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新規で0からトランプ箱を作った話。

ぶっちゃけプロモーションも兼ねるんですが、トランプ用の箱を設計から作った話を書きたいと思います。
割と自分用のメモも兼ねてる感じになると思います。こんな設計、そんなにすることないしね。そんな訳でプロモーションとか書いてますが、割と技術向けの話です。どうなってんねん、おまえんとこのプロモーション。w


1.発端とか

いきなり具体的な技術系の話に入る前に、何のために作るのか、って話をしておきたいと思います。
紆余曲折を経て、ノスモスさんとトランプを作ることになりました。
作ったトランプには箱が必要なんですが、多くのボドゲやカドゲで使われている蓋と身(下側)が別々になっている、いわゆる「貼り箱」や、「キャラメル箱」など多くの選択肢から1つを選ばないといけません。

この「どの箱を選ぶのか」は、(たとえ同人でも同じ考えですが)商品として、どういったものにするのか、というのはその都度、考えなければいけません。

考える際、それぞれについて考えます。例えば、「貼り箱」の特性は? 「キャラメル箱」の特性は? この商品は高級感を大事にする? コンパクトが優先? などなど、無限にあるパラメーターのうち、大事なパラメーターをピックアップして、それをどの程度にするか、決めなければなりません。

そんな訳で、今回のトランプで決めたもの(優先パラメーター)が以下です。

1)コンパクト優先
2)壊れにくい
3)使いやすい
4)低価格

そんな訳で、キャラメル箱をベースに考えることにしました。
以下、パーツごとのお話をしていきます。


2.底

パーツ? って思った方もいると思うので、ちょっとだけ補足です。いわゆる、部分の個別名称ですね。この場合は。

カードを入れるときに開けない側を「底」といいます。
開けたときに両サイドにあるぺらぺらを「フラップ」といいます。
箱を閉めるときに差し込む部分を「タック」といいます。

さて、箱には底があります。
底には種類があります。通常の「キャラメル箱」や「地獄底」「ワンタッチ底」とか。
形状や細かい点はググってもらうとして(図も出てきますし)、今回、最初は「地獄底」で考えていました。
ワンタッチ底もいいんですが、細かいところは知りませんが、多少高かったためだと思います。

でも今回は別の底になっています。


3.フラップ

じゃ、なんの底を選んだの? という疑問があると思いますが、今はとりあえず読み進んでください。

フラップについては、形状が割といろんなものがあります。
それぞれがそれぞれに置いて意味があり、形、角度、そして幅、それぞれに理由があります。
その箱の目指すところによって変わる部分です。
今回は、「出にくいタイプ」を選びました。
そんな訳でフラップの幅は広いです。狭くすると、出やすくなりますが(ひっくり返すだけで片手で飛び出せる)、逆に出てほしくないなと考えたためです。


4.タック

差し込む部分、タックです。
この時は割とどうでもいいかなと思っていました。1センチぐらいの角丸かかった長方形というか。
後でより深めに話しますが、トランプ箱は「タックが肝」だと言って差し支えない気がしました。これの形、サイズ、材質がすごく重要でした。個人的には、ですけど。


5.タバコ

突然何を言い出すんだ、というところですが、引き続き箱の話です。
実は、実際の作業でもこの辺で「たばこの箱って考えた条件に合致していて、形状もよくない?」ってなったんです。
私はタバコは吸いませんけど、箱の形状はじーちゃん、いとこ、叔父が吸ってたんでよく見てたんですが、開け閉めが簡単、かつパチって止まって開きにくい、しかも世の中に「たばこケース」が割とある。
カードサイズ的に近い(かもしれない)とかありまして。

で、あれやこれや調べて、いつもお願いしてる箱屋さんに相談したら「無理です」とのことでした。技術面? ある意味はそうです。

なんでかというと、「たばこの箱」って著作権あるんですね。そりゃそうか。すでにお持ちのところがあるので無理ってことでした。


6.続トランプ箱

じゃ、どうするかっていうと、「既存のトランプ箱をいったん見直そう」って話です。
2~4は、これまでの経験上と、カドゲで買ったものを思い出しながら、と、以前作ったキャラメル箱の「レッドサンダー」の時の記憶と現物を見て決めてました。

