河野智洋さん「つくりたいものを届けたい。」
障がい者アートブランド「naNka」プロデューサー 河野智洋さん
「BunGO!発信コレジオ」「おおいた終活フェア」などイベント企画の都度、相談に乗ってくださる「株式会社Cont」代表の河野智洋さん。OBSラジオ「ANA-BAR」でマスターしたり、個人プロジェクトを手掛ける「株式会社BSIDE」を立ち上げたり。あらゆる分野に造詣が深く、引き出しの多さとアイデアには驚かされます。今回は障がい者アートブランド「naNka」プロデューサーとして発信いただきました。
広告デザイン会社「Cont」を運営している河野です。
本日は私たちが手掛ける障がい者アートブランド「naNka」についてお話をします。「発信コレジオ」は小規模な会なので、登壇するというよりも焚火を囲むように皆さんと楽しく過ごせればと思います。
よろしくお願いします。
私たち「naNka」の企業テーマは「つくりたいものを届けたい。」です。
では「作りたいものというのが『誰が』つくりたいものなのか?」というと、「障害のある色んなアーティストが、つくりたいもの」。
それを届けるお手伝いをしています。
私たちが「これをつくって」「あれつくって」というのではありません。
仕事を発注しているという意識ではなく、障がい者アーティストが自分で作って楽しいものや、自分たちと一緒に作って面白くなるものをつくる。
そのお手伝いです。
「naNka」を設立した理由
設立は2020年のクリスマスでした。
当初はY.H2というB型の障害者就労支援施設とコントがコラボをして、「楽しいことをやりましょう」となった。
最初はブランドをつくるはずだったんです。
しかし、ブランドだと運営主体が問われて、出所がY.H2なのかContなのかという話になるので「naNka」という株式会社を設立することにした。
1年、2年で終わるのではなく、5年、10年、20年続く活動をしていこうとなった訳です。
「そもそもなぜY.H2とContがつながったのか?」
私自身に19歳になる娘がいます。
知的障害があり、小学校までは特別学級に通っており、その後、中学・高校と支援学校に進学しました。
その中で、何か娘の楽しみになることがないかと思っていたところ、Y.H2が障害者を受け入れる美術教室をしていた。
運営する梅本美術研究所との出会いがあり、通いだした。
娘のことがあって、Y.H2とも出会い、その後「naNka」の立ち上げにつながった。
デザイン制作会社を経営してきましたが、これまでは福祉とは無縁でした。
娘に障害がなかったらこのような活動をしていなかったかもしれないです。
人生面白いものだなぁ、と。
新しいことを始めるには家族のことだったり、出会いがあったりするのだと思っています。
アーティストによって、描くものやスタイルが違います。
美術教室では「こういう風に書きなさい」ということはしません。
そのアートは作家の優しさや強さが色濃く表現される。
書き手に対して「はみ出してはダメ」「この色を使ってはダメ」ということはありません。
作家の自由な感性に委ねることを大切にしています。
私の娘の場合は、動物や物などではなく、柄やデザイン的なものを描くのが得意です。
柄を使ったデザインのパターンや壁紙クロスなどに活用すると良いものができます。
ニーズを探していけば、そういった需要もあるのではないかと考えています。
naNkaの活動が目指しているもの
コンセプト 「つくりたいものを届けたい。」
□障がい者アートに価値を創造するブランドづくり
□ものづくりの新しいスタイルで社会の課題を解決
障がい者アートの活動は、全国的にも広まりつつあるが、社会にまだまだ知られていません。その価値であったり、社会で使われている場面は少ないです。世の中にたくさん届けて、人の目に触れるようにするのが大事な仕事と考えています。今までのやり方ではない方策を模索しているところです。
ミッション「障がい者アートをマネタイズする」
福祉や施設の専門家から見れば、広告のプロが入ってくることに「よそ者が新規参入して、お金儲けをしようとしているのか?」というような厳しい意見も聞かれました。
その意見もよくわかるんです。
もちろん、お金が正義ではないけれど、自分たちの使命は、障がい者アートでしっかりお金を稼げる「仕組みをつくる」ことが大事だと思っています。
なぜなら、B型就労支援施設の「工賃」(給料とは言わない)。
全国平均が月1万6千円くらいです。
それは、日給にすると800円くらい。
働く場所があるというだけでも良いことではあるし、諸事情あるのは理解しているが、私には衝撃だった。
工賃以外にも見えないメリットはたくさんあるけれど、箱を折るなど一日作業する報酬として高いか安いか?
