“七つの顔を持つ幻の大衆作家”――渋田喜久雄の連載コラムを1冊にまとめて刊行
酔筆講談 ペン一本無茶修業(渋田喜久雄、NextPublishing Authors Press)amazon.co.jpで予約受付中、2020年5月25日発売予定。1680円(税込、送料無料)。プリント・オン・デマンド(POD)サービス利用につき、在庫切れがありません。Kindle電子版も近日刊行予定。
渋田喜久雄(1902~1978)は福岡県出身の小説家で、昭和初期に『瞼の母』や『関の弥太っぺ』などで知られる長谷川伸へ弟子入りし、主に「渋田黎明花」のペンネームで時代小説を中心に活躍していました。本人は生前に自分の原作小説が何度も映画化されたと述べています(しかしながら、残念なことに大谷日出夫主演の『恩讐子守唄』しか記録が残っていません)。
長谷川伸の弟子だった時期にはメジャーになる前の山岡荘八や山手樹一郎らと親交があり、64歳の時に“ペン一本”で大成することを夢見た20代を振り返る回顧録を郷里の福岡県古賀町役場(現・古賀市役所)発行の広報紙『広報こがまち』で連載しています。
今回、全19回に及ぶコラムを1冊の書籍にまとめて刊行しようと思い立ったのは昨年秋に新潟日報の取材を受けたのが発端でした。
「新潟県民歌」と「新居浜市歌」そっくりなのはなぜ?(新潟日報、2020年1月13日付)
この取材過程で1947年に制定された『新居浜市歌』の作詞者とされる「花田豊」と言う名前に聞き覚えがあり、この5年余り個人的な研究テーマとして来た『兵庫県民歌』の佳作に同じ名前があることに気付いたのが本書の出版を企画した発端となります。幸いにしてご遺族から承諾を得られたのでこうして本書を世に出すことが実現しましたが、渋田氏自身が生前に『キング』や『家の光』など各誌で華々しく筆を振るった作品群は単著での書籍化が確認されておりません。
しかも、生前に「ざっと1200篇」を書いたと振り返っている作詞の分野では、文壇にデビューした時の「渋田黎明花」以外にも「白浜進」「梅田健」「花田鶴彦」など非常に多種多様なペンネームを使い分けていたため、活動の全容は未だ不透明になっています。
本書の後半は拙稿による解説で、70年以上の年月を経て『新潟県民歌』の名義上の作詞者とされる「高下玉衛」氏と『新居浜市歌』の作詞者「花田豊」氏の関係やその制定経緯、そして新潟の前年に制定されながらも未だ県から存在を否定され続けている『兵庫県民歌』の審査結果が“憲法”と言うキーワードを通じて意外な繋がりを持つこと、さらには県民歌の実作者と目される渋田氏が生前に新潟を訪れていた事実の解明を試みています。
戦争の時代に翻弄され、華々しい表舞台を降りざるを得なかった“七つの顔を持つ幻の大衆作家”の貴重な証言から一つに繋がって行く「戦後史のミッシング・リンク」――渋田氏とその事跡の研究が、ここから始まることに期待しています。
(書籍の表紙とこの記事のヘッダーには、がわっちさんの作成したイラストACの商用利用可能フリー素材「万年筆の線」を利用しています)
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