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【Color The World】これからのファッションと私たち~身近な衣服に潜む知られざる問題~
はじめに、当記事はファッション業界が抱える問題について取り上げていますが、ファストファッションなど特定のジャンル・ブランドを否定するものではありませんので、ご了承くださいませ。
皆さんは普段どんなところで洋服を購入していますか?
オンラインストアやフリマアプリなどネットサービスを利用している方も多いのではないでしょうか?私もその一人です。
現在は店舗のEC化やSNSの普及によって、オフライン・オンラインの両方で買い物が出来るようになっています。いつでも気軽にWEB SITEからお気に入りのアイテムをチェック出来るのは便利ですよね。
また、ファストファッションや二次流通の発展も目覚ましく、今話題のアイテムやなかなか手に入らない過去のレアアイテムを比較的安価かつ迅速に入手することが可能になっています。
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画像引用:ecclab
このように、ファッション、特に購買の選択肢が多角化した現代では、ライフスタイルやパーソナルに沿った行動を選択すること出来ます。
技術や産業の発展に伴い便利な側面を持つ一方で、皆さんもご存じのように環境問題や労働問題の深刻性が各種メディアにて日々叫ばれているのも事実。
最近は、SDGsやサステナビリティなどの社会的浸透によって、職場や学校など日々の生活の中で「持続可能な社会」のといった類いの言葉を目にする機会が増えましたよね。持続可能な社会を目指して、企業や行政、そして私たち生活者がそれぞれ出来ることを実践して社会としてより良い未来にアクションしています。
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しかし、暮らしを形成する上で欠かすことの出来ない「衣食住」の一つである「衣服」を支えるファッション業界においては、特に持続可能性だったり、サステナビリティの重要性が叫ばれています。
先ほども少し触れましたが、ファッション業界は着る人の人生を豊かにしている一方で、環境問題や労働問題などいくつもの深刻な業界問題を抱えている業界でもあるんです。
ニュースなどのメディアで何となく知っているという人もいると思いますが、ここからは分かりやすく数字と共に見ていきましょう。
朝日新聞社の記事によると、国連貿易開発会議(UNCTAD)の報告ではファッション業界は1位の石油産業に次ぐ「世界2位の環境汚染産業」であると指摘されています。
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画像引用:AFP BB News
環境に負荷を与えている産業として、製造業やエネルギー、輸送などインフラを支えている産業を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、ファッション業界が与えている環境負荷はそれらの産業よりも多いのです。
意外とこの事実は浸透しておらず、初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。
ファッション業界が与える環境負荷の具体的数値としては、株式会社矢野経済研究所が行なった「令和2年度製造基盤技術実態等調査」を参考に見ていきましょう。
これによると、ファストファッションの台頭により世界の消費者が買うアパレルの量は20年前よりも約400%増加していて、それに伴い世界の二酸化炭素の排出量の10%・ランドフィル(埋立地)の5%・地球上の水汚染の20%はアパレル業界の活動に起因していると報告されています。
世界の全ての経済活動の中でもこの数値を示しているわけですから、いかにアパレル産業が環境に負荷がかかる産業であるかが分かりますよね。
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画像引用:日本オーガニックコットン流通機構
そして実はファッション業界が抱える問題というのは環境問題だけではありません。
ファストファッションブランドがなぜあれほど安価な価格提供を実現出来ているのかというと、一つの理由として人件費を安く抑えているという点があります。
安い賃金や正当な労働契約を結んでいなかったり、ずさんな労働環境で労働を強いられている事案として、アパレル業界史上最悪の事故とも言われる「ラナ・プラザの悲劇」やウイグル自治区での強制労働問題などが挙げられます。
これらの出来事が労働環境や待遇の是正を求める契機となり、現在も人々の記憶に残り続けている出来事です。
上記のような世界的な事案や事例が度々発生しているファッション業界ですが、いまだ根本的原因の改善は出来ていない状況にあります。
ラナ・プラザ(縫製工場が入ったビル)が位置していたバングラデシュでは、防災対策が行なわれていない劣悪な環境のもと格安な給料で労働を強いる下請工場が多数存在するとされていて、週6日・朝8時から夕方 5時までの勤務を1ヶ月続けても、もらえる給料は日本円で約4000円ほどだと言う人が多く存在します。
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また、中国政府がウイグル人に対して職業訓練として行なった強制労働は人権を脅かす国際問題として発展し、多くの注目を浴びました。
世界中で販売されている綿製衣類の5枚中1枚は新疆ウイグル自治区で生産された綿や糸が使用されていて、これらの綿製衣類がウイグル人への厳しい抑圧と強制労働によって作られていました。
この事実と共に発覚したのは、世界大手ブランドがウイグル人への厳しい抑圧と強制労働によって作られたという事実を知らずに販売を行なっていたとうことです。
新疆ウイグル自治区の豊かな資源に依存していた世界大手アパレルメーカーは、自社製品が中国政府による強制労働によって作られているものと知らずに販売しており、自社の供給網の管理不足が露呈しました。
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このようなデモや関係メーカー・ブランドの不買運動が世界各地で発生した
画像引用:朝日新聞デジタル
国際的な労働問題が発生する度に、業界の指針などが見直されてきたファッション業界ですが、問題は現在も起こり続けています。
渦中の存在として知られるのは、若者を中心に大流行している「SHEIN」。そんなウルトラ・ファストファッションと称されるSHEINが深刻な労働問題と環境負荷を与えていると噂されています。
AIを用いた最短3日の驚異的なリードタイムを誇る生産体制やインフルエンサーを活用したビジネスモデルなど活気的な手法が目立つ一方で、生産ラインでは労働者のほとんどは雇用契約書を交わしていないとされています。
イギリスの報道局の調査によれば、1日18時間労働・1着につき6円の報酬・週7日勤務、80%以上の下請 け工場は防災対策が行われていなかったり、労働時間に対する顕著な違反など、驚異的安さと商品展開の早さの裏に潜む実態が報じられています。
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ここまで取り上げたのは今までに起きた事例のほんの一部で、世界中には厳しい労働環境で仕事に従事している人や管理不足によって発生している事故や環境汚染がまだまだ存在しています。
では、なぜSDGsや過去の事例からの改善策が実施されてきても止まること無く環境問題や労働問題といった数々の問題が起こってしまうのでしょうか?
これにはファッション業界の構造が深く関係しています。
ファッション業界は、素材となるコットンやウールなどの生産から製品を店頭で販売するまでの大きな流れを「サプライチェーン」と呼んでいて、私たちの手に渡るまでに多くの人が一つの衣服に携わっています。
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画像引用:経済産業省製造産業局生活製品課
上の画像は、国内ファッション産業のサプライチェーンを表した画像ですが、国内市場だけに留まらず、生産拠点を海外に置いたりと多角化が顕著な現在のファッション業界においては、今まで以上に長く複雑なサプライチェーン構造になっているのです。
国内小売り市場で販売されている衣料品の約98%を海外から輸入(2021年の国内アパレル市場における輸入浸透率は98.2%)しているんですから当然、生産に携わる人も増え、アパレルメーカーやブランドの規模が増すほどサプライチェーンは肥大化し、一つの衣服に対して何百人もの人が携わっているということも当たり前となっています。
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この長く複雑なサプライチェーンが問題解決の障壁となっているのです。
問題が発生したセクションを遡るべく、トレーサビリティーを実践しようとしてもここまで肥大化したサプライチェーンでは、企業や商社は自らのサプライチェーンを完全に把握することが不可能となっています。
このことは、国際NGO団体のHuman Rights Watch 中国部長を務めるソフィー・リチャードソン氏をはじめ多くの人が公言しており、アパレルメ ーカーは全てのサプライヤーを把握出来るのかさえ分からず、売り出している製品に対して自分たちが使っている原材料がどこからどういった経緯で来ているのかさえ把握することも難しい という状況にあるのが現在のファッション業界の実状です。
問題の所在は、作り手の生産者だけではありません。
私たち消費者にも見直すべきポイントがあります。
ファストファッションという言葉にもあるように、より”安く多く”の衣服が手に入れられるようになった現代では、国内における供給数は増加していて、年間平均で一人あたり18着の衣服を購入しています。
市場規模がバブル期の15兆円から10兆円に縮小しているのに対し、世界の消費者が買うアパレルの量は20年前よりも400%増加しているんですから、いかに消費者の間で「より安く多く買う」というスタイルが定着しているかが分かりますよね。
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ファストファッションブランドは流行性を取り入れたアイテムを安価で提供している点がセールスポイントの一つですから、シーズンの過ぎた衣服はクローゼットに眠り、新作を買い求めるといったように人々の消費サイクルは激化しています。
その結果、年間平均で一人あたり18着の衣服を購入しているのに対し、手放す衣服は約12枚。一年間一回も着られていない服が一人あたり25 着も存在するという状況にあります。
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より安価で多くの衣服を買い求める消費行動が、より多くの服を生み出し、消費サイクルの促進やより多くの資源の消費に拍車をかけているのです。
今や私たちの暮らしに当たり前の存在となったファストファッション。
企業はこの熾烈な価格競争を生き抜くために、様々なコストを削り、私たちに多くの衣服を提供してきました。
そして消費者は、無意識的に安くより良い物を多く求めるようになりました。
つまり、今のこの状況を作り出したのは作り手と受け手双方の姿勢と態度が生み出した産物という捉え方もできます。
では、これからファッションを楽しむためには、私たちはどう歩んでいけばいいのでしょうか?
➢➢➢次回へ続きます
【参考資料】
・ECCLUB ECサービスカオスマップ2022 - アパレルECサイト編
・日経XWOMAN 「世界第2位の環境汚染産業」アパレルをどう変えるか
・朝日新聞 世界2位の環境汚染産業 ファッション業界の地殻変動 繊維製品の回収も拡充へ
・AFP BB News 砂漠を汚染する「ファストファッション」 廃棄した古着から有害物質 チリ
・株式会社矢野経済研究所 令和 2 年度製造基盤技術実態等調査(繊維産業のサステナビリティに関する調査)
・NOC 日本オーガニックコットン流通機構 ファッション産業が知るべき水について10のこと
・WWD JAPAN 死者多数の事故「ラナ・プラザの悲劇」から6年 バングラデシュの労働環境は改善されたのか
・長田華子 『990円のジーンズがつくられるのはなぜ?』
・FASHION NETWORK バングラデシュのアパレル工場、8割以上が安全 政府が発表
・オーストラリア戦略政策研究所(Australian Strategic Policy Institute ) 売り物のウイグル人-新疆地区を越えての「再教育」、強制労働と監視-
・朝日新聞 DIJITAL ウイグル問題で捜査、不買運動で業績打撃…アパレル難局
・東洋経済ONLINE アパレル初!謎の1兆円未上場企業「SHEIN」の正体中国発!Z世代を引きつける「理由」と「課題」は
・Public Eye SHEINのための苦役 中国「ウルトラ・ファストファッション」最大手の輝かしい外観の裏側を探る
・経済産業省製造産業局⽣活製品課 繊維産業のサステナビリティに関する検討会報告書 〜新しい時代への設計図〜
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング 国内外における繊維産業における責任あるサプライチェーン管理の実態について
・環境省 SUSTAINABLE FASHION