こばやし まい 『コーヒーのはなし』 (富山県滑川市)
ぼくが高校生の頃に所属していた演劇部では代々、先輩から『喫茶店文化』が受け継がれる。ある日、数人が先輩に連れられてそのジャズ喫茶へ行くのだ。席も決まっていて、必ず入ってすぐ右のボックス席。店の外から覗いても見えない位置にある席だからたばこが吸える。コーヒーとたばこ、それにジャズと演劇論さえあれば何時間だって居ることができた。時にジャズの音が大きくて口論がヒートアップして行くこともある。『先輩のその考え方は違う!』と反論すれば『お前は甘い!』とねじ伏せられる、そして『お前らうっせー』とマスターに怒鳴られて試合終了。これが毎日のように繰り広げられる。先輩が卒業すると今度はその喫茶店が『ぼくら』の城になる。気に入った後輩を連れて、また喫茶店へ通うのだ。
簡単なルールがある。
・学ランを脱ぐ
・コーヒーを頼む
・まずはジャズを楽しむ
・演劇の話をする
・親に心配かけない時間に帰る
・お酒は飲まない
今でもその店は残っていて、時々帰省した時に、当時の仲間を呼び出してそこでコーヒーを飲む。昔と違うのは、演劇の話をしなくなったこと。と、2杯目にビールを頼むようになったこと。
コーヒーにまつわるエピソードならテーブルに置かれた角砂糖の数くらいならある。
富山から届いた ZINE は こばやしまい編集『コーヒーのはなし』。コーヒーの詩、コーヒーを飲み始めたエピソードや余談などをまとめたシンプルなコーヒーの本。1杯のコーヒーを飲み終えるくらいには読み終えることができるボリュームも心地が良い。そしてうっすらと頭の中だけに漂うコーヒーの香りがいい(ZINEからコーヒーの香りがするわけではないよ)。
ぼくは実はあまりコーヒーを飲むこと自体が好きではなく、コーヒーを頼んで運ばれてきた時がピークだと感じるタイプ。例えば家なら豆を挽いてる時間がピークと感じるタイプ。つまらない男。でもコーヒーが好きなひとが好き。
昔好きだったひとがコーヒーが好きで、その彼女の言った言葉で忘れられない言葉がある。
自分で淹れるコーヒーよりも誰かに淹れてもらったコーヒーの方がおいしい
その時はあまりピンと来なかったけれど、別れてからわかった。
こんな風にコーヒーにまつわるエピソードなら悲しいくらいある。みんなもきっとあると思います。
誰の目も気にしないで、下手でも変でもいいから、ただ自分が思ってることや書きたいことを書きたかったので。ー こばやし まい
ZINE の真髄とも言える感覚を彼女のメッセージの中に見る。下手でも変でもなく、とても上手にまとまっている。
お気に入りの喫茶店で仕事のことを忘れて、ゆっくりとコーヒーが飲みたくなる1冊です。1杯(1冊)150円。おすすめです。
ー Written by 加藤 淳也(PARK GALLERY)
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エントリー富山県
こばやし まい
ZINE 作家
ZINE 好きのためのゆるすぎる同好会「zineと、」をやってます。不定期にかなりゆるく活動しています。