3005「死んだ光」)に曝露して異常存在となった彼は、友人たちを残して湖を去ることとなります。
だけど、俺たちは君が戻ってくるのを待っている。
湖に戻るんだ。
後述する第五教会との関連、特に「SCP-2316の水底にはSCP-3005が存在する」というヘッドカノンに基づくオブジェクトです。
決して色あせない
SCP-2316のtaleです。報告書の最後「湖に戻るんだ」から飛ぶことができます。
あらすじについては上述済みですが、再掲しますと、このtaleでは、主人公の青年がSCP-2316へと誘い込まれるがまま水の中へと入り、SCP-2316実例と「再会」した結果、その一部へと変貌してしまう…という筋書きです。
1975年7月5日
class of 76シリーズのtaleです。
主人公は「高校時代の思い出」に取り憑かれるように湖(SCP-2316)へと誘い込まれ、水底へと沈んでいく、という内容です。1975年といえば、湖への校外学習が行われた年ですね。
このように、本編自体は典型的な76年シリーズなのですが、実は行間部分には隠し文字があり、ピンクの光が暗闇に蹂躙される様子が描かれています。
このtaleは要注意団体「第五教会」とのクロスオーバーであり、「SCP-2316の起源や異常性には第五教会が関係している」というヘッドカノンの起点の一つとなっています。
SCP-1730「サイト-13に何が起こったか?」
突如として出現した、存在しないはずのサイト-13を中心とする異常現象です。
このサイトは並行世界を起源としており、内部で致命的な収容違反が発生したため、最終手段としてこちらの世界へと転移させられてきた様子です。
サイト内には様々なオブジェクトが登場して大暴れしているのですが、道中には水で覆われた通路と水面に漂う死体が存在しており、内部に突入したサムサラ隊員が「見てはいけない」と警告していることから、このオブジェクトはSCP-2316であるとされています。
SCP-CN-1199「渡河、渡河」
とある川の上空に顔の見えない無数の死体が浮かぶ異常現象です。
中国支部のオブジェクトであり、SCP-2316との直接的な関連はありませんが、オブジェクトの性質や報告書の雰囲気からオマージュであるとされています。
SCP-711-KO「村を"抱く"湖」
ダムにより形成された湖です。
日没後に湖を見ると、湖の底に沈んだ村の幻想を知覚するようになります。
曝露者は懐古と悲哀の念に囚われるままに湖へと入水し、やがて消失します。
偽りの記憶を刷り込む認識災害性質があり、起源が1975年であるなど、SCP-2316へのオマージュが感じられる韓国支部のオブジェクトです。
終わりに
失神交響楽関連オブジェクトの代表格であるSCP-2316を解説しました。
ごった煮な書き方になってしまいましたが、聞こえないのかい?読み進める上での理解の一助になれば幸いですし、認識違いや他の解釈等がありましたら教えていただけますと嬉しいです。聞こえているのは知ってるよ。
さあ、みんなが待つ湖に戻るんだ。
補遺.おすすめ解説動画
素晴らしい解説動画がたくさんあるのですが、特に個人的にお気に入りのものを紹介します。
【ゆっくり解説】 改稿版 SCP-2316 校外学習 (Field Trip) を紹介、解説します
SCP研究部さまの動画です。SCP-2316の異常性や背景が詳細に解説されています。
また、同チャンネルでは、思い出ハブ関連オブジェクトが網羅されており、失神交響楽の理解を深めるのに最適です。
SCP-2316 - Field Trip(校外学習)
名無しさまの動画です。
とてもホラーな雰囲気や演出が素晴らしく、思わず息を呑む場面が多々あります。
内容も充実しており、思い出ハブやアパラチアの傷跡に関する言及もあります。
補遺.第五教会との関係
ここからは第五教会との関連についての補足です。
「1975年7月5日」で記したとおり、SCP-2316は要注意団体「第五教会」との関連が疑われています。
失神交響楽と同様、第五教会も謎が多い要注意団体です。ここでの詳細な説明は割愛しますが、概要については、以下の別記事にて紹介していますので、よろしければご覧ください。
1975年7月5日
このtaleの行間に隠し文字があることは上述しました。内容としては、ピンクの光が暗闇に飲み込まれ、水の底へと沈んでいく、というものです。
ここで言うピンクの光とは、第五教会の神であるSCP-3125「逃亡者」であり、暗闇はSCP-2747「下の如く、上も然り」であるとされています。
詳細は割愛しますが、後者は前者の天敵であるとされており、ピンクの光(五)は暗闇(七)になすすべもなく蹂躙されて力尽き、水の底へと沈んでしまうのですが、その内容から「SCP-2316の底にあるものはSCP-3005またはSCP-3125の死体である」というヘッドカノンが生まれることとなります。
SCP-3005「死んだ光」
SCP-3005は、認識災害、現実改変、ミーム・反ミーム性質、さらには高い攻撃性と戦闘力を持つ、ピンクに光る異常存在です。
また、ピンクの光は第五教会の特徴の一つであり、人間の心身を直接的に侵食・改変してしまうという極めて有害な性質を有しています。
この性質により、湖を訪れていたカーク・ロンウッドの生徒たちは、異常存在へと作り変えられてしまったのだ、という考察(ヘッドカノン)が成り立ちます。
第五教会ハブ「The Appalachian Scar」
未翻訳の第五教会ハブのtale「The Appalachian Scar(アパラチアの傷跡)」には、SCP-2316との関連が疑われるオブジェクトが登場します。
「アパラチアの傷跡」と呼ばれるSCP-[NULL]は、ノースカロライナ州ジャクソン郡にある未開発地域における異常現象です。当該地区は1950年代に地表ごと突如として消失し、現在は陥没穴の残骸が残るのみです。
町の湖からは、異常な改変を受けたと思われる様々な物体、特に生物の遺体や骨格が回収されています。
こうした性質から、第五教会(SCP-3005)による異常改変の結果、当該地域は消失し、構造を作り変えられた生物の死骸だけが残ったのではないか、そして、この湖はSCP-2316のプロトタイプ(あるいはなり損ない)なのではないか、という推察ができます。
SCP-2755-JP「湖底の星」
SCP-2755-JP「湖底の星」では、「俺」が異常存在へと変貌したのと同じように、「君」もまたピンクの光によって異常存在となり、湖を去った様子が描かれています。
このオブジェクトも、SCP-2316にはSCP-3005が存在するというヘッドカノンに基づくものと思われます。
残る謎
SCP-2316と第五教会との繋がりを解説してきましたが、多くの謎が残ったままです。
