見出し画像

みどりの季節

今年のゴールデンウィークは、遠くへ行かずに住んでいる街で過ごした。

いつもと同じ風景のはずなのだけれど、この子にとって初めて迎えるみどりの季節なのだ、と思うと、街がつるんと脱皮したように新しく感じられた。

・・・・・

昨年の秋、偶然見つけた公園がある。

大きな池沿いに遊歩道があり、その周りには綺麗な芝生が広がっている。

芝生には、思い思いに過ごす人たちがたくさん。

ゆったりと本を読んだり、犬と遊んだり、キャッチボールやバドミントンを楽しんだり、デイキャンプ用のテントを張ってお昼寝したり。

みんながくつろいで、ご機嫌な表情をしている。

初めてその公園を訪れた日、こんなに素晴らしい場所が近くにあったなんて…と静かに感動した。

3月に何気なく訪れた時には、池の周りに見事な桜が咲いていて、秋に鮮やかな紅葉を楽しませてくれた木々たちは桜だったのか…とじんわり嬉しくなった。

・・・・・

今回のゴールデンウィークには、私たちもテントを張ってみることにした。

夫がテントの張り具合を調整している中、まずは私と子どもとで中に入ってみた。

子どもは「ん?何かいつもと違うぞ」とワクワクしている様子。

デイキャンプ用のテントの中にはファスナー式の大きな窓が二つあるので、両方とも開けてみることにした。

すると。

みどりのにおいのする風が、ぶわーーーーーっとテントの中を通り抜けていく。季節が巡っていくのを大きな声で伝えてくれているように。

ふと子どもの方を見てみると、キラキラした目と、見たことがないくらいの120%の笑みで手足をバタバタさせている。

まだ言葉は話さないけれど、楽しさや心地よさを全身で表現していた。

まるで5月の魔法をかけられたみたいな青空、木漏れ日、吹き抜ける風。

その全てを分かち合えたことが嬉しくて、しばらく子どもの目を見つめていた。

あぁ、この瞬間のことを私はずっと覚えているだろうなと感じた。

・・・・・

特別な瞬間はふいに訪れる。

子どもの記憶には残らないだろうけれど、だからこそ大切に心に抱いておきたい。

そしていつか、思い出を花束みたいにして伝えられたらいいな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?