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傘がある

ずいぶん前にグローバルなホテル予約サイトのノベルティで折りたたみ傘をもらった。

19年前に飛騨に移住してから、当時の仕事が森林組合の山仕事だったので雨に濡れるのが気にならなくなった事と普段はほぼ車移動の生活の為、傘がなくてもほとんど不自由しなかった。だから「雨が降ったら傘をさす」という普通なら当たり前の行為が「雨が降ったら小走りに…」程度におさまってしまった。
つまりは「雨イコール傘をさす」ではなくなっていた。

そんな生活を長く続けていたから、つい先日の出張でも、カバンにそのノベルティの折りたたみ傘をしまっていたことすら忘れてしまっていて、神戸三宮駅で、そのまとまった雨と迫ってくるアポイント時間に途方にくれてしまっていた。

うーむ、どうしたものか?タクシーか?走るか?と考えて、走るためにカバンを抱えようとカバンの底を持った時、なんだか太い棒の様な感触を得て、頭の中の電球が灯った。

♫だけども 問題は 今日の雨 傘がある〜♩by 途中まで井上陽水「傘がない」

そうなのだ、僕のカバンの中には傘がある。

というわけで、初めてそのノベルティ折りたたみ傘を袋から出して広げてみる。

最近の折りたたみ傘はずいぶんと便利だ。折りたたみ傘だけの話で言えば、おそらく19年ぶりくらいの使用。完全に浦島太郎状態で、最近の折りたたみ傘は柄のグリップにあるボタンを押せばワンタッチで傘が開くだけでなく、もう一度押すとワンタッチで傘が閉じる。

こりゃ便利だと思いながらアポイントには濡れる事なく無事間に合ったのでした。

その後に乗った電車の中で、折りたたみ傘をクルクルとしまおうとした時、大きなフラッシュバックに襲われた。

そうだ、僕は学生時代、雨の日の電車の中で折りたたみ傘をとても綺麗にたたむ事にこだわりを持っていたのだ…

雨に濡れた水を切った折りたたみ傘を、電車の中で一心不乱にひとつひとつの折り目を綺麗に合わせてたたんで行く。そうすると、その日あった嫌なことがほぼリセットされてしまう。そんな事がその時のシーンと共にまるで昨日のことのように思い出された。

なるほど、あれから19年経った今、餃子やだし巻き卵で心をリセットさせているのは、折りたたみ傘の流れか…

19年ぶりに電車の中でたたんだ折りたたみ傘。
やはり頭の中から雑音が消え、傘の折り目に集中している自分がいるのと、その行為に雑念が取り払われていくのを感じて、なんだか嬉しくなってしまった。

傘をさすのも悪くないな…と思う。折りたたみ傘限定だけれど…

というわけで、僕のカバンの中には今後常に折りたたみ傘がある…と思う…
雨をしのぐのはもちろん、どちらかというと、僕がたたむために折りたたみ傘がある。

全ては心を整えるためであります…

こんな時代だからこそ、結構大切な時間です。少なくとも僕にとっては…。

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