最も気になるのが、両団体の関係です。思い出の再現とグランド・ハーモニーの確立を目標とする失神交響楽と、第五世界の顕現を目標とする第五教会に、いったいどのような利害一致があったのでしょうか。
あまり仲良くなれるとは思いませんし、現にこのオブジェクト以外に関連は確認できません。
失神交響楽にしろ第五教会にしろ、そもそも他の要注意団体との相互交流が少ないことから、お互いに相手を利用していたのかもしれませんね。
ライセンス
クリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承3.0ライセンスに従います。
CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-2316 - 校外学習 原語版タイトル: SCP-2316 - Field Trip 訳者: C-Dives 原語版作者: djkaktus ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2316 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2316 作成年: 2016 原語版作成年: 2016 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: 分類委員会メモ 原語版タイトル: Classification Committee Memo 訳者: YS_GPCR 原語版作者: djkaktus ソース: http://scp-jp.wikidot.com/classification-committee-memo 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/classification-committee-memo 作成年: 2019 原語版作成年: 2019 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-1833 - 76年度同窓生 原語版タイトル: SCP-1833 - Class of '76 訳者: gnmaee 原語版作者: Anonymous ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1833 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-1833 作成年: 2016 原語版作成年: 2012 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-7076 - 76年度生の卒業 原語版タイトル: SCP-7076 - The Graduating Class of '76 訳者: DirStarFish 原語版作者: Quicksilvers ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-7076 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-7076 作成年: 2023 原語版作成年: 2022 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-332(記録用:The 1976 Kirk Lonwood High School Marching Band / 1976年度カーク・ロンウッド高校マーチング・バンド) 訳者: m0ch12uk1 原語版作者: 不明 ※ 元記事削除の可能性あり ソース: http://scp-jp.wikidot.com/old:scp-332 作成年: 2013 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-3776 - キャンプ・ニムロッド 原語版タイトル: SCP-3776 - Camp Nimrod 訳者: C-Dives 原語版作者: Anonymous ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3776 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3776 作成年: 2017 原語版作成年: 2017 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: 決して色あせない 原語版タイトル: Not Fade Away 訳者: PET_ROOM 原語版作者: S D Locke ソース: http://scp-jp.wikidot.com/not-fade-away 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/not-fade-away 作成年: 2018 原語版作成年: 2016 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: 序曲:予鈴 原語版タイトル: Prelude: First Bell 訳者: gnmaee 原語版作者: Anonymous, Digiwizzard, Elenee FishTruck ソース: http://scp-jp.wikidot.com/days-gone-by 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/days-gone-by 作成年: 2016 原語版作成年: 2013 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-1423 - 76年,夏 原語版タイトル: SCP-1423 - Summer of '76 訳者: gnmaee 原語版作者: Anonymous ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1423 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-1423 作成年: 2015 原語版作成年: 2013 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-4833 - 失神交響楽 原語版タイトル: SCP-4833 - The Syncope Symphony 訳者: C-Dives 原語版作者: Tufto ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-4833 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-4833 