見出し画像

無理に元気を出さなくてもいい

久しぶりに会った人から「元気?」と訊かれるのが苦手だ。「うん、元気元気!」とでも返しておくのが無難なのであろうが、そういった「おざなりの嘘」もまた苦手なのである。
ちょうど風邪をひいている今であれば、「いや、ちょっと風邪ひいちゃって ね・・」などと嘘偽りのない返しができて、何のモヤモヤも無い問答になってくれて助かるのだが。

とどのつまり、「元気?」と訊かれた時に「元気」であることが滅多にないので、返答に困るのである。
だからと言って、某女優のように「別に・・」などと仏頂面で答えるのも甚だ印象が悪い。確かに「別に普通です」としか言えない状態であることが圧倒的に多いのだけれど、それも相手に対するサービス精神に欠けた冷たい印象を与えてしまうような気がする。

世間、世の中、世界というものは常に「元気であること」を人に期待して押し付けてくる。これを「元気ハラスメント」とでも呼びたい。略してゲンハラ。
何をするにつけ、「元気を出そう」「元気出して」「元気になろう」「元気が一番」「元気があれば何でもできる」・・と、「元気であること」が圧倒的に正義で、当たり前以前の大前提となっている。

元気。確かに無いよりはあった方がいい。病気よりも元気の方がいいに決まってる。元気で明るい陽キャな連中は、大概イージーモードな人生を送っているように見えるし(社会的に成功しているか否か等ではなく)、何より本人が楽しそうである。

ところで、生まれてこの方、体質的にかなり朝に弱いのであるが、その朝に何気なくテレビを点けると、お笑い芸人が司会の情報バラエティ番組などが目に入り、これまたレギュラーのお笑い芸人達が(朝っぱらから)デパ地下スイーツの試食だとか、カラオケだとか、何かのゲームで飛んだり跳ねたりだとかをしていて、そのハイテンションぶりに2秒と耐えられずにチャンネルを変えてしまうのであった。

不幸せな人が他人の幸せを素直に喜べないように、元気な連中を見ると疲れてしまうのも元気が無い証拠だろう。

人間でも動物でも、幼い子どもというものは元気の代名詞で、生命力そのものみたいな存在であるけれど、私といえば、小さい頃から大人しくて感情を表に出すのが苦手なタイプだった。
ともすれば、今でもたまに「ノリが悪い」「テンションが低い」「元気ないね」などと言われたりする。
別に()良いとか悪いとか、高いとか低いとか、あるとか無いとかじゃないんだよね。「どちらでもない」だけなのである。すなわち「普通」。
心は基本、凪の海のようにフラットなのだ。白でも黒でもない灰色、晴れでも雨でもない、「くもり」的な。

とは言え、そこは私もいい大人。イベント、飲み会、何かのライブ、お祭り・・多人数で盛り上がるべき「ハレ」の場では、それなりに空気を読んで元気を装い、率先的に「当たり障りの無いまろやかな雰囲気」を作っていくようにはしている。
「元気じゃなきゃダメか」という考えとは矛盾してしまうが、楽しい場所でつまんなそうな顔してるのも野暮だもの。帰るか楽しく過ごすかの2つに1つである。
元気な「フリ」をしていると本当に楽しくなってくるというのも一理あるし。思考も感情も行動に引っ張られるものなのだ。行動が先。
一説によると「やる気」と呼ばれるものも、やる気があるからやるのではなく、やるからやる気が出てくるらしい。先行するのはアタマじゃなくて、身体なんである。

もちろん、「元気」「楽しい」「明るい」が基本状態ではない人は無理に元気を出さなくてもいいとは思っている。
犬や猫でも大人になるに従い、それなりに落ち着いていくのが普通。ましてや落ち込んでいたり病気の時にまで空元気を振りまく必要は無いし、そんな時は静かに寝て回復を待つのがいちばんである。
「無為自然」ともいうのか、何の作為もなく自然の摂理に従うのが吉。

それにしてもなんだろう、「フツー」じゃ、ダメかしら。
自分の場合は「はい!はい!はい!テンション爆アゲでガンガン行こうぜ!!フォー!!!」みたいなノリよりも、心に波風ひとつ立たない凪の海のような静かな状態が、物事を上手くやれる「ゾーン」状態のような気がしていて。
そのような状態でいると、小さな事に大喜びすることもない代わりに、多少の嫌な事にも振り回される事もないんだよね。

エネルギー消費も少なく、何事も上手く良い方向に運びやすい、この「凪」にも似た境地に身を置く作戦を「スーパーフラット戦略」とでも名付けたい。『ドラゴンボール』で例えると「スーパーサイヤ人2」的な。
ていうか、オラって修行も何もせずに「瞑想」なるものをマスターしてしまっているのでは(単純におっさんになっただけという気も)。

あ、もちろん元気印が取り柄の人は、どうかそのまま元気でいてください。あなたの元気な笑顔は世界を明るく照らしている。

ところで冒頭の「元気?」と訊かれた時のベストな返しを思い付いた。この質問のアンサーには関西弁の「ぼちぼちでんな」が、かなり使えるんじゃないかと。
元来の使用法は「儲かってまっか」に対するベタな返しだそうだ。うん、「ぼちぼちっスねえ」、いいかも。「まあ、悪くはないね(良くもない)」、くらいのニュアンスか。
通り一遍のウソでもないし、表現も柔らかくて角も立たない・・これで全てが丸く収まる。

こんなエッセイ風の文章を投稿し合う同人誌みたいなブログもやっています。寄稿メンバー募集中。お気軽にご連絡ください 🐤

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?