かなた 『Kindar garten』 (秋田県)
中学1年の時に付き合っていた村岡さんとは、ぼくの転校がきっかけとなって別れることになる。父の仕事の都合でぼくは東京から山形へ。ときどき手紙を書くね、と村岡さん。うん、と、ぼく。公園のベンチでクールにうなづいたはいいけれど、どうでもいいからキスしたかったのを覚えてる。
村岡さんは美人なうえにスタイルもよく、スポーツもできて頭も良くて明るくて手先も器用、女優を目指すと言って中学では演劇部に入った。そんな村岡さんから届く手紙はたくさんのイラストと言葉で埋め尽くされたポップでカラフルなタブロイドのような作りで、転校先の校則で丸刈り頭になったぼくには眩しすぎた。眩しいから月の明かりの下で読んだ。最近のできごとベスト3。最近食べたもの見たもの読んだもの。クラスのおもしろいひと紹介など、その無邪気さが悲しいくらいによくできていて、彼女の東京での暮らしと、ぼくの山形での暮らし。そのギャップに手紙を涙で滲ませた。
さて、
秋田からエントリーの かなたさんの ZINE『Kindar garten』は、0歳〜1歳の間だけ住んでいたアメリカ(もちろん記憶はない)で母親が買ってくれたおもちゃやビデオ、絵本、お菓子など、今となっては宝物のようなものたちを愛に溢れたポップなイラストとテキストで紹介した手のひらサイズの1冊。日本に戻ってもその宝物は、彼女の感性を育み、影響を与えてきた。そのセンスの賜物か、圧倒的なレイアウトのセンス・イラストレーション・カラーリング・テキストどれをとってもすばらしい完成度。見れば見るほどていねいで細かな手仕事が詰まっていて、ドキドキする。パソコンでの作業が当たり前になったいまだからこそ、特に編集者やデザイナーに見て欲しい。
バーニー&フレンズ
ファービー
リチャード・スキャリー
チートス
クエーカーオートミール
このあたりでピンと来たひとには特にたまらない。けど、知らなくたってじゅうぶんに楽しめる1冊。
この ZINE を手に取ったお客さんのひとりが言った『学年で1番センスがいい女子が作った学級新聞』という感想に(冒頭の恋人)村岡さんフラッシュバック。うっかり胸が詰まりそうになったけれど、いやいやこの ZINE は学級新聞なんてクオリティじゃない。けれどぼくの思い出の中のタブロイドはこんな感じだったなあと思いながら、小さな頃の思い出は形があってもなくても大切な宝物だし、語り出したら止まらないなと再確認。
自分の宝物を記録するという行為も ZINE というメディアにおける大切な作業。ZINE を作るきっかけを探しているひとは参考に。
ー Written by 加藤 淳也(PARK GALLERY)
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エントリー 秋田
かなた / 会社員
ポップと地味の狭間をさまよう20代半ば。東欧好き。