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美術館との「初めての出会い」を問い直す―ちひろ美術館・東京 インクルーシブデザインワークショップレポート

はじめまして!Collableインターン生のりなです。Collableのnoteでは今後インターン生もさまざまな記事を投稿していきます。よろしくお願いします!

 2023年9月22日(金)にCollableがちひろ美術館・東京で行ったインクルーシブデザインワークショップにスタッフとして参加しました。この記事ではワークショップで発見した課題や個人的に面白かった気づきをご紹介します。

今回の取り組みは、ちひろ美術館・東京や、練馬区内の図書館や美術館、地域の子育て支援団体、就労支援団体によって構成されている「『みる・よむ・体験する』ねりまフォーラム」による取り組みです。

ちひろ美術館には”子どもたちが初めて訪れる美術館”として、「ファーストミュージアム」というコンセプトがあります。展示はこどもでも眺められる高さ(135cm)に設計され、静かな声でなら、一緒に行った人と感じたことを自由に話すことを大事にしています。他にも子どもや保護者が楽しめる工夫があり、どの年代の人でも安心できるような温かみのある美術館です。

また、ちひろ美術館・東京は、いわさきちひろさんが最後の22年間を過ごし、数々の作品を生み出した自宅兼アトリエ跡に1977年に建てられました。その後2002年9月に、その雰囲気を残したまま、全館バリアフリーの建物として生まれ変わりました。

一方でちひろ美術館のみなさんは、どうしたらより多様な人たちが訪れてくれる場所になるのかを考え続けています。そしてバリアフリーになっても、届いていない人たちは誰か?ということを問い続けており、その問いを深めていくべくご一緒させていただきました。

こうして設定されたワークショップのテーマは
「あらゆる人にとってのファーストミュージアムとは?」

現在ちひろ美術館がコンセプトとして掲げる「ファーストミュージアム」は子ども目線でのファーストミュージアムですが、「美術館との初めての出会い」は人それぞれですよね。だからこそ改めて、「ファーストミュージアムとは何か」を再解釈するところから始まり、あらゆる人が初めて訪れるミュージアムには何が必要で、どんな空間・活動・人・モノがあるとより理想的なのか?を深堀りした一日でした。

今回のワークショップは、以下のリードユーザーを含む3つのグループで取り組みました(各グループ5~6人)。自分と違う特性を持つリードユーザーと共に探求することでみつかる新しい発見があります。今回はリードユーザーを誰にするのか?という問いをねりまフォーラムのみなさんで検討していただき、ちひろ美術館におけるリードユーザーを定義し、実施いたしました。

Aグループ:日本に住む外国(欧州)にルーツを持つ方とそのお子さん
(NPO法人 青少年自立援助センター YSC Global Schoolのご協力でコーディネーションしていただきました。)

Bグループ:視覚障害がある男性(Collableの認定リードユーザーであるユウジさんにご協力いただきました!)

Cグループ:車いすユーザーの大学生(今回はCollableのインターン生であり、電動車いすユーザーのぺーくんに参加してもらいました!)
私はCグループのメンバーと一緒に取り組みました!

テーブルのうえに大きな模造紙とたくさんの付箋が貼られている様子です。写真からは3人の手元が見えていて、2人が向かい合わせで同じ箇所を指さしています。奥にはお菓子を入れたお皿も見えます。
Cグループの活動の様子です

今回のワークショップの流れは以下の通りです!


1.自己紹介+「生まれてはじめて訪れたミュージアムは?」

まずはグループごとに自己紹介をした後、自分のファーストミュージアムはいつ・どこだったのか、そのときに何をしたのかというお題で話しました。どのグループも必死に思い出そうとしていましたが、これがかなり難しかったです。小さいころの記憶をはっきりと覚えている人もいますが、感動したことやショッキングな思い出以外は大体忘れてしまいますよね。実は私も全然覚えていませんでした。(笑)こうした「ファーストミュージアムの記憶は残りにくいよね」ということに気づくことも、この時間では大切だと感じました。

ということで、私たちが思い出せたなかで一番古いミュージアム体験をいくつか共有すると、以下のような傾向にありました。

  • トラウマに残るもの、衝撃が大きかったもの(骸骨や妖怪が描かれた展示作品、戦争の記録など)