そんな訳で、手元のトランプをぞろぞろ出してきます。本当にぞろぞろ。
ほら、ボードゲーマーなら家でトランプを探したらぞろぞろ出てきませんか? うちは出てきます。いや、ちょっと集めてる部分もあるんですけどね……
そんな訳で出てきた10個ぐらいの箱の形状を調べます。
いやー、ほぼ全部別の形してましたよね。すげーっすね。
ここでついでにAdlung社のカドゲも出してきます。
個人的にトランプ箱のカドゲといえばここです。しかも数をものすごい作ってて、見本にするならここかもなー、っていうのもありました。
以下はそれらを見比べたうえでの話です。


7.蓋のロック

トランプ箱に求める点として、「勝手に開かない」というのがあります。
これに対して、大きく2つの方法で対応しています。
1つ目は、切れ目を入れて引っ掛ける、です。
Bicycleのトランプや、キャラメル箱を使ったカドゲなんかはこれですね。
最近の主流のように思います。
ただ、個人的にこれは引っかかり部分の破損が大きいので採用したくないやつでした。

2つ目は、タックを長くしてフラップで挟み込むタイプです。
すごく説明しづらいんですが、タックを長くすれば、タックが引っかかって中が飛び出にくくなります。でもタックが固定されていないと箱がゆがんで蓋部分が少し開くことになります。
この部分のロックと安定化をフラップでやります。
フラップとタックの触れる分を大きくして、さらにフラップとタックで差し込む部分を作ってやれば、そこで固定できるようになります。

いやー、文字で書くと何言ってるか分かりませんねw

上部にタックが見えていると思います。中央は大きく湾曲していますが、その左右に少しだけまっすぐな部分があるのは見えるでしょうか?
ここがタック側のロックです。
で、写真ではちょっとしか見えませんが、フラップ部分、ここと接する部分を大きめにして、タックのロック側と接する部分で、蓋を開かないようにします。

これはリアルな話、現物を触ってみてもらわないと、「あー、なるほど」とはなりにくい場所です。動画でも説明はできるんですけどね……ま、それは自分で触ったときの楽しみにしてください。(こういうの、動画がこれだけ出てくるとさらっと飛び越えられちゃう部分ですけど)

そんなこんなで、ロックはこれになりました。
合わせてフラップ部分も改良してます。


8.底

底については、地獄底やワンタッチ底は手持ちで1つもなかったです。多分ですけど、中身を出したり、入れたりし直すやつだと、強度もそうだし、入ってないときに直立せず、つぶれちゃうとかありそうな気はします。
ってことで、箱屋さんに相談したら、「組み上げても、自分でくみ上げても値段は同じ(送料は変わる)」って話だったんで、箱屋さんで組み立ててもらって、バチって接着して止めるタイプにしました。
正直、ここの設計は箱屋さんにお願いしました。
各折り目の角度、折り目を考慮した長さ調整、重ね合わせる部分の紙の厚さを考慮した折り位置なんてところは、0.1mm単位での調整になるためです。いや、理論上ならできるんだけど、実際組み上げるときの遊びとか分からんのです。はい。
ちなみにお金をかけて「型」を作って、後での調整はやりにくい(下手したら「型」の作り直しになる)ので、素人は手を出しちゃいけない…… カード加工とかなら手を出しちゃうんですけどね……


9.タック

今回の最大のキーポイント、タックです。
高々差し込む部分ですが、前述のように「ロック」の機構を持たせる重要な部分です。
また、タックの長さもすごく重要です。
元々試作で作ってもらったタックは、長くしたつもりだったんですが、それでも足らず、箱を振ると中身が出ちゃう状態でした。
それを修正して、最終系となっています。