その問いを考えると、とても違和感があった。
実際は色んなことが絡むので、高い安いでは判断できないだろうが、障害の有無にかかわらず一生懸命働くことに変わりはない。
障がい者アートを通じて働いた分は、しっかりと還元できるようにしたいと思いました。
アート作品には障害があるもないも関係なく、それぞれ好みで「いい!」と思うものを購入します。
障がい者、健常者という壁を取っ払うパワーがあるのがアートであり、平等の世界。
なるべくたくさんの人に利用してもらったり、購入してもらうことによって日給800円から上積みしていきたい。
この仕組みを成立させないと作家さんのところまでお金が回ってこないのです。
では、どう具体的な形にするか。
作家の作品に対して価値がつくために、お客様にとってどのような作品をどのように売るのがよいのか。
広告会社である自分たちの強みをどのように活かして障がい者アートというものを伸ばしていけるのか。
そのためにどのようなことができるのか、あらゆる検討をしました。
その結果、「Cont」と「naNka」の強みを生かしてワンストップでプロデュースしています。
企画制作 → ブランディング → 販売・流通 → プロモーション
例えば、企業とオリジナルのグッズをつくる。
伝統工芸も後継ぎが少なくなっているので、障がい者アートだけでなく伝統工芸を次の世代に残すようなことが一緒にできないか。
農業で野菜を一緒につくったりも障がい者アートと一緒にできないか。
そういったことを考えながら自由度をあげていきたい。
アイデアはたくさんあります。
障がい者アートの取り組みではTシャツやマグカップを販売したりするところも。
そういう取り組みも大事だが、「naNka」は物を売るだけでなく、企業やお店の課題を解決しながらそこに障がい者アートを組み込んでいくスタイルで進めていきたい。
自治会、地域社会と一緒にやることも考えることができるし、企業には「naNka」をたくさん利用してほしい。
ここ数年でSDGsをはじめ、「企業が社会のためにどういうことをするのか?」が問われる世の中になってきている。
これまでは売り上げをあげて、従業員が幸せであればそれでよかった。
しかし、現在は「企業が社会のためにしていることは何か?」が重要になった。
社会福祉に対しても会社がどのようなスタンスでいるのか問われる時代。
大きく世の中が変わってきているが、とても良い流れだと思う。
「naNka」と一緒に取り組むことによって企業のプラスイメージにつながる。
社会貢献の実現につながれば障がい者アートの作家にとってもプラスになり、「naNka」の活動の活性化になると大歓迎しています。
プロジェクト提案型のスタイル 観光×障がい者アート
ここ一年でやったこととして別府でマスクケースを作成しました。
印刷のコーキング技術を活かして高山活版社に協力してもらいました。
なぜマスクケースだったか?
もちろんコロナだからです。
食事するとき、マスクを置く場がない。
なにもない殺風景なマスクケースではなく、別府らしい「おもてなし」を表現したマスクケースであれば、それを見た人が少しでも喜んでくれると考えました。
「naNka」の作品は複数の作家の作品をミックスしているのが特徴です。
作家それぞれの作品を組み合わせてデザイナーが一つの作品に仕上げます。
障がい者と障害のない人が一緒になって作品を作る。
このプロセスに大きな意義があります。
複数の作家のデザインしたパーツを活用して一つの作品にするのもContがデザイン会社だからこそできたことです。
「障害があるとか、ないとか関係なく、一個のいいものつくろーや」で想いが一つになった。
まさに、これがやりたかったことです。
誰に、どこで使ってもらうか?