  • 教育として親に連れてこられた・学校の社会科見学で訪れた

  • 内容はそんなに覚えていないけど、当時買ったお土産を今でも持っていて思い出せた

トラウマに関しては、私も小さい頃に人間の頭蓋骨が出てくる作品をみて夜寝付けなくなった時期があって、その時の記憶はよく残っています。しかし「芸術作品」には、過激さを目立たせることが目的の作品もあり、怖いから良くないというわけでは決してありません。

例えばこうしたエピソードから、もしも一生に一度のファーストミュージアムが、その人にトラウマを植え付けるようなものだとしたら、その後もミュージアムに対してマイナスイメージをもってしまうかもしれない!それはもったいないのでは!?という議論にもなりました。

他にも、ミュージアムに訪れた際の展示内容は覚えていないけれど、「体験」としてミュージアムの記憶が残るツールとして、お土産は大事な要素なのだなという気付きも得られて、展示物以外にも「ファーストミュージアム」を構成する要素が見えてきました。

2.「ファーストミュージアムってどんなものだろう」

1つめの問いから浮き彫りになった「こんなファーストミュージアムは嫌だ」という観点も活かして、はじめて訪れるミュージアムの理想について考えました。そもそも、ミュージアムは誰もがこども時代に訪れているわけではなく、大人になってからはじめて訪れる方もいますし、まだ人生で一度も行った記憶がないという方もいるはずです。それを踏まえたうえで、誰にとっても良いファーストミュージアムとはどういうものなのか悩みました。

例えば、ミュージアムが好きになるきっかけを作りたいのであればストレスを与えるような不安要素は取り除きたいですよね。私たちのグループでは「もう一度訪れたいと思える安心感」をつくりだすためには具体的にどのような要素が必要なのかという話になりました。

その安心感を実現するために必要なポイントを3つに整理してみました。

  • 混みすぎていない、狭すぎない

  • 時間の制限がない、好きな時に休憩できる

  • 自分の世界に入り込める

当たり前のようですが、快適な時間を過ごすためには必要な観点ですよね。ぺーくんのように車いすを利用する方は特に、館内の広さ・通路の幅が必要で、あまりにも狭い空間だと周りに迷惑が掛からないか気になってしまうそうです。

1日に販売できるチケットの枚数を制限すれば、人ごみでストレスを感じることもなくなるので、コロナ禍に行われていた入場の人数制限を今でもやってほしいというニーズもありました。一方で、来場者制限は美術館の収益が減ってしまうので、その判断も簡単にはできないのではとも感じます。

3.ちひろ美術館の館内鑑賞+気づきの共有(振り返り)

ある程度頭の中に「理想のファーストミュージアム」をイメージできた後に、各グループでリードユーザーを中心としてちひろ美術館の展示を見て回りました。美術館に入館するところからスタートし、展示室を巡りながら気づいたことを共有し合いました。気づきは見落とさないように、付箋にメモをとりました。

今回私のグループがぺーくんと周ってみて発見したことを3つご紹介します!

①展示品の高さ

冒頭で書きましたが、ちひろ美術館にある壁掛けの展示は、作品の中央が135cmの高さに設定され、比較的低めの位置で統一されています。しかし、ガラスケースに入っている展示など、上からのぞかないといけないため車いすの高さからだと見えずらいものがありました。しかし下げすぎてしまうと、今度は背の高い大人から見えずらくなってしまうため、誰もが見やすい高さに調節するのは難しそうでした。似ている展示を別々の高さで用意したり、モニターに映して別の高さに展示したりするというアイデアが生まれて面白かったです。

②休憩用ベンチの位置

ちひろ美術館にはご高齢の方も多く訪れるため、各展示室には必ず一か所座れる場所が用意されていました。「せっかくなら展示を眺めながら休憩できるように」という意図から、ベンチは部屋の中心に設置されていました。しかし、私がベンチに座った状態でぺーくんに前を通ってもらったところ、車いすの向きを変える幅の余裕がないことに気が付きました。ベンチの場所を壁際にすると、車いすやベビーカーも通りやすいのではないかと思いました。一方で、窓際にベンチを置いても景観の問題もでてくるかもしれません。ベンチ1つとってもいろんな試行錯誤ができそうです。

電動車いすを後ろから撮影した様子です。記事内で触れた、展示室中央にあるベンチに座って見ると、ちょうど電動車いすの後ろ側が私とぶつかりそうになるほど狭い様子です。
(座っている人がいると通行するのも難しいかも?)