さて、タックにはもう1つ重要な点があります。ただ、これは非常に個人的な部分の可能性があります。

突然ですが、これを読んでる皆さんに質問です。
「トランプ箱のここがイイ!」という個所を1カ所以上上げてください。
他と比べてここがイイ、とかじゃなくて、トランプ箱の「ここがスキ!」っていう場所です。

ちっちっちっちっちっ

20秒ほど考えて思いついたでしょうか?
私は、「音」と「ぴったり感」だと思っています。
「音」とは「箱を開けたときの音」です。
音にだって高級感があります。「パチ」ってなるタイプだったり、静かなタイプだったり、「しゅっ」て鳴ったり。
今回作ったトランプ箱は、「しゃく」って音がします。
実は、希望する箱の材質が手に入らなくて、若干の妥協はあるんですが、こっちの方が耐久性自体は高いので、双方で良し悪しはあるんですが。
ちなみに希望する箱なら「しゅぱ、ざく」って音がします。何ってんだって言われそうですが。


10.ぴったり感

先ほど触れた「ぴったり感」。
タックであれば、ぴたっと閉まる部分がそれです。
でももう1つあります。それは、「箱の厚み」です。
手元にキャラメル箱系の箱をお持ちであれば、それを持ってきてもらってみてほしいんですが、そのキャラメル箱にカードを1枚追加で入れてください。(同じサイズのカード、ボードゲーマーなら1枚ぐらい持ってるでしょ?)
逆に1枚抜いてみてください。

箱が膨らんで隙間ができたり、抑えると凹んで、箱の形状が若干たわんで、隙間ができたりはしないでしょうか?
割とかっこ悪いですよね?

そう、このタイプの箱はぴったり、直方体であることも割と重要です。
ではカードの厚み、エンボスの入ったカード、54枚+1枚の厚みはどの程度でしょうか?そして、その誤差はどの程度出るでしょうか?
うちで採用しているカード1枚の厚みって大体0.2-0.3mmぐらいなんですが、掛け算で出た数字がどこまで現実に即しているでしょうか?
0.02mm、計算を間違えれば、0.02x55=1.1mmの差が出ます。差がでかくね?

ってことで、ここも箱屋さんに仕様をお伝えして調整いただきました。
いや、まじで、一番大変だったのがここ。
箱の内容物の厚みなので、箱自体の紙の厚さ、そして折り曲げによる差異が出てくるため、「ぴったりきれいに」というのの難易度がバカ高い部分でした。
ここは、箱屋さんの技術に拍手です。


11.取り出し口

トランプってどうやって取り出しますか?
箱を振って、中身を一部飛び出させて、そこをつまんで取ったり、箱を若干膨らませて、開いた隙間に爪や指を突っ込んで取ったりはしないでしょうか?

もちろん、分かる人にはわかると思いますが、箱自体の形状でつまみやすく加工が入っているものがあります。
もちろん、今回そちらを採用しています。
ただ、これもサイズがいろいろあって、どの程度がいいのか、というのはそれぞれ考え方でまちまちだった気がします。

今回のサイズの決定については、主に「私の手」を基準にしています。
なので、おっさんの手で取りだしやすいぐらい、つまりは大きめにできています。
せっかくのトランプ、傷つけたくないですしね。

二段階折り目みたいになっている部分と、写真では見えませんが、タック差し込み位置にある凹みがそれです。



12.そんなこんなで

完成したものがこちらです。

写真からは何も伝わりませんが、個人的にすごく気に入った出来になりました。
中身を入れた状態が実際にどうなるか、というのはカードがすべて納品され、箱のも納品され、すべてが揃ってからだったので、ずっとドキドキだったんですが、うまく言ってよかったです。

そんな訳で、こだわりが5000字ぐらいの説明やら想いが入った箱なので、ぜひ手に取ってみてもらえると嬉しいです。
0スタートで作るのは楽しいですが、その分、知らないことが山のように出てくるので、そこを商品コンセプトからどれを採用して、どうしたいのか、を選ぶのが大変でした。
たかが箱1個ですが、作るのもすごく楽しかったです。

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