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オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈海外おたく編〉

Yakisoba falling out of his pockets

 同僚でアニメフリークのジャコビーは、同じアルバイト先でサーバーをする傍ら、ロゴデザインや一枚絵を請け負うイラストレーターとしても活動している。彼と話していると、やれあの映画は面白いだとか、あのイラストはここがスゴイだの、馴染みのある「おたく的」会話にたいてい発展するので、大学の漫研で同人誌を作るなどしている私からすれば、それは安寧のひとときとなっていた。
 そんな彼が、サンアントニオからオタク友達が来るので、オースティン中のアニメショップを巡りつつ、最後はジャコビー宅の巨大プロジェクターで映画を観よう、と誘ってきた。私は海外アニメオタクの生態を知るため、テキサス大オースティン校のアニメ研究会と連絡を取ってディスコードに入れてもらったほどなので──あいにく夏季休暇で活動は休止したため、一度もまみえることができていないが──それは願ってもない機会だった。

いや、オタクではないです

 当日は現地集合だった、私は気分を高めるために『ヤマノススメ』メドレーを車内で流してから、目的のコミックショップへ足を踏み入れた。入ってすぐの会計レジでちょうど支払いをしていたジャコビーに声をかけると、買ったばかりだというアメコミを数冊紹介された。私はマーベル作品をまったく観たことがないし、アメコミに惹かれたこともないので適当に受け流していると、ジャコビーのオタク友達二人がやってきた。名前を聞きそびれたサンアントニオの彼と、典型的なアメリカ人然としている重量級のマックス。まずはじめに私の関心を引いたのはこのマックスだった。彼の行動すべてが、もはや日本で見ることがなくなった旧世代型のオタクそのものだったからだ。──棚の下部にある商品を吟味するために屈んだとき、わずかに覗かせる臀部の割れ目。美少女フィギュアの前で、「マイ・ワイフ」と連呼しながらスカートを盗み見るそのセクハラ仕草。そして、アニメショップの女性店員とインスタを交換したあとの、「あの娘、おれに気があるよ」という呟き……  それは、かつては秋葉原で大量に目撃できたであろう、メインカルチャーではない文化が生み出す副産物、もはや日本には存在しえない、アニメオタクのイデアと呼ぶべき想像上のクリーチャーに、かぎりなく近かった。マックスを見ていると、なぜだかノスタルジーが心を捉えて、私のサンチメンタリスムに影響した。

おたく・オタク・御宅

 紀伊國屋(アメリカのキノクニヤは、オタクグッズや漫画、ガンプラ、フィギュアで溢れ、アニメイトのような様相をしているのだ)にて、主にサンアントニオの彼が書籍を大量買いしたあと、我々はそのままジャコビー宅へと向かった。ジャコビーはマックスと共同生活をしているらしく、かなり大きな一軒家だ。入ってすぐのベランダには巨大プロジェクターがあり、その前にあるソファに腰を下ろすと、サンアントニオの彼がファイルを取り出し、それを悠揚にめくり始める。そのファイルから二次元美少女のカードを取り出して、「これはどうだ、ジャコビー?」「誰だ、これは?」「ハルヒだよ。コウリンは観たかい?」「クラシックだからね、日本のオタクにとっては必須教養だよ」「ほらな、だから言っただろう? おまえらも観たほうが良いんだよ」……

なにしてるの…?

 どうやら、サンアントニオの彼が大量に持ってきた美少女カード(それらは大半が中国語か韓国語で、日本国内で生産されたものは一つもなかった。イラストも私がツイッター上で拝見したものがいくつかあり、著作権法違反なのはまず明らかだった)のうち、二人が気に入ったものを譲り受けているようだった。私もエヴァンゲリオンシリーズのアスカのカード(裏面は本田雄による『ヱヴァQ』キャラデ表の拡大コピー)をありがたくもらった。

表面はテレビシリーズの版権絵なんだから式波表記はおかしいだろ!

 このあとは、新劇場版の序と破を観終えてから、庵野の初期作──これはダイコンフィルムなどの有名なものではなく、去年開催されていた大型展示にも記載がなかった、私自身もまるで知らなかった四十分ほどのロボアニメだった(とはいえ円形爆発や赤井孝美らしいキャラデなど、庵野作品の特徴を備えてはいた)──を観たあと、解散した。去年尋ねたドイツ各地の閑散としたアニメ市場とは違う、真の越境を目の当たりにして──余談だが、ガンダムウィングやカウボーイビバップなど、なぜかアメリカで局地的に人気な作品の多くは、九〇年代後半の小規模な市場に出回っていたから、など、面白い話もたくさん聞かせてくれた──私は高揚していた。今度は彼らと共にヌードデッサンを行うことになったので、そちらも楽しみにしている。

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