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小説の中の色 #4  かた焼き煎餅色/「日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ」

お茶を25年間習い続けた中で感じたことや、気づき、学びを綴ったエッセイ「日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ」の中から、著者が近所に住むお茶の先生の武田さん宅を初めて訪れた時の描写です。

「武田のおばさん」の家に上がったのは、この日が初めてだった。柱や廊下が「かた焼き煎餅」のような色をしていた。(「日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ」 森下典子)

「かた焼き煎餅」と聞いて連想するのは、何と言っても醤油煎餅。
醤油に浸し、火で炙ることから生まれる深い赤みの橙色、表面の凹凸によりできた濃淡、そして豊かな艶が目に浮かびます。
また、煎餅に例えることで、和風の印象を受けます。同様の色でも「カラメル色」と表現すると、一気に洋風な雰囲気になるのが色の名前の面白いところです。

さて、醤油煎餅の色からイメージされる柱や廊下は、古い日本家屋のもので、年月の経過とともに木材の色合いが深みを増し、節や年輪が味わい深い濃淡を作り出し、長年丹念に磨かれてできた柔らかな艶やかさを持ったものだと思います。きれいに掃除された玄関とこの柱・廊下を目にしただけで、きっと室内の細部全てにわたって手入が行き届いていることが想像され、武田のおばさんの丁寧な暮らしぶりが伝わってきます。



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