広告会社がやっている強みとして発信力があります。
どのような取り組みをしているかのPRが得意です。
「こういうことをやりました!」と伝えたり、別府市にマスクを寄付をすることで別府市長にも会えました。
さらに、そのことを新聞社に取材してもらい、広く知ってもらう機会になりました。
せっかく良いことをして、良いものができても内輪で満足するのでは、世間には知られないままです。
情報発信をすることで、多くの人に知ってもらえる。
知ってもらうことで世の中の人に届けることができる。
「naNka」の新聞記事を見て、多くの問い合わせがありましたが半分以上が個人からでした。
縁もゆかりもない人だけど、活動に共感して、支持してくれる。
「世の中捨てたもんじゃないな」と実感しました。
ネット社会でありながら新聞の記事で問い合わせがある。
応援しあう社会がまだあるということが嬉しかったです。
背中押された尾畠さんの言葉
一人の作家がスーパーボランティアの尾畠さんに絵をプレゼントして交流がはじまりました。
別府公園でギャラリーをやった際、尾畠さんが見に来てくれたんです。
尾畠さんは開口一番「良い活動しているねぇ。こういうのは動いたヤツがえらいんだよ」。
その一言に僕は背中を押されました。
実は当時、自分自身「naNka」の活動の賛否の声に対して迷いを抱えていました。しかし、「やることが大事だから、やるってことだけで価値だから」と言う尾畠さんの力強い言葉のおかげで道が定まりました。
ボランティアにしても、障がい者アートにしても、この発信コレジオにしても、自分たちができることをやること自体が素晴らしいと思います。
やり方に関しては「naNka」も「発信コレジオ」も改善点はあるかもしれない。
でも、やらないよりは下手くそでも一生懸命やった方が凄いんです。
「批判は誰でもできるが、自分たちができることをやることが素晴らしい」。
やらないよりはできることを一生懸命やるだけでいいと思えるようになりました。
それでは別の事例を紹介します。
別府のマスクケースを知ったお医者さんから「クリニック開院に合わせてオリジナルのマスクケースを配りたい」との依頼をいただきました。
クリニックのコンセプトが「家族みんなが安心して通えるファミリークリニック」。
みんなで一生懸命取り組んで、キリンをモチーフにした作品に仕上がりました。
また、次に、そのマスクケースのキリンの絵を見た調剤薬局さんから「その絵を飾りたい」と依頼がありました。続いて、すぐに「調剤薬局の前にシンボルになるようにキリンのオブジェを作ってほしい」という展開になりました。
わらしべ長者のようにつながったのです。
4か月かかって制作
作家さんには当然、勢い・ノリ・集中力にムラがあったり、作業によって好き嫌いなどもあります。
それぞれの体力や体調、ペースが異なるのは当たり前。
急かしてもしょうがない。主役はアーティストなので、できないものはできない。
ただし、納期はもちろん守らないといけない。
どうしたらいいかを考えるのはContのデザイナー側の責任で調整しています。
キリンのオブジェをご依頼いただいた調剤薬局の社長さんにも「今後もこのような取り組みを応援していきたい」と喜んでいただけました。
障がい者アートの裾野が広がっていければ良いなぁと思っています。
他にもハウスメーカーに施主プレゼントに障がい者アートを活用いただきました。
こちらも複数の作家さんの作品を組み合わせて作製しています。
また最近では、別府鬼山ホテルさんから「お土産物屋のシャッターに絵を描いてほしい」という依頼も来ました。
「別府らしい絵で、SNSにも映える絵を地域の人と一緒に」という要望でした。
このお話を聞きつけたテレビ大分が取材し、24時間テレビで紹介されたことで大きな反響がありました。
マスクケース→クリニック→薬局→キリンのオブジェ→シャッター壁画と広がった展開。
インターネットとかがあっても、結局は人と人の「縁」と「つながり」が大切だと再認識しました。
この発信コレジオも同じです。
小さな縁が次につながるといいなぁと思っています。
マンションギャラリーでの展示
株式会社ベツダイさんが手がけた別府市のマンションギャラリーにアート作品を展示していただきました。
今後は海外へ展開していきたいです。
どこの国の人が描いても「いい作品はいい作品」として評価されるアートだからこそ、できると思っています。
それに、ハンディキャップのある方は世界中どこにでもいる訳ですから。
さらに言うと、究極的には「障がい者アート」という言葉を早く消したい。
なぜなら、単純に「健常者アート」という言葉はないから。
「障がい者アートだから」という前提は近い将来無くしたい。
「障害があるから・ないから」という発想ではなく「いいものはいい」という社会にしていきたい。
例えば、1回目はボランティアの気持ちで買ってもらったとしても、事業としては続きません。
いいものであれば2回目3回目と買ってくれるはずだし、良いものだと次につながると思います。
この活動を続ける中で、コロナもあったりで、今まで自分たちがやってきた価値観や生き方と真逆のことが起きたりしています。
ずっと「大事だよ」と言われてきたものが、そうではなくなる中で「答えは一個じゃない」とつくづく感じています。
「これさえしておけば間違いない」みたいな正解は一つではない世の中になっている。
いくつもの正解があってもいい。
私たちも自分たちなりの正解を探して取り組んでいきたい。
お話は以上です。
今日も発信コレジオでのご縁が何かにつながると、とっても嬉しいです。
ありがとうございました。
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