作成年: 2019 原語版作成年: 2019 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-2755-JP - 湖底の星 作者: KanKan ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2755-jp 作成年: 2021 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-814 - 純音 原語版タイトル: SCP-814 - Pure Tones 訳者: 訳者不明 原語版作者: kabu, Anonymous, Mr Carbon ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-814 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-814 作成年: 2015 原語版作成年: 2014 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-6132-J - 地形にファンブル 原語版タイトル: SCP-6132-J - Terrain Fumble 訳者: Hasuma_S 原語版作者: Doctor Cimmerian ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-6132-j 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-6132-j 作成年: 2018 原語版作成年: 2018 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: The Appalachian Scar 訳者: faminepulse 原語版作者: 不明 ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/the-appalachian-scar 作成年: 2014 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-3005 - 死んだ光 原語版タイトル: SCP-3005 - A Light That Died 訳者: C-Dives 原語版作者: Silberescher ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3005 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3005 作成年: 2017 原語版作成年: 2017 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-3125 - 逃亡者 原語版タイトル: SCP-3125 - The Escapee 訳者: C-Dives 原語版作者: qntm ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3125 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3125 作成年: 2017 原語版作成年: 2017 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: 1975年7月5日 原語版タイトル: July 5th, 1975 訳者: PET_ROOM 原語版作者: Perelka_L ソース: http://scp-jp.wikidot.com/acts-of-abuse 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/acts-of-abuse 作成年: 2018 原語版作成年: 2018 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-CN-1199 - 渡河、渡河 原語版タイトル: SCP-CN-1199 - 渡河,渡河 訳者: BenjaminChong 原語版作者: Enflowerz ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-1199 原語版ソース: http://scp-wiki-cn.wikidot.com/scp-cn-1199 作成年: 2020 原語版作成年: 2019 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-711-KO - 村を"抱く"湖 原語版タイトル: SCP-711-KO - 마을을 '품은' 호수 訳者: AMADAI 原語版作者: Kaestine ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-711-ko 原語版ソース: http://scpko.wikidot.com/scp-711-ko 作成年: 2017 原語版作成年: 2015 ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-1730 - サイト-13に何が起こったか? 原語版タイトル: SCP-1730 - What Happened to Site-13? 訳者: gnmaee 原語版作者: djkaktus ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1730 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-1730 作成年: 2016 原語版作成年: 2015 ライセンス: CC BY-SA 3.0
CC BY-SA 4.0
タイトル: SCP-7676 - 1976年のグランド・シンフォニー 原語版タイトル: SCP-7676 - The Grand Symphony of 1976 訳者: Tetsu1 原語版作者: notgull, S D Locke ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-7676 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-7676 作成年: 2024 原語版作成年: 2022 ライセンス: CC BY-SA 4.0
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?