③視界の確保

壁掛けの作品を鑑賞するために一度壁を向くと、車椅子に乗ったぺーくんは後ろが全く見えないため、下がりづらいという不安要素がありました。同様に、展示の仕切りによって曲がり角の先が全然見えない場所もあって、小さいこどもが歩いてきたりすると危険ですよね。
もし壁が鏡張りだったら後ろが見えますが、「他の来館者と目が合ってしまうと気が散ってしまいそう」という意見もありました。
鏡の利用自体は良いアイデアなので、例えば貸し出し用の手鏡を用意すると良いのかもしれませんね。車いすに取り付け可能なタイプで、少し大きいものを用意できると助かるかもしれません。

実際に館内を歩いてみると、電動車いすユーザーのぺーくん視点の不安要素に気づくことができました。 複数の展示が一つの作品として繋がっている作品もあって、それらを順番に鑑賞していくためにも、移動のしやすさはとっても大事な観点だと気づかされました。

4.「どんな場所がファーストミュージアムとして相応しいのか」

鑑賞を終えた後、ワークショップの前半で考えた「どんな場所がファーストミュージアムとして相応しいのか」というお題について、さらに深堀りしました。バラバラに生まれた気づきをアイデアとしてまとめる活動です。最初に描いたファーストミュージアムのポイントとも照らし合わせながら議論していきます。

私のグループもこれまで沢山の意見を出し合ってきましたが、最終的には
自分のペースを守れることを大事にしたいという意見に行き着きました。他の人や設備に邪魔されることなく、自分が見たいものを安心して好きなだけ見られる場所が、ファーストミュージアムとして相応しいという考えです。

私が今回ミュージアムの理想として、個人的に面白いと思ったキーワードは「人の程よい存在感」でした。例えば、作品の鑑賞中に人と目が合ったら気まずいと感じたり、そもそも人が多すぎると作品まで辿り着けなかったりします。せっかく作品を鑑賞していてもすぐ隣に人が来たら、先に進まないといけない焦りが生まれるという話もでてきました。

逆に、完全に姿が見えないと、車いすと歩いてくる人と接触することもあり得ます。作品鑑賞に支障をきたさないように「人の程よい存在感」を確認できる施設づくりが必要なんだと思いました。ちひろ美術館を周りながらぺーくんに様々なパターンを提示してみて、どれくらい人がいると気になってくるのかをメンバー全員で興味津々になって聞いて、研究員になった気分でした。人が見えすぎても気になるけど、見えないのも不安になるという感じ方には個人差があります。理想のファーストミュージアムを考えるにあたって奥深いと感じる観点でした。

付箋が12枚並んでいます。「自分のペース守れること」と書かれた付箋を中心に、周辺にそれらを構成しうるポイントになりそうな付箋が貼られています。石畳ガタつく、気を使わないで済む、人の程よい存在感、貸出用手鏡、一度外に再入場、つかれる・あきる・こどもにとっての休憩スポットがあるとよい、解説の別刷りあるとよい、見やすい展示の寮、いすは窓際にあるといいかも、など。その下に3まいの付箋があり、自動ドア理想はセンサータイプ、環境(明るさ、湿度)・快適な・ストレスがない・いることに抵抗感がない、ということが書かれています。
Cグループが作成したまとめです

5.発表会

これまでの活動を通して思いついたこと考えたことなどを書き出した付箋を一枚の模造紙にまとめ、全体に発表する準備を行いました。どのグループもリードユーザーの方から得た情報をもとにファーストミュージアムの在り方を定義しており、今のちひろ美術館をさらにアップグレードさせるための具体的なアイデアを聞けました。他のグループの様子は今回ご紹介できませんでしたが、最後の発表会を見ても、それぞれのグループで出た観点が異なっており、個性が溢れていて面白かったです。
長くなりましたが、今回の体験記は以上で終わります!

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これからもCollableはワークショップを定期的に行う予定です。もしご興味のある方がいましたらインクルーシブデザインワークショップの活動報告記事も覗いてみてくださいね!

インクルーシブデザインやインクルーシブなプロジェクトなど、ご相談は以下のページよりお問い合わせください。


今回の執筆者プロフィール画像:りな、インドア派な大学4年